「BAⅯBOO WARS~サキモリ怪異交戦記録~」

低迷アクション

第1話



 

 「クッソゥ…ヤベェ!マジでヤべぇぞ?どうする?」


猛り、吠え合う“犬の如く”叫ぶ俺達。全員が一様に震えている。


血走った視界に広がる景色は、濃い緑にちょっと肌黄色が混ざった、

竹…竹!竹!竹!!の竹藪の中…


手元に携えた旧式のⅯ16小銃を(72年、米軍がナム戦の頃に使ってた旧式品。)

まるでお守りみたいに抱きしめた“小隊長”が叫ぶ。


「軍曹(俺の事だ)早く、焼け!全部焼き払うんだ!!」


この防大上がりのエリート崩れがっ!?

今にも


「ママァン!」


とでも叫ぶか?オイ?てか、俺が一番叫びてぇ…


「母ちゃぁん!」


ってな!…いや、キャラ的に駄目だ。気合でどうにかこらえる。

冷静に、精一杯冷静な言葉使い(↓下記参照)で答えた。


「馬鹿言いなさんな。大将。手榴弾に!簡易燃料パック、全部投げて、品切れやないすか?」


「なら、どうする?このまま、奴等に“突き殺される”かっ!?早くしないと…」


そこまで喋る小隊長と俺の頬を、風がそよぎ始める。木々や枝に葉っぱの囀りの音が…

辺りを…てか、俺達を包み始めていく。


「二人共…来るぞ…」


無口がトレードマーク、腕は一端の“アカ”が隣に立ち、

愛用の散弾銃Ⅿ37イサカの安全装置を外す。その動きに、小隊長が絶叫のように呼応する。


「軍曹、撃て。撃つんだ!」


言われるまでもねぇ…俺はⅯ16を構え、先程までは、只の竹藪、今は両手を槍のように

尖らせ、こちらに突進してくる“動く竹藪”共に高速ライフルの弾丸をバラ撒き始めた…


 

「全く、なにが“平成”だよ。これじゃぁ“乱成”だ…」


動く竹と弾丸がぶつかって、爆ぜる音を聞きながら、俺は死んだ仲間“佐藤”の言葉を思い出していく。


新しい年号に変わる頃、我が島国では一つの“誇大妄想”が“現実”のモノとなった。

“妖怪・心霊現象”それらが人間に及ぼす実被害“霊障”が災害やテロと同様に定義、

認知されたのだ(詳しい成り行きは俺もよくわからんが…)


と同時に、それらが起こすであろう社会的混乱を防ぐため、

一般大衆への周知はしない事が決まった。


最も、海外、中東辺りの宗教家達なんかはこの現象の事をよく理解していて、

だからこそ、大国の属国である筈の我が国に対し、テロが起きないとまで言われる始末だ。まぁ、それはともかく


“平成”という穏やかな時代の幕開け…その裏側で、闇と人の争いは激しさを増していく。

人間側に負けが続くと、その“代償”は災害や過激宗教集団のテロといった

“直接的な障り”に姿を変え、社会に実害を与えた。


霊障や妖怪と戦う者達は“サキモリ”と定義され、2つの部門に分けられる。

一つは陰陽道や退魔師のような特殊能力を持った者、“防人”


漫画とかでは言えば主役、ヒーローサイドだな。


そして、もう一つは能力が無く、誰も知らない、やりたがらない汚れ仕事に投入される

先行部隊“使い捨て”ポジションの“先守”つまり、俺達だ…



 「駄目だ。小隊長、数が多すぎる。町に戻りましょう。」


足元には粉々になった竹が散らばっていく。だが、血に飢え、突き出される竹槍の数は

一向に減らない。そりゃそうか…


なんせ林が、竹藪全体が俺達に襲いかかってきているんだからな。

空になった20発入りの縦型弾倉を手早く交換し、俺達の後方で震える隊長殿に声をかけた。


「小隊長…」


振り返った自身の顔が、戦慄で歪む。纏った迷彩服からいくつもの竹槍が覗き、

血を吹き上げる“槍ぶすまのオブジェ”…

かつて小隊長だったモノが立ったまま絶命していた。


一瞬、ボンヤリした俺の横で、動く竹が爆ぜる。アカが煙を噴き上げる銃口を上げ、叫ぶ。


「逃げるんだ。」


頷き、後方に迫った竹共に目がけ、手持ち最後の手榴弾を放った。

後方で上がる爆風を、肌で感じながら、俺は本日何度目かの悪態をつき、

アカの背中を追った…



 “山で猟師が消えた…”


