終焉する世界

 魔王のいるとされている方へとただひたすらに歩いて行く。

 元奴隷の少女、現女神と共に歩いた。道中出くわしたモンスターを殺しながら、先へと進む。強敵と思われるモンスターも、まるで紙切れのように、そこに何も存在していなかったかのように、殺していく。嘘だろ、と思う暇も無く。

 淡々と繰り返す作業のような工程に、どこか冷めていく自分がいる。初めに感じていた恐怖感とか罪悪感だとか、そんなものはもう一切持ち合わせていなかった。私はひどく最低な男に成り果てている。どちらか魔王かわからないんじゃないだろうか。本当に勇者ならこんなことしないのではないか。

 作業のような行為を淡々と繰り返して、ようやくたどり着いた魔王の城。

 家臣だとか、四天王だとかが私の前に立ちはだかるのだけど、私の前では紙切れ同然だった。断末魔をあげて、倒れていく。最悪な気分だ。


「よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ」

「…………」


 よくありがちな言葉を吐いてくる。私の後ろには、屍が転がっているというのに。ほんとにさあ。

 数多の命を奪ってきた剣を魔王に放り投げる。投げ出された剣は、魔王の足下に。女神も、魔王も困惑した表情を見せた。

 正直、もうどうでもよかった。現実に帰れなくても、世界を救えなくても、魔王に殺されても。終わってしまいたかった。もうこんなことはしたくない。夢なら夢でいい、終わってくれ。私は諦めていた。


「勇者よ、諦めるのか?」

「ああ」


 魔王が剣を拾い上げて、振り下ろす。

 それはあっけなく私の胸を貫いた。漫画かと思うぐらいに血が勢いよく噴き出している。

 もう痛みも、熱さも、なんにも感じない。これで終わりかと思うと、少しだけ嬉しいような気もした。もう何も考えなくていいはずだ。よかった。ようやく終わったのだ。本当に、よかった。私は助かったのだ。薄れる意識の中、そう思った。


「ねえ、ねえ。」


 ――――いやな声が聞こえる。


「許さない」


 ――――いやな声だ。


「さあさあ、勇者様。今度は世界をちゃんと救ってくださいよ」


 深く深く突き刺された剣は、もう胸にはなくて。そして魔王はもうどこにもいなくて、あの女に騙されたとかいう女神もいなくなってしまって、私はどんどんと暗闇に落ちていく。

 私が何をしたというんだ。どうして。

 小さな笑い声が響いている。焦点の合わぬ目をした女が、焦点も合わぬはずなのにこちらを見つめて、嗤っていた。





「コンテニューですよ、勇者様。今度は、失敗しないでくださいね」


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女神様の言うとおりに 武田修一 @syu00123

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