閑話 クリエイト電子株式会社内部資料から引用
〇〇模試 第二回 県立角ヶ芽高等学校
マークシート目視確認記録 問題なし[ ] 問題あり[ 〇 ]
問題ありの場合、下記に詳細を記入すること。
受験番号0312のマークシート複数にマーク以外の記入あり。
このため、正常に機械が読み取れなかった可能性がある。
受験番号〇三一二。マークの塗り方からして、とても几帳面な人。それが、こんなことある? いや、ない。係長から借りてきた今回の模試の模範解答を使って手作業で採点をし直してみた。まさかの九割超え。なおさら、こんなことってある? いや、絶対にない。
「マジか……これは……、嵐の予感がする」
大手通信教育会社が実施してる模試のマークシートの再チェックを委託されてるだけで、出がらしのお茶っ葉をかき集めるような遣り甲斐もクソも無い楽な仕事だと思ってたのになァ。
問題のマークシートには、気を抜いてしまえば見落としそうな薄い黄色の染みが付着しているのである。マークシート自体が薄い黄色をしているので、よく見ないと分からないが、確かに全体に点々と絵の具でも垂らしたかのように汚れていた。この絵の具(仮)が、マークシートを機械で読み取る際に邪魔になって本来のマークを読み取らせなかったのだろう。
「さて……どうしたものかねぇ……」
模試に絵の具(仮)って。持込なんか許可されてないでしょ、普通。なんで付いちゃってるの。じゃあ、一番考えたくないけれど、〇三一二番さん以外の誰かが書き加えたとか――?
「どうしたの、お昼行かないの?」係長は新聞片手に私のところへやってきた。
「あの、ひとつご報告したことが」私は係長の目を真っすぐ見て腹をくくった。
係長は私のデスクをちらりと見て、すべてを察してくれたようだった。
「……まずはもう一度機械に通してみよう。誤作動の可能性を確認しないことにはね」
「了解しました。あの、係長、この絵の具みたいなもの、なんだと思います?」
「うーん、僕も初めて見るけど……色は最近よく売ってる薄い色の蛍光マーカーに似てるねぇ」
「あぁ……確かに。とりあえず、他にも似たようなインクをピックアップしますね」
「そうしてもらえると助かるよ。ああ、でも、お昼ご飯はちゃんと食べて、昼休憩はしてね。今ここでキミが焦っても、それは何の意味もない事だから」
「……はい。」
「よろしく頼むよ。そうだ、他にも同じようなマークシートがないか確認してね」
こういう校外模試では、マークシートにいじめられているとの告白など試験とは全く関係の無い事が刻まれて返送されてくることがあるのだが、まさかこれが? まさかまさか。まさか、絵の具(仮)は何かのメッセージ?
さて、どうしたものか。さすがにこんな珍妙なマークシートは初めて。経験も何もない。
しかし、全力を尽くすまでだ。どうか、想像とは違っていて。
女王様の逃避行~If you want to be happy, be.~ 中瀬一菜 @ebitenumeeee
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