全ては、その通報から始まった。駐在警官、自警団が捜索に向かい、みな消えた。

政府はこれを妖や霊関係の“霊障”と判断し、俺達を派遣する。


使い捨ての“先守”は文字通り“先に守る”という意味だ。本職である“防人”の連中が

動くより、俺達が先に現場に向かい、対処できそうなら、その場で解決。無理なら全滅。

いわば“敵勢試験”として投入されるのだ。


場所は東北地方の奥深い山間部、人口200人ほどの寒村。夏季だというのに、

やたら涼しい山の中に俺達は降下する。昼時の眩しい陽射しが木々の間から光を入れ、

進む俺達を照らしていく。


人数は30人。アルファ、ブラヴォーの2小隊に分かれ、進む俺達はやがて…

逞しく、旺盛に茂った竹藪に遭遇した。


こういった事態に幾度も遭遇し、生き残った奴等はある程度“現場慣れ”をしてくる。

その直感が、この奥に何かがあるだろうと告げていた。


戦闘隊形をとり、俺達ブラヴォ―が後衛、アルファが先に、薮へ突入する。その結果、

古い作りの家が立ち並ぶ“隠れ里”を難なく発見した。


どうみても“普通の人”が住むような集落ではない。双眼鏡で確認した住人は、

大河ドラマに出てくる、古びた着物に少し人間離れした容姿

(耳が長いモノ。目が赤いモノ、多種様々だ)


