第12話
部屋の光がおさまると、ハルの代わりに女の子が三人いた。クックとアメニティの二人。なんだか雰囲気が険悪だ。そしてもう一人。この子は中世ファンタジー異世界の酒場で踊り子をしてそうな外見だな。グラマラスなクック、ロリ体型のアメニティと比較してモデル体型のスレンダーな美人って感じの女性である。
「おぬしがケイか。わらわはウエアじゃ。料理担当のクック、住居担当のアメニティと来て、わらわは衣装を担当させてもらうで。まあ、よろしゅうしてや」
そんなウエアの自己紹介をされたけど……
「あの、ウエアさん……」
僕の言葉をさえぎって、ウエアが僕の服にケチをつけ出した。
「それにしても、なんやそのセンスのかけらも見えへん服は」
「センス、ありませんか」
ちなみに僕が来ている服は、ジーンズにティーシャツというごく当たり前のものである。
「あらへん、あらへん。おぬしが住んどるこの世界ではどうか知らへんがな、とてもそんな服はわらわが見るに耐えへんわ。ちょっと勝手させてもらうで。もにょもにょ……ほいな」
ウエアが呪文を唱えて掛け声をかけると、僕の服があっという間に中世ファンタジー異世界テイストあふれるものになった。なんか、高貴な衣装って感じだ。と言っても、王様が着てそうなゴテゴテしたド派手な衣装って感じじゃなく。上品な洗練されたシックで垢抜けている感じの衣装だ。
「へえ、いい感じですね、ウエアさん。ありがとうございます」
僕が新しく着せられた服の感じを確かめながらお礼を言うと、ウエアがなんだか僕を凝視している。
「その、どうかしましたか、ウエアさん……」
ガシッ!
ウエアが僕の頭を両手でつかんで、僕の顔をまじまじと見出した。
「な、なんですか、ウエアさ……」
「おぬし、すこしでいいから黙っててはくれんか」
ウエアに言われて、僕は口を閉じていることにした。そのあいだじゅう、ウエアは僕の顔をしげしげとながめている。
「おぬし、さきほどのあの面妖な衣装を着ていた時は、なにやらうすっぺらいどこにでもいそうな顔としか見えておらんかったが……」
「はあ」
ウエアの僕への侮辱にどう反応したらいいかわからなかった僕だった。すると、ウエアが態度を一変させた。
「それがどうしたことじゃ。おぬしがわらわの服を着た途端に、おぬしの顔がノーブル陛下にそっくりに見えてきたではないか」
「ノーブル陛下にですか……」
僕がピンとこない様子だったので、ウエアがいきなり早口で話し始めた。
「なんじゃ、知らんのか。わらわの世界で大はやりの水晶劇場キャラクターのノーブル陛下を。実はおぬしにいま着せたその衣装も、ノーブル陛下の着ている衣装に似せて作ったものなのじゃぞ。真っ先にわらわの頭に浮かんだ衣装がノーブル陛下のものじゃったので、ついついおぬしにもそんな衣装を着せてしもうたが、思えばこれも運命なのじゃな」
「水晶劇場って何ですか、ウエアさん」
耳慣れない単語がウエアの口から聞こえたので、ウエアにその意味をたずねたらこんな返事が返ってきた。
「なんじゃ、水晶劇場も知らんのか。この世界の文明は遅れとるのう。水晶劇場とはな、魔法の占いに使う水晶でいろんな番組を見るものなのじゃ」
ああ、テレビみたいなものか。となると、ノーブル陛下ってのはアニメのキャラクター的なやつだな。そのノーブル陛下に僕はそっくりなんだな。
「そんなことはどうでもよい。おぬし、いや、名をケイと申すのじゃな。ならばケイ陛下と呼ばせてもらえぬか。わらわのことはなんと呼んでもかまわぬから」
「いいですけど。じゃあ、ウエアって呼び捨てにしてもいいのかな」
僕がそう言ったら、ウエアが急にかしこまって僕にひざまづいた。
「おおせのままに、ケイ陛下」
これも水晶劇場のセリフなのかな。
「それよりも、ウエア。一つ聞いていいかな」
「はい、なんなりと、ケイ陛下。ああ、わらわは先ほどケイ陛下のお言葉をさえぎるような粗相をしたのでした。このおとがめはなんなりと」
ウエアが僕に罰を求めている。なんか、面倒な感じだな。
「じゃあ、僕の質問に答えてくれるかな、ウエア。クックとアメニティはなんだか険悪な雰囲気だけど、ウエアはその理由に心当たりがあるかな」
「ああ、そのことでしたら、なんだかずっとゲームの未来や方向性がどうのこうのと言い争っていました、ケイ陛下」
そうだったのか。前回僕がリセットボタンを押したあとも、クックとアメニティはリアルグラフィックがどうの、デフォルメサイズがどうのとののしりあっていたんだな。で、僕の部屋でにらみあっているいまに至ると。リセットボタンでリセットされるのはハルだけみたいだな。
「ケイ陛下。クックやアメニティなんかはほうっておいて、ケイ陛下にたてついたあの逆賊が反乱の罪を償っているところをこれでもかとたんのうしようではありませんか」
ウエアがそう言って、僕の隣に座ってきた。
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