第10話 提案
「よっっっっしゃああああああああ!!! 勝った!勝ったぞ!!」
両拳を握りしめ、俺は勝利の雄叫びをあげていた。
今までの勝負では感じられなかった特別な充実感と達成感で、胸一杯だ。
「ふふっ……ボクの完敗だね……」
自嘲的な笑いがした方をみると、オサムや彼の仲間たちが立っていた。
「昨日は不必要に煽り過ぎたね。すまなかった」
ごめん、と俺に頭を下げたオサムは、今度は後ろを振り返って口を開く。
「皆、ごめん。彼と交わした約束を破る事はできない。男同士の約束に、二言があるなんんてあっちゃいけない。だから、また、どこか場所をさが――」
「なぁ、ちょっといいか?」
言葉を続けようとするオサムの肩に、ポンと手を置く。。
「なんだい? ここからはボクと皆の問題だ」
「そうかもしんねーけど、その前に一つ、提案をさせてくれ」
「提案?」
ハトが豆鉄砲くらったような表情を浮かべるオサムたちに、俺はバトルの最中に思いついた構想を発表した。
「これからも、ここで一緒にバトルしようぜ」
「……ボクとキミの全力をかけた真剣勝負の結果をムダにするのかい?」
半信半疑の中に怒りの混ざった表情を浮かべるオサムの視線を受け止めながら、俺は臆する事なく言い返す。
「全力で勝負したからこそ、だ。俺はベルデウスが好きだし、俺の仲間たちだってこれでバトルするのが一番楽しいんだ。オサムたちだってそうだろ? なら、どっちかを遊ばせないんじゃなくて、皆で平等に遊べばいいんじゃないか?」
「…………」
俺の意見に、オサムは俯いたまま黙考に入ってしまった。
「いいんじゃない? ダイスケらしい考え方だわ」
ぱちぱちぱち、と拍手をしながらデュエルスペースに入ってきたのは、マサミだった。
「素晴らしいバトルだったわ。二人とも、お疲れさま」
「マサミ……ごめんな、せっかくもらった銃、途中で外したりなんかして」
頭を下げた俺に、マサミは首を横に振った。
「全然気にしてないわよ。それで貴方が勝ったんだもの。銃だって、持ち主の勝利を喜びこそすれ、僻んだり拗ねたりはしないんじゃない?」
冗談を交えて話すマサミの顔には、ひとつの陰すらさしていない。
「マサミ……ああ、なるほど。アナタが彼を鍛えたのか。全米大会2連覇を果たした【桜色の女帝】、マサミ・クルマ」
と、オサムが得心がいったようにポンと拳を平手に振りおろした。
「そ、遊びたくてフラフラしてる時にコイツと会ったの。とっても……楽しい時間だったわ」
たかが半日前の事だというのに、まるで永久の記憶のように目を閉じるマサミ。
ややあって開かれた瞼の奥にある瞳には、感傷ではなく威厳のような物が宿っていた。これが、勝利者としての風格というのだろうか。
「オサム君……だっけ?さっき、ここの店主に掛け合って、私の所有している筐体一式をこの店のデュエルスペースに設置してもらう事にしたわ」
「「……な、なんだってーっ!?」」
マサミの素っ頓狂な話に、俺とオサムは揃って仰天した。
しかし、ワンピース姿の少女は全く動じた様子がない。
「なによ、せっかくダイスケが考えそうな事を考えて、先に手を回したのに……そんなに驚く事?」
ふくれっ面をして俺たちにジトッとした視線を向けてくるマサミの言葉にも、少しも驚きは削がれなかった。
「いや、そりゃそうだろ……」
「さすが久留間家……スケールが違う……」
「それで、どうするの? ダイスケの提案を受けるの!? 受けないの!?」
ついに、俺たちの態度にキレたマサミが、大声を張り上げた。
「……もちろん、受けるよ。皆が遊ぶ場所ができるんだから。皆、どうかな?」
振り返ったオサムを迎えたのは、仲間たちの歓声だった。
「さすがリーダー!」
「ありがとう、伊集院クン!」
手を叩いて、口々に喜びの声を上げるオサムの仲間たち。
再び俺たちの方に向き直ったオサムは、彼らの声を背に受けながら、深々とお辞儀をした。
「ダイスケくん、マサミさん。本当にありがとう。これからもよろしく!」
笑顔でそう言うと、オサムは手を差し出してきた。
「こちらこそ!」
躊躇なくその手を握る。
「筐体を運び込んだら、私も参戦するわ!」
俺とオサムの上に、マサミが手を置いた。
3人の重なった手を、窓から差し込んできた夕日になりかかっている陽光が優しく包み込んだ――。
ベルム・エクス・デウス~少年たちの闘い~ 零識松 @zero-siki-matu
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