加えて言えば、消えた警官や自警団の半纏と一緒に

乾燥した赤黒い肉の塊が干されている。事は明白だ。


この後の動きは、いつも決まっている。“先に守る”を実行するのだ。


村の入口付近に迫ったアルファ小隊の女隊長、今義理(いまぎり)が合図を出す。

黒いベレー棒を被り、顔面を緑地迷彩で色濃く染めた部下達が手にした自動小銃の

先に付けたライフルグレネード(小銃榴弾)を一斉に発射する。


ロケット花火のような噴射音が響き、放たれた榴弾が家々に着弾し、大爆発と巨大な炎を

上げていく。藁や木で組まれた家屋はすぐに燃え上がり、中にいた“異形の住人達”を

外に押し出す。


「ハッハーァ!死ね!死ね!」


三白眼を爛々と輝かせ、今義理が持つMP5短機関銃を、

逃げ惑うモノ達に向けて発射していく。部下達も同様にM16小銃を腰だめに構え、

発砲する。


口径の違う銃から発射される弾丸が、彼等の目や足、腕を弾きとばし、

地面に、虐殺の山を築いていく。どうやら弾が効く連中のようだ。

これなら俺達先守でも対処できる。今義理もそれがわかったのだろう。


部下に大型の62式軽機関銃を用意させての発砲。手製のナパーム弾も投擲し、

更に攻撃をエスカレートさせていく。


村に住むモノ達の悲鳴、怒号、爆発に銃声が山の中に反響する。後方待機の俺達は黙って

それを見ているだけだ。


「ヒドイな…」


入ったばかりの小隊長が顔を背ける。面倒見のいい“佐藤”が肩に手を置き、

すかさずのフォローを入れた。


「仕方ないっすよ、小隊長。誰かがやらなきゃいけない仕事です。この“平静の世”を

保つためです。なぁ、軍曹。」


振られた俺は頷きながら、言葉を返す。


「確かにな。しかし、佐藤、アルファの奴等、少し派手だぞ?あんな、ベレー帽まで被って、

まるで死神気取りだ?」


喋る俺達の目の前で、今義理が笑い声を上げながら、村に突撃した。手には部下から

引っ手繰った62式を持ち、燃え盛る家屋の中に銃弾を浴びせ、中に隠れたモノ達を

掃討していく。


「彼女は霊障で家族を失った。まだ未成年のガキだが、その恨みだけで、先守になり、

戦い、指揮官の地位まで上り詰めたらしい。」


俺の視線を察したアカが隣に立ち、説明してくれる。しかし、こうなってくると、どっちが

霊障で妖かはわからなくなってきたな。


やがて悲鳴と銃声が止み、広場に戻ってきたアルファの連中は、半分死にかけのモノ達を散々、引き回し、嬲り、思う存分に蹂躙した後(生きてる奴の皮膚を少しづつ裂く者、

小便をかける者、ETC、ETC、これ以上、書く必要はないだろう…)


銃弾を浴びせられ、物言わぬ骸になった。死体を狂ったように散々蹴り回した今義理が、

最後にこちらを振り向き、後始末を任せたとでも言うように、俺達に笑いかけた…



 「むごすぎる…」


アカが呻く。先に言われた俺は、ただ黙るしかない。山を抜け、動く竹共を

何とか振り切った。逃げる先に待っていた村は、安全だと思った先は…

一面が血の海。女も男も、老人、子供、皆、竹に突き殺されている。


村の入口、恐らく最初の犠牲者、竹に頭を刺された女性の死体を見る俺の脳裏に、

この戦いの“キッカケ”がゆっくり回想されていく…


“あの竹取の姫様は、恐らく村の巫女だったに違いない”…


アルファが去り、村に突入した俺達は、燃え盛る家屋を消火し、死骸を一か所に集め始めた。

ここでの出来事を隠蔽するためである。一般人には知られないように燃やし、


軽い山火事にする。殺された警官達は穴に落ちたか、熊に殺された。

そう言う話になるのだろう。


死骸の中には子供や女性もいた。若干の違いはあると言えども、どう見たって人間。

恐らく、かつて大和政権が生まれた時、山の奥に引っ込んだ豪族達の子孫…

コイツ等が霊障や怪異を起こす存在?妖怪だっていうのか?とても信じられない。


だが、現に人が殺され、干し肉になっている。上の連中からすれば、立派な“排除理由”だ。

周りの同僚達の顔を見る。皆が悲壮な表情、俺もきっと同じ顔なんだと思う。


だが、殺さなければ、こっちがやられる。壊滅した神戸にガスが充満した地下鉄。

あれは全部、コイツ等のせいだ。殺られる前に先手を撃つ。それが先守の仕事なのだ。


そう自分を納得させる俺の視界に、ふわりとした着物の裾がなびく。

顔を上げれば、死体の山から起き上がった煤だらけの…

それでも、なお艶やかな着物姿の少女。普通の綺麗なお姫様みたいな容姿…

だが、尖った耳は立派な人外の証拠…


迷わず銃を向ける。佐藤に他の仲間達も気づき、こちらに走ってきた。

それを音で確認し、俺は慎重に声をかける


「落ち着け、何もしなければ、殺さない。言葉わかるか?大丈夫、大丈夫だから。」


勿論、嘘だ。この子を生かす理由はない。仮に捕虜にしたとしても、彼女に待っているのは

非道極りない研究期間の実験動物としての扱い、どっちにしても悲惨なのは同じだ。


こんな出来事を何度も経験している俺としては、今更、罪悪感や道徳的観念は微塵もない。

声をかけたのは、あくまでも油断させ、こちらが先手を仕掛けるためのモノだ。


「殺さない?ふふっ、そうか、殺さないか?」


少女が見た目に反し、大人びた口調で応じる。それに伴い、額から一筋の血が流れていく。

不味いな…


「手当てを…」


思わず伸ばした手の前で、少女が歯を剥き出しにして、叫ぶ。


「これだけ殺せば、満足か?もう殺さない?我が一族を?

竹取の時代から平穏を紡ぐ我らを!?何をした?我らが何をした?


