第13話
「ケイ陛下。見てください。あの反逆者が拷問されていますわ。なんて愉快な光景なんでしょう」
ウエアが言うように、ハルがトラック用の巨大なタイヤを引かされている。これは足腰が鍛えられそうだ。僕が今までウエアにノーブル陛下の説明を受けていたあいだずっとタイヤ引きをさせられていたのかな。大変だったろうなあ。
「ケイ陛下。あんな無意味な労働をさせられるなんてつらいでしょうねえ。きついでしょうねえ。あんな重たそうなものをどこへ届けるというわけでもなく、延々と運び続けるなんて気が狂いそうになるんじゃないでしょうか」
ウエアにはウエイトトレーニングの概念がないみたいだ。ウエアの世界は魔法の世界みたいだし、それも当たり前かな。
「それとも、あの輪っかを目的地に届けたら、運んできた張本人のあの反逆者の首にひっかけて、火炎魔法でファイヤーしちゃうんでしょうか。さぞかしすてきなネックレスになることでしょうねえ」
「いくらなんでも、そこまではされないと思うけど」
えぐいことを嬉々として言ってのけるウエアだった。野球選手の育成ゲームにそこまでの拷問機能が搭載されているとは思えない。
「それじゃあ、ほかにはどんな拷問をあの反逆者にほどこせるんですか。やってみてくださいよ、ケイ陛下」
「ええと、どんなトレーニングメニューがあるのかな」
僕がコントローラーを操作すると、ミスからにキツそうなトレーニングメニューが画面に表示された。チームメイトを背負っての階段のぼり、二十キロの砂袋を頭の上に両手で重量挙げみたいに持ち上げてのランニング、手だけでのロープ登り、軽トラックを押すなんてのもある。
野球選手って大変だなあ。ハルも体育の時間ではわりかし活躍してたほうだけど、夏休みの間ずっと僕の部屋でゲームばっかりしていたハルにこんなハードワーク耐えられるのだろうか。
そんな僕の思いをよそに、ウエアがケラケラ笑いながらトレーニングメニューのリクエストをしてきた。
「ハル陛下。これ、これをあの反逆者にやらせてください。この重たそうな荷物を万歳して持ち上げてるやつ。あの反逆者は生きていられるだけで幸せということを思い知らせるために、万歳の格好をさせるのは非常に似つかわしいと思います」
「じゃあ、それをやらせてみようかな」
僕は二十キロの砂袋を重量挙げみたいに持ちげているアイコンを選択した。
そうすると、さっきまでタイヤを引いていたハルが今度は砂袋を頭上に持ち上げたまま走っている。あっ、怖そうなコーチに竹刀でお尻をたたかれている。『トロトロすんな』なんて説教されてるみたいだ。おお、頭の上に持ち上げていた砂袋を頭に落っことしてしまった。砂袋とはいえ、さんざんしごかれたあとだから痛そうだ。
案の定、ハルが頭を抱えて地面をゴロゴロ転げ回っている。あまりの痛みで言葉も出せないみたいだ。そんなハルを、鬼コーチが竹刀でしばきまわしている。いつの時代の野球部をモチーフにしているんだろう。で、そんなん無様なハルを見てウエアがギャハハと笑っている。
「いやあ、こっけいな見世物ですねえ。おや、あの反逆者は急に拷問の内容が変わったので不思議に思っているようですね。少しは頭を働かせてると見えます。わ、こっちに向かってきました。わらわたちがあの反逆者をこの部屋で見物していることに気がついたみたいです。それくらいの知能は持ち合わせていたっぽいです」
「ケイ、助けてくれ。見てるんだろう。お願いだ。俺をここから逃がしてくれ。もうお前のことをこき使ったりしないから」
ウエアがハルをあざ笑っていたら、ハルがゲーム画面の中でテレビに泣きべそでグシャグシャのした顔を押し付けて僕に頼みこんできた。今回はハルのセリフがフルボイスだ。ずいぶんバージョンアップしたなあ。そして、さっきまでキャッキャと笑っていたウエアが突然冷たい顔をしてこんなことを言い出した。
「なに調子のいいことを言ってるんでしょうねえ、あの反逆者は。いままでどれだけのことをケイ陛下にしてきたと思っているんでしょう。それなのにあのくらいで許してもらえると思っているなんて。脳みそがおめでたいにもほどがありますね」
ウエアがそんなことを言っていると、画面に顔を押し付けていたハルがコーチに引っ張られていく。『なに練習さぼってんだ。なめてんのか。やきいれてほしいのか』なんてことを言われてるみたいだ。
「ケイ陛下、そろそろお待ちかねのチートタイムじゃないんですか」
そうウエアに言われて僕は気がついた。ハルの苦しみっぷりが異常なリアリティで描写されていることをのぞけば、ゲーム内容は普通の野球選手育成シミュレーションゲームだな。これにチートが加わるとなれば、いったいどんな残虐行為ができるようになるんだろう。なんだかワクワクしてきた。
「さあ、ケイ陛下。その握っているコントローラーをお貸しください。このウエアがあの反逆者に天誅を加えてごらんに差し上げます」
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