神様なんていない
夏木ホタル
第1話一人で二人
いつからだったかな。俺がこんなにも容易く命を摘めるようになったのは。
ボクらの心がこんなにも冷たくなってしまったのはいったい.....
いや、俺は元々そういう存在だっけ?
血濡れたタガーナイフと足元の二つの死体を見てふと思う。
《殺し屋》それがボクらの生業としていることだ。依頼を請けてただただ人を殺す。
今回のターゲットは生後7ヶ月の赤ん坊とその母親。
この人最期まで泣いてたっけ。
『お、お願い....どうか、どうかこの子だけでも見逃して下さい........お願いだから』
そう願う母親の首にナイフを食い込ませた後に赤ん坊の頭を踏み潰した。俺曰く『先に死んだら赤ん坊が死んだかどうかなんて分かんねぇだろ』らしい。
ボクらは二重人格というやつだ。毎回毎回、殺害担当は俺で、後片付けと隠蔽はボク。俺は心が痛まないかもしれないけどボクは少し気分が悪くなる。まぁ、仕事だから手を抜くつもりは無いが。
そもそも、ボクはいつからこうなったの?あの日の出来事はあまりよく覚えてないんだよな。
❲あの日の出来事❳
母さんが死んだのはボクがまだ五歳の頃だった。
元来病弱だったらしい母の体は、ボクを産んでから悪化していったようだった。
親族がボクら家族を見放す中、父は誰よりも最期まで母さんに尽くして励まして心配していた。そんな中、母さんは静かに息をひきとった。
たしかそれからだ、父が暴力を振るうようになったのは。
訳もわからない理不尽な理由で殴られ、蹴られ続けた。
ボクはただ必死に謝ることを繰り返した。あんなに優しかった父さんが怒るのはボクのせいだと考えて。何ヵ月、何年間耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐え続けて。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいどうか赦して、誰か助けてと願い続けて。
あの日はボクの17歳の誕生日。
俺が父親を殺した........らしい。らしいと言うのもその間の記憶がなくボクが目覚めたのは全てが終わった後だった。
ボクは逮捕されなかった。何故ならボクは《父親から虐待を受けていた上に、その父親を目の前で殺されて記憶障害に陥った可哀想な被害者》だからだ。
まぁ、目が覚めた時に父親を殺したのは自分なんだなと、なんとなく理解できた。別に悲しいとかはなくてむしろ心が安らいだくらいだ。
嗚呼、もう苦しまなくてすむ、辛い日々はこれで終わり。
その後、俺が色々事件を起こしてボクが片付けるということを何度か繰り返しているうちに、いつの間にか裏社会の人間になっていた。
一人で二人というのは案外この仕事に向いていて、今がある。
さ、昔に思い浸るのはこの辺にして片付け片付け。
一つ、また一つと仕事を片す度に底無し沼のように深みに嵌まっていく。このどす黒い沼からはきっと脱け出せないのだろう。
いつか脱け出したいと思う日が来るのだろうか?
いつかボクたちにも愛しいと思える人が出来るのだろうか?
............昔の事なんて思い出すもんじゃないね。
東の空が徐々に明るく染まり始めた。
長居は無用だ。早く帰ろう。ボクらはもう光になんて当たれない。
心が抜け落ちたボクらは中身が真っ黒に染まったただの殺人人形だ。
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