大和の民が森を開き、我らの住処を奪った時、こっちは黙って奥に引っ込んだ。

痩せた土地を切り開き、ここまで開墾した。たまに迷い込んだお主らの仲間を

我らは返してやった。


それなのに、こないだ迷い込んだモノは我らを見るなり、火の棒を使った。


“化け物”


と叫んでな。我らはそいつを殺した。当然だ。すると大勢やってきた。我らは戦い、みな

殺した。当然だ。家族、一族を守るための権利だ。なのに最後は主らが来た。

大勢来て、我らを火の棒で殺した。皆、殺した。何故だ?


我らの何がいけない?主らと少し違うからか?それとも我らと同じようなモノ達が

主らに何かをしたのか?何故だ?答えろ?答えて見ろ?大和の兵よ。」


「悪い、全部だ。」


静かに引き金を引いた。少女の頭に穴が空く。彼女は頭後ろに花びらのような血しぶきを

綺麗に広げ、その場に転がった。


「竹取の姫様、撃っちまったか?」


「ああ、撃った。」


横に並んだ佐藤の声に無表情で頷く。コイツは何でもあだ名をつけたがるが、今回は的確だ。

竹に守られた一族のお姫様…さて、中隊長への言い訳はどうしようか?


だが、他の仲間に、化け物とはいえ“子供殺し”を味わせるより、始末をつけた方がいい。

汚れなら任せろだ。そう考える俺に、佐藤の隣に来たアカが

妙な形をとる少女の両手の構えを指さす。


「彼女“印”を結んでいるぞ?」


「何が?」と言いかけた佐藤の顔に竹槍が刺さり、そこから“動く竹藪共”との戦いが

始まり、今に至る…



 村の中を進む俺達は、死体と一緒に砕けた竹や、散らばった薬莢を発見していく。

燃やされた竹も積み上げられている。これは…


「動くな。」


澄んだ声が頭上から響く。やはり生きていたか?同時に俺とアカの周りに素早く

アルファ小隊の兵士達が展開する。屋根に上っていた今義理が猫のような身軽さで

降り立つ。


「ブラヴォー小隊の生き残りか?」


「ああ、俺は軍曹、こっちはアカ。」


「全く、ブラヴォーは最悪の寄せ集めだな。軍曹。

ろくに後始末も出来ないと来ている。そのおかげで、この様だ。」


「お前等にそれが言えるか?原因を作ったのはお互い様だろ?とっとと、本職の“防人”を

呼ぼう。こっちは無線も全て失った。なりを見ろよ。服もボロボロ。弾もキレキレだ。」


両手を上げて皮肉を返す俺の顎に、今義理がナイフを突きつける。整った顔立ちに

くっついた2つの目は、全くの無色透明。感情を一切捨てたって感じの眼だ。

低いが、心地の良い声が耳に響いてきた。


「軍曹、お前、口数が多いって、よく言われない?」


「ああ、全くその通りだよ。クソアマ隊長。」


彼女の目に僅かな変化が走る。俺の首元に刃先を近づけた結果、自身の小振りな胸に

こちらが用意していた45口径自動拳銃の銃口がぶつかった。

さて、引き金を引くかどうかは要検討という所か。そんな俺達に…


「いい加減にしろ。争っている場合か?」


アカが散弾銃を、俺と今義理両方に向けた。周りの兵士達は驚きながらも、

銃を構え、こちらに向ける。数秒の沈黙…俺を睨みつけた今義理が、先程の目を変えずに

ナイフをしまう。フーッ、ひとまずは生き延びたという所か…


「わかった。今は治めてやる。軍曹、そして残念なお知らせ。防人の派遣はないよ。」


「どういう事だ?」


「聞いてないのか?国の流れが変わる。怪異や霊障に対し、あたし等はやりすぎた。

これからは“妖護(ようご)”の時代、妖や幽霊、連中と仲良く手を結ぶ道を

模索するそうだ。」


「耳が異様に長い子に、尻尾生えてる人外娘っ子とようやくイチャイチャできるのか?

