第2話 自称悪魔がいうことにゃ
「······ッ!ゲッホ!········っが、あぇ、な、んで俺がこんな目に·····」
「何でってお前·······マフィアなら金持ち逃げしたらどうなるかくらい判るだろ」
依頼内容が充分にいたぶって殺せだったから、殺さない程度に蹴って殴って逃げれないように手足を撃って、すっげえまどろっこしい事をしている。俺的にはさっさとぶち殺して
大体金持ち逃げするくらいなら殺される覚悟くらいしとけっての。
次の命令が下る。
「やっとか······あー、まどろっこしいことして悪かったな。じゃあ死ね」
こめかみに鉛玉を2、3発撃ち込む。はー、やっと終わった。
イヤホンから少しのノイズ音とともに依頼主の声が聞こえる。
『いやー、本当に依頼内容に忠実にこなしてくれるね』
「わざわざ面倒くせぇ殺し方させやがって。金はきっちり貰うからな」
『ああ、わかってるさ。600万キチンと振り込んどくよ』
「あ"?ふざけてんのか?報酬額ごまかしてんじゃねぇぞ」
たしか、依頼を請けたときの報酬額は800万だったはずだ。裏社会にはこういうやつが多くて困る。
『そうだったかなぁ?キミが盛って「お前の娘、明日が10歳の誕生日なんだろ?」え、あぁ』
「·········誕生日プレゼントが大好きな父親の死体だったら娘も残念だろ、なぁ?」
相手の息を飲む声が微かに聞き取れた。そして間が空いて了承の声。
「ああ、じゃ宜しく頼む」
イヤホンを外して、上着の内ポケットにしまう。仕事も終わったし、後は
主人格に替わろうとした瞬間背後にあるドア前に何かの気配を感じた。人とは違う冷たく大きな気配に、少しの恐怖と戦慄を覚えて銃を構える。
「いやぁ、むせかえるような血の匂いだなぁ」
振り向くとそこに立っていたのは真っ黒なナニカだった。元々部屋が暗いこともあるが、いつもだったら暗くても気配とかで大体誰かわかるはずだった。
ナニカというのは本当に何かわからない。見える限り人の形をしているようだが、人間かどうか、本当に生きているのかもさえ、目の前の奴から感じ取れるのはただただ冷たい覇気とどす黒いナニカだけ。
顔が見えない。俺を見つめている紅い双眼が近づいてくる。コイツはヤバい。何がヤバいかはわかんねぇけど、動け!足をひたすら動かして逃げろ!逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!!
なんで、足が動かねぇ......どれだけ体に言い聞かせても動かない。動けない。この銃を構えた姿勢から。流したこともなかった冷や汗がたらりと背を伝う。
「ははッ♪まぁ、そんなに殺気だてて警戒すんなよ。ほら、もっとリラックスしようぜ」
奴が俺の耳元で囁いた瞬間、さっきまで強張っていた体の力が抜けストンっとしりもちを着くようにその場に座ってしまった。さっきまで全く気にならなかった嗅ぎ馴れた血の匂いに吐き気がし、そのまま嘔吐した。
「おいおい、大丈夫かよ。はー、しゃあねぇな」
何かが割れる音が響いたと思うと、暗かった目の前が突然明るくなり目が眩む。明るさに目がなれて辺りを見渡せば、白一色。何もない真っ白な空間。
「.....ッ、こ、こは」
「よー、殺し屋のボウズ。落ち着いたか?」
声の主はさっきの奴だろう。足に力を入れてなんとか立ち上がる。溜め息をつき、顔を上げれば空中に浮かぶ男が目に映る。なんか、背中から生えている(?)羽らしきものをパタパタと動かして宙に浮いているのだ。いや、普通に考えておかしいだろ。
「おいお前、ボクに何した...............って、は!?」
なんで俺、今一人称〈ボク〉で話した???〈ボク〉は主人格の一人称のはずで、副人格の俺はオレで....ボクは........あれ???ナンダコレ。頭がごちゃごちゃする。
「はーー、君めんどくさいな。二重人格ならわけるか」
『「へ?」』
「えい☆」
男はオレに近づいて来て額にデコピンをかました。
『「.....ッッぃ!」』
銃で撃たれた時のような痛みがはしる。あまりの痛さに額を抑えてしばらく悶絶した。
「おー、上手くわかれたじゃないか」
『「~ッ、(おい)わかれたってどう言う」』
聞き慣れた声がもう一つ聞こえて嫌な感じがした。オレは、いや、オレ達は同時に横を向いた。
『「は?え???」』
そこには確かに
「じゃ、話をしようか。俺は君たちの世界で言うところの悪魔っていう存在で──....」
男───いや、自称悪魔は話始めるが、混乱が未だ続くオレらには話なんて一向に入ってきやしなかった。
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