深浦のマグロステーキ丼

 皆さんは、日本一マグロの漁獲量が多い地域をご存知でしょうか。

 以前は、よく東京の築地市場で、ウン千万円のマグロが競り落とされたとニュースになっていましたね。そうです、皆さんが知る、です。


 あ、そこの読者の方、手が上がるのが早かった。あなたは手が上がるの早いですが、マグロのトロは足が速いってね。

 うるせーよって話ですか。ハハ、こりゃまた失敬。


 気を取り直しまして。あ、はい、……そうです、青森の――!?



















 深浦町です。


 ……。って、どこやねーん!!


 会場総ツッコミ、いいリアクションですね。大間のマグロを思い浮かべていた方は残念でした。


 それでは、深浦町は青森県のどこにあるのか。えー、場所を説明しますと、ここです。……って、そちらからは見えませんね。


 皆さん、ダブルバイセップスを作って、で、上腕二頭筋を僕に魅せつけてください。二の腕あたりに力を入れて、拳を頭の横に持ってくるポーズです。そうです、いいですね。あなたの筋肉、まるで重機です(最近筋トレ始めたので筋肉にうるさい)。


 皆さん、準備できましたね。これが、青森県だとします。で、あなたの拳、ここが、かの有名な大間のマグロが穫れる大間町です。

 そして、そこから南下して、あなたの首元から肩にかけて! そうそこです。その、日本海に面した場所が深浦町です。


 多分、ここまで読んで、深浦町のことを初めて知ったという方は多いのではないでしょうか。実は僕も、大学の観光振興の授業でここに来るまでマグロと言えば大間だと思っておりました。


 さて、前置きが長くなりましたが、今回、思い出食堂でご紹介するのはこちら!


 深浦名物です。


 えー、マグロステーキって珍しくないですか? 焼きマグロって中々無いですよね。そんなあなたに、ちょっくら、説明をば。


 深浦マグロステーキ丼(通称マグステ丼)とは、深浦町が観光客増加を目的に開発した定食のことです。価格は一律、千五百円で、深浦町内六店舗で食べられます。


 基本的な内容は統一されており、一人前の鉄小鍋(ジンギスカン鍋みたく、真ん中が丘のように盛り上がっている)に、生のマグロ串二本と刺し身用のマグロ、焼き野菜、三種のごはん(錦糸卵ごはん、千切りの長芋ごはん、鰹節ごはん)、深浦つるつるわかめの味噌汁(時期による)、深浦人参ゼリーに、小鉢と三種のソースがついてきます。


 また、店ごとの一番の違いは、なんと言ってもこの三種ソース! 僕たちは深浦町役場の役場マグステ食堂と、広〆に行きましたが、今回は広〆のマグステ丼をご紹介します。


 ◇


 ――最新のAR技術を駆使し、深浦の観光マップを作るというミッションを帯びた「青森県の観光振興と地域活性化」受講メンバー一行は、リゾートしらかみのくまげらに乗って、弘前駅から深浦町へと向かった。

 車窓からは、林檎畑や千畳敷(弘前藩藩主津軽公が千畳の畳を敷いて奇岩と海を前に宴を催したことに由来)の海岸線を横目でみながら、休憩のため途中下車した駅前の漁師小屋でイカ焼きが売っていたので買い食いなどし(七味マヨネーズが美味しかった)、一同は、一路をひた走る。



 リゾートしらかみも終着点。深浦町役場に着くと、丁度お昼時になったので、名物のマグステ丼を食べに行くことに。役場の人の車に乗り、秋田県境近くにある、広〆に向かいました。


 小高い丘の上に建てられ、店の裏には日本海が広がる広〆のお食事処の暖簾をくぐると、畳敷きの座敷に四人がけのテーブルが四つほど置いてあり、丁度家族連れが三組座っていました。


 座って、僕たちが頼んだのはもちろんマグステ丼。教授や同期メンバー(同期といいつつ、社会人や多留のオッサン揃い)も、おしぼりを手に待ちます。


 そして、ついに来ましたマグステ丼。贅沢に盛られたマグロに、色とりどりな三種ご飯が食欲をそそります。固形燃料で温められた鉄板の上にマグロを置く前に、まずは生のマグロを箸で掬い、わさび醤油をつけて口に運びます。


 なるほど、これはしゃっきりしている! 脂身が少なく、身が引き締まった赤身は、噛めば噛むほどに味が出て、魚の旨味をダイレクトに感じられる。そして、油っぽくないからか、何枚食べても飽きが来ない。


 次に、本命のマグロステーキへと移行する。女将さん曰く、マグロステーキは両面焼きのウェルダンと、片面焼きのレアで楽しむのが良いそう。

 早速、マグロを串から外し、鉄板の上に乗せる。ジュウという快音とともに、色が変わっていくマグロを見ているだけで、未知なる興奮に、胸がワクワクする。


 まずは、片面焼きのレアを、塩ダレでいただく。


 ……うん、なるほど。焼いたマグロの繊維質さと、生のマグロのムッチリ感が口の中で混ざりあって、一口で二度楽しめる、面白い食感だ。そして、塩ダレに振られた胡椒が生臭さを消している。これは、珍味だな。


 そしてお口直しで味噌汁を啜る。具は、これまた深浦産のつるつるわかめ。これは、深浦で採れるわかめを、そうめん状に加工した特産品になっている。意外とクセがなく、喉越し最高で、一袋買って帰りたくなる。


 役所の人曰く、味噌汁もいいが、買うとついてくる付属のつけだれを、水を切ったつるつるわかめにかけて食べても美味しいそうだ。


 続いて、両面焼いたマグロステーキを頂く。

 こちらは、広〆特製コチュジャンダレにつけて。


 ……肉じゃん。


 いや、ちゃんとマグロの旨味はあるんだけど、よりジューシーに感じる。新しい感覚に心が震えた。


 面白いなぁ、マグステ丼。そして、小憎いのは、この三種のご飯よ。マグロ3パターン×ご飯3パターンで9パターンの味が楽しめる。地方も頑張ってるんだな。そう思いながらパクつきました。


 そして締めの深浦人参ゼリー。鮮やかなオレンジ色を口に運ぶと、深い甘みと人参の青さが口に広がり美味しい!

 この深浦人参、冬の間、雪の下で堪え忍んだだけあって、甘みが凝縮されている!


 ……ごちそうさまでした。美味かった。


 その後、深浦の名所、日本でも透明度抜群の青池や、深浦に伝わる漁師の物語、断崖絶壁を越えた先にある修練者の祠など、360度カメラを駆使して、無事マップを作り上げることができました。


 皆さんも是非、深浦に遊びに来てください。

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