そりゃ最高。願ったりの展開!

今までの事は全部水に流して宴会しよう。」


おどけてみせる俺の前に、今義理が指を一本出して左右に振った。


「ノンノン、ノン。先守はその席に呼ばれてない。わかるでしょ?

裏仕事をやってきた身。上の連中としてはアタシ等を生贄に…

協定の証として売るつもりさ。」


「という事は、今回の作戦が実質、最後の任務?

なら、何故あそこまでした?」


「フフッ、どうせ、始末されるなら派手に逝こうと思ってね。」


ニヤリと笑う今義理に…怒り、どうしようもないくらいの虚脱感を通り越して、

思わず笑ってしまう。決して表には出れない俺達…勿論理解はしていた。


能力も、それに付随するための努力も怠った負け犬共の集まり。

俺達“先守”は只の“消耗品”


汚れ仕事と汚辱に塗れて、不要になったら捨てられる。酷い事もいっぱいしてきた。

わかってるんだ。その報いをこれから受ける。


クズ同然の俺達に殺された一族が放った…

地獄の復讐に燃えた竹藪共に突き殺される運命。


(でも、いいかな。きっと俺達の死が誰かの役に立つなら。

ここの村人は皆死んだけど…後の世に続く平和の、平成の世の礎になれたのなら。

それでいい。)


なんて事を思ったのは数秒。俺の笑いに狂喜が一気に交じった。


“ふ・ざ・け・ん・な!”である。


(な~あにが、平和だ。この野郎。そんなもん、自分が死んじまったら、

意味はねぇだろ?俺達がなりたくても、なれなかった存在、防人の能力者に

一般人、役人、公務員、社会人。


明るい世の連中は、何にも俺達の事なんて知らねぇ。調べもしないだろう。その内

何年か経ったら、映画とかN〇Kの特集で紹介されんのか?平和のために戦った勇者達?


それをミリオタやら土日休みの糞ッタレ共がノンビリ、ビールでも飲んで


「凄いな。こんな人達がいたんだ。」


なんて話のタネに?冗談じゃねぇ。そんなのは御免だ。顔も知らねぇ

勝ち組連中の犠牲になんてなってたまるか!


クズだろうが、何をしただろうが、生きる権利はあるぞ?アイツ等を皆殺しにして、

ここから出てやる)


ひとしきり笑った後、俺は凶悪な面構えで、全員を眺め回し、叫ぶ。


「奴等を殺して、ここを出んぞ?」…



  村をゆっくり夜の闇が包んでいく。戦いの時が迫っていた…


アルファと合流した俺達は、村と自身達の置かれている状況を改めて確認する。


最期の虐殺を楽しんだ今義理達は、後始末を俺達ブラヴォーに任せ、

山間部から撤退を始めた。無論、村人達には何も告げずにだ。


しかし、隊員の一人が悲鳴のようなモノを聞いたと今義理に告げ、遠方から村の偵察を行う。

それから、小一時間、彼等の眼下では、動く竹達が村人達を虐殺する光景が繰り広げられた。


やがて、動く人間がいなくなり、血まみれの竹達が手持ち無沙汰になった頃、彼等は行動を開始し、襲い来る竹全てを駆逐する事に成功した。


村人達を犠牲にして、相手の特製を充分に理解した上での戦闘だ。


“何故、助けなかったのか?”


