第3話 自称悪魔がいうことにゃ2

 「───で、俺は君らの願いを叶えなきゃいけなくて──って聞いてる?」

「え、あすみません。聞いてませんでした」

『お前馬鹿だな。こんな得体の知れない奴に謝るとか。アホだな』

「え、ぇぇ~、俺まで怒んないでよぉ」

「君ら名前は」

 どこから出したのか、自称悪魔は優雅に紅茶を飲んでいる。

「えっとボクの名前は.........鷹野氷架たかのひょうかです」

 名前なんてとうの昔に忘れていた筈なのに、出てきたこの名前は多分本名じゃないけど、妙にしっくりきた。

『お前、そんな名前はだったか?』

 副人格は悪魔の隣のイスに座ってクッキーを口に放り込んだ。

 氷(いや、君こそ得体の知れない人が出したもの食べるのぉお)

「多分本名じゃないけどなんとなく?」

 ボクももうひとつのイスに座る。自称悪魔さんが、ボクの分の紅茶を出してくれた。

『変なやつ』

「でそういう、副人格君は名前はあるの?」

『あるわけねぇだろ』

「「oh.......即答」」

「そういえば、コードネームみたいなのはあったよね」

『あれ、アイツらが勝手に呼んで広まっただけだろ。俺に名前とか関係ないし、てか俺はお前...氷架なんだから、俺も氷架でいいだろ』

「その、コードネームでもいいぞ~」

 と自称悪魔。

『..............ふくろう

「梟、ね。可愛いじゃん」

 うるせぇ、と呟いたあと梟はまたお菓子を口にいれた。

 副人格は甘いものが好きなのかな?ボクはそうでもないけど。

「で、さっきの話」

『「話??」』

「あ、マジで聞いてなかったのね。」

 氷、梟(いや、あの状況で冷静に話聞くとか無理だろ)

 自称悪魔曰く


 1.自分は願いを叶える悪魔[無条件で]

 2.ボク(俺ら)の願いを叶えないと自分悪魔もボクももとの世界に戻れない

 3.自分悪魔とボクらは違う世界線(?)にすんでるらしい


「俺もさー、お仕事?だからね?やらなきゃ帰れないわけ」

「あ、仕事なんですね」

「んー、仕事っていうか役割?存在意義??願いを叶えるっていうか”欲望と願望”の悪魔だからさ、俺。クソ上司のせいで人間界落とされてっけど.............──チッ!オレガドンダケ苦労シテルトオモッテヤガルアノジジィ」

 ................悪魔にも悪魔なりの事情があるらしい


『·····ホントに無条件なのか?願いを叶えるってやつ』

「ああ、本当だよ」

『お前になんの得がある』

「だからさ、言ったよね?俺は欲望と願望の悪魔なんだよ」

 朗らかだった悪魔の雰囲気がズッと重いものに変わる。殺気にも威嚇にも近い感じだ。

「存在するためにやってる。ってことですか?」

「理解が早くて助かるぞ氷架主人格

 またもとの柔らかな雰囲気に戻る。

「さあ、お前らの願いは·····」

『俺は静かな時間が欲しい』

 悪魔のセリフに食いかかるように梟が答えた。

 悪魔と氷架はポカーンと口を開けていた。

『おい、なんでそんなに意外そうな顔すんだよ』

「いや、だって副人格なんか、自分さえよければ全部どうでもいい。みたいな感じで過ごしてると思ってたから」

「うん。俺もちょっと意外。もっとこう········もっと人殺せるような力が欲しい!みたいな真っ黒いお願いを予想してた」

『お前ら、俺をなんだと思ってるんだ』

 呆れて出た溜め息で紅茶の水面が揺れる。

「え、ホントにそれでいいの??一回いうと変えれないよ?」

 梟(お前が言えつったんだろうが)

 正直、梟にとって、願いなどどうでもいいことだった。あくまで人格の複製品の自分にとっては主人格がすべて、氷架がどうにかすれば自分もどうにかなる。ただそれだけのこと。

 自分であり違う自分人格の氷架には特に思い入れがある訳でもないが、なんとなく本当の自分氷架は殺し屋という仕事に向いている人格ではないから抜け出さしてやらねばと思っただけだ。故に。

『別に、変わんねぇよ。静かな、平穏な時間さえあれば俺は働かなくてすむ。それだけ』

 故に、静かで平穏な時を望む。

 願いを告げた梟は眠りについて、やがてこの白い空間から消えた。悪魔いわく、もともと氷架自身が作り出した存在しない者だかららしい。

 消えたと言うよりは氷架のもとに戻った。と言うのが正しいだろう。

 もう一人の自身が消える間際、『お前は”氷架”。とは別の人生でやり直せる』副人格口調の自分の声が聞こえた気がした。

「さ、お前は何を望む。鷹野氷架。未来はお前の意のままだ」

「ボクは········オレは──────」




「·······ああ、契約成立だ。お前の願いを二つ叶えてやる」

氷架の願いを聞き届けた悪魔はニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。

「あのッ、ひとつ聞いてもいいですか」

「ん?」

「あ、あの。悪魔さんみたいないい悪魔ヒトにあえてよかったです。悪魔さんは本当に悪魔なんですか?」

「変なことを聞くやつだな。俺はれっきとした悪魔だぞ?最初っから言ってんだろ」

「いや、何かを願えば代償が付き物じゃないですか。それをなしに叶えてくれるなんてなんだか神様みたいだなぁっと思って、てなんで爆笑なんですか!」

「ひー、いや、ワリぃワリぃ。お前まじで変な奴だな、あーおもしれ。」

悪魔の笑っている姿を見ていると何故か強烈な睡魔に襲われてオレはその場に崩れ落ちた。

「…あ………れ?」

「そうだな──────」

悪魔が何か喋っているようだったがもう声は聴こえなくなった。


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神様なんていない 夏木ホタル @N_Hotaru

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