との質問に、今義理は薄く笑い、当たり前のように答える。


「正義の味方じゃないんだ。誰か助けてる余裕はないでしょ?」


それでは流石に不味いと思うので、村の生き残りを探索した。アルファの連中も、

使えそうなモノを探しに同行する。山間部の寒村。家一軒には、軽トラに車が必ずあった。中には逃げようと運転席に乗り、竹が刺さっている者もいる。


「アカ、モノは相談だが、この車に乗って山を下りれねぇかな?」


「それは無理。防人達は、この山全体に結界を張っている。全部事が済むまで

それを解除する気はないみたい。だから、車も、徒歩でも、アタシ等が

皆殺しにならない限り、この山から出る事は出来ない。何台か、村を出た車を確認したけど、おんなじトコずっと回って、出られなかったみたい。すぐ竹共に殺されてたよ。」


割り込んで今義理が答える。なるほど用意周到。つまり無線も駄目か。

しかし、対応が早すぎだ。それに村一つを捨てる選択までするか?普通…


俺の表情を見た今義理が、こちらの疑問を呼んだように話を続ける。


「だから、嵌められたんだよ!アタシ等も、村人も、下手すりゃ、

アンタ等が竹取の姫とか呼ぶ妖連中もね。新しく平和な時代を迎えるんだ。


裏稼業と反社会的存在、一緒に消せるなら200人くらい安い犠牲。ここは閉鎖的な寒村。ダムに沈んだ村と一緒。そこに住んでた連中なんて、誰も気にしない。


大方、他所に移り住んだ、だろうくらいしか考えてない。現実に自分の前にその脅威が

現れるまで、大抵の奴は気にしない。それが一般人ってもんだよ。まぁ、

その脅威が出てこないよう、頑張ってたのは、あたし等のおかげなんだけどね。」


喋り終えた彼女が部下に指示を出す。彼等は慣れた手つきで、それぞれの車輌から

ガソリンの抽出を始めていく。使えるモノは何でも使うハラだ。


その光景を眺めるアカが何かに気づく。散弾銃を構え、一軒の家に向かう。

庭先でひっくり返ったリヤカーの下に動く影がある。俺は無言で頷き、リヤカーの端を持つ。


目で合図し、一気に持ち上げた。銃を向けたアカの手が止まる。


「軍曹…」


確認というより、自分はこうゆう場面に向いてないと言いたいのだろう。

中にいたのは一人の少女だ。俺は震える彼女を抱え、顔についた泥を拭ってやる。

だいぶ汚れているが、外傷がない。運がいいな。強面を精一杯綻ばせ、声をかけた。


「怖がらなくていい。助けにきた者だ。君は大丈夫か?」


頷く少女。


「よし、俺は軍曹、自衛隊じゃないけど、それに近いモンだ。君の名前は?」


「…さとみ…」


「そうか、さとみちゃんだな。よろしくだ。」



ガシガシ頭を撫でてやる。傍に来たアルファの隊員に介抱と手当を頼む。

本来なら、俺達が一般の人間に会う機会はない。しかし、今は気にしている場合じゃない。


両手にM16小銃を構えた今義理が俺達の前に立ち、銃、予備の弾丸と手榴弾を

それぞれ手渡し、説明する。


「竹は距離あけて撃つと、跳弾するからね。出来るだけ引き寄せて。」


「武器はどれくらいある?」


「手持ちの弾薬と武器、手榴弾は人数分の補給で閑古鳥。


後は枝焼き用のバーナーの火力を改造した奴が4丁。


仮説スタンドと車輌から抽出したガソリンタンク10個に


プロパンガス数10本。全部合わせりゃ、山一つ吹き飛ばせる。


まぁ、電気は生きてるし、村は明るいから、夜になっても戦うには事欠かないよ。


どうする?吹き飛ばす?」


「駄目だな…拠点を丸ごと無くすのは最後だ…それに風が吹き始めた。あれは風が強くなると動き出す。」


俺の指摘に今義理が頷き、隊員達を率い、村の入口に向かう。俺も自身のM16に

新しい弾倉を差し込み、続く。


「…だろうか?」


「ん?どうした?」


一緒に走るアカが何かを呟いた。もう一度の声を促す。一瞬考えた彼が

今度はハッキリと喋る。


「動くのは本当に竹だけだろうか?」


俺は何も答えられなかった…



 「正面、竹が接近!」


アルファの隊員達が叫び、屋根からライフルグレネードを発射する。森から前進してきた

竹が爆発に包まれ、木々の破砕音が響く。同時に、爆炎の中から、お返しの竹が飛んできた。


「全員屋根から離れろ!」


俺の吠え声に、隊員達が退避したすぐ後を、竹槍が突き刺さっていく。

爆発を逃れた竹共には大型バーナーの炎と銃弾が当たる。


燃える音に爆ぜる爆竹音、竹が殺意剥き出しで襲ってくる非日常を改めて認識した。

大変にあり得ないが、気を抜けば本気で死ぬから、これは現実なのだろう。


「正面のバーナーで足止めして、後はガスボンベで吹き飛ばすよ。」


短機関銃を乱射する今義理が隣に並び、報告してくれる。頷く俺は、彼女の背後に立った、いや…立った?死体に、急ぎ銃を向けた。


「伏せろ!」


弾丸が彼女のベレー帽を吹き飛ばし、死体の頭部を破壊した。バランスを失い、崩れても

なお動く敵に振り向いた今義理が9ミリ弾を撃ち込む。全身を銃弾で破壊された死体が

ようやく動きを止める。肩で息をつく今義理が呟く。


「死体が…何で?」


「竹が…刺さってるからだ…」


「不味いね、敵は外だけじゃなく、中にもいるって事?」


その声に、片付けず、転がっていた死体共が起き上がってくる。

外の竹に応戦していた隊員が背後からの奇襲を受け、

倒され、防御陣営の崩壊が始まっていく。


「畜生、この死体共がぁっ!グゲッアォォ」


バーナーを構えた隊員が背後の死体を焼き払い、その隙に外から迫った竹に突き刺され、

絶命する。


死んだ隊員の手に握られたバーナーが、火を出しっぱなしのまま、

味方に浴びせられ、誘爆を起こす。炎でのたうち回る隊員達の上を竹共が飛び越えていく。


「中に侵入した!撃て、撃て!」


屋根から62式機関銃を構え、乱射する隊員。頭上からの攻撃に、

死体と竹の軍勢の多くがなぎ倒された。俺と今義理が射撃に加わったのは、言うまでもない。


空になる弾倉を素早く交換するも、背後から迫る死体に手が回らない。


「背中合わせだ。軍曹。」


素早く後ろに立ったアカが、散弾をギリギリまで迫った死体に撃ち込む。

近距離からの攻撃に半身を吹き飛ばされた死体が山づみになっていく。

これで背後の問題は片付いた。


心おきなく正面に攻撃を集中させる事が出来る。足元に空薬莢が積みあがっていく。

竹共が自身の手をロケットのように発射してくる前に片付け、

腕、口を武器にしたゾンビのような死体達を吹き飛ばしていく。


屋根側から攻撃を仕掛ける隊員達が銃弾をバラ撒きながら叫ぶ。


「今義理隊長、今の内に後退を!」


今義理の返答は彼等に届かなった…

家が軋み、轟音と共に巨大な木々が地面から突き上がっていく。


隊員達を生え揃った枝で突き殺し、飾りのようにぶら下げた“巨木”が村のあちこちで

出現し、俺達3人に進んでくる。


「ハハ…ツリーウォーク…森が歩いているよ。」


半笑いの今義理に俺は何もかける言葉がなかった…



 「ボンベを集めろ。」


切迫した俺の声に、アカと今義理が頷き、走り出す。村のあちこちで生き残った

隊員の銃声と悲鳴が続くが、徐々に静かになっていく。こちらに迫る竹の数に死体、

そして巨木が地響きと共に向かってくる。


まるで山全体が俺に向かってくるようだ。握りしめた小銃を発射し続ける。撃つ手を止める訳にはいかない。絶対に、絶対にここから生きて出てやる。生きて…腹部に激痛が走った。小さな竹が刺さっている。


村の横手から現れた竹に、引き抜いた拳銃弾を何発もぶち込む。


「っざっけんな!テメェ等、竹畜生共にやられてたまっか!」


腹から竹を引き抜き、激痛をこらえながら叫ぶ。7発装填の拳銃が、

遊底のスライドしたままで止まる。弾倉交換をする手が震えた。気が付けば、片腕にも

竹が刺さっている。引き抜こうとする片方の手の平に、別の竹が刺さった。


「ギャアアアァァッ、いてぇ、クソッ、いてぇよ!」


誰も聞いてないのを、これ幸いとばかりに

無様に叫んでしまう俺は膝をつき、そのまま民家の軒先に倒れ込む。


「痛い?…大丈夫?」


頭上から響く声に振り向けば、さとみが心配そうにこちらを覗き込んでいた。こんな所に

隠れていたのか?不味い、この子だけは逃がさないと…

傷だらけの頭を冷静にまとめ、しゃべりかける。


「いいか、さとみちゃん、よく聞いてくれ。周りは化け物だらけだ。味方もほとんど

残っていない。俺が時間を稼ぐから、君は逃げるんだ。村の外まで行けば、


多分、出口を塞いでいる連中も君なら助けてくれる筈。だから早く行くんだ。」


「そうなの?私なら大丈夫なの。」


「ああ、君なら、平気だ。だから…」


「でも、軍曹は“わらわ”を撃ったよね?」


「あっ?」


その言葉に痛みを忘れる程の寒さが、怖気が全身を支配していく。


「…嘘だろ…」


さとみの顔がゆがみ、あちこちから竹が突き出してくる。やがて“ボツッ”という音と共に

少女の体が弾け、全身が竹の塊となった。今義理達の死体確認は正しかった…

村人は全員死んでいる。その死体の山に“一匹”が紛れ込みやがった訳だ。


「人ではない我らは平気で殺す癖に、同族の子は助けるのか?何処が違う?我らとお主等、

何処が違うのだ?」


竹の塊が昼に撃ち殺した“姫様”の声で喋りかけてくる。全く質問も似たり寄ったりだ。

俺は薄く笑う。竹の背後に現れた今義理とアカも一緒に笑ってくれる。締めの台詞を一言

告げてやる。


「ワリい、全部だよ」


アカの散弾銃が火を噴く。砕け散り、横たわる竹に今義理が飛びかかり、何度も短機関銃を

ぶち込んだ。やがて動きを止め始める“竹の姫”が最後の一声を呟く。


「な、何故…」


「すっげぇ、迷惑なんだ。ごめんな。」


精一杯の手向けを込めたつもりだ。

俺は刺さってない方の手で構えた拳銃をトドメに撃ち込む。


完全に動かなくなった竹を踏みしめた今義理が、こちらに迫る巨木と竹の群れに

手榴弾付きのプロパンガスを勢いよく放った…



 村半分が吹き飛んだ景色に朝日が差し込んでくる。砕けちった巨木と竹、肉片が燦燦たる

戦いの様子を映し出していく。


「終わったな…」


隣に立つアカが静かに呟く。傷の手当をする俺は、それに頷けない。戦いは続いている。

これから静かになった山に“防人”達がやってくるのだ。


生き残った者全てを始末するために…


「やるっきゃないね!」


62式機関銃を肩に携えた今義理が陽気に笑う。やるっきゃないか…そうだな、俺達は

生き残った。人外共を叩き潰して、生き残った3人だ。


次の敵が防人だろうが、なんだろうが“皆殺し”にしてやる。

時代は穏やかな時代“平成”に進むらしい。人々は穏やかに続く安寧な日々を

送るつもりらしいが、そうはいかねぇ。


俺達自身が“世の障り”霊障になってやらぁ。

これからもテロに災害が起き続けるぞ?それは防人共が負けた証拠、


つまり俺達がまだ生きて、何処かで暴れている証明だ。


ヘリの爆音より先に、朝日の中を白装束、着物姿の少女達が飛んでくる。

実際に会うのは始めてだ。


あれが防人か?本当に漫画、アニメの主人公みたいな連中だな。面白れぇ、

その“柔肌”引き裂いてやる。


「逝くぞ!先守は先手必勝!」


今義理が掛け声を上げ、飛びかかるように走りだす。俺とアカも、イカレタ咆哮を上げ、

それに続いた…(終)



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「BAⅯBOO WARS~サキモリ怪異交戦記録~」 低迷アクション @0516001a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る