ホシノカケラ

すくりゅー

Episode 1

 珍しく俺宛てに手紙が届いた。

 ここから遠く離れた町に引っ越した友人からの手紙には、俺の知るより大人びた文字で、次のように書かれていた。

「今度村に帰ります。一緒に会いませんか。湖の前で待ってます。」

 そんなわけで、俺は今夜その友人に会いに行く。約束場所を湖に指定したということは、きっと覚えているのだろう。

 "ホシノカケラ"をめぐる、俺たちだけの小さな冒険譚を。


「"ホシノカケラ"よ!知らないの?」

 陽子が目をまん丸くして言った。

「知らねー」

「俺もー」

「何だそれ?」

 "ホシノカケラ"のことを何も知らない俺たちは、一斉に陽子に聞く。しょうがないわね、と言う陽子もちょっと嬉しそうだ。

「この前流星群があったでしょ?そのうち一つが裏山に落ちたんだって。で、その落ちてきた欠片を見つけた人は、何でも自分のお願いをかなえてもらえるの。」

 すげー!とみんなが叫ぶ。

「その"ホシノカケラ"というのはどこにあるんだ?」

 寛太が手を挙げて一番に聞いた。

「知らないわよ。もし知ってる人がいたら、その人が願いを叶えているでしょ。」

 残念そうにする寛太。俺もどこにあるかを早く知りたい。しかし、他の誰かにとられていることだけはあってはならない。

「待って、みんな聞いてよ」

 物知りの拓郎が、おそるおそる話に首を突っ込んだ。

「それがあるというのは本当なの?さっきから、まるでお伽話じゃないか。」

 隣にいた六郎につっつかれて、彼の丸メガネがずれた。それでも彼は負けじと頑張る。

「何でもお願いをかなえるなんて、そんなの見たことないでしょ?」

 まあ、確かに。こういうのは漫画やアニメの世界のことだ。

「だけど、もしかしたら本当かもしれないじゃん。拓ちゃんだって、叶えてほしいお願いがあるんじゃないの?」

 口を尖らせて何かを呟く拓郎。何をお願いしたいの、と陽子に聞かれると、

「んー、マグロのお刺身を腹いっぱい食べたいなあ」

 と答えた。それはお母さんに頼めよと、すかさず突っ込む六郎。拓郎含め、みんな大笑いだ。

「そうと決まれば、今から裏山に行って、"ホシノカケラ"を探しに行こうぜ!」

 ランドセルを背負って教室を出ようとしたら、窓の外から呼ばれた。

「おーい、まだか?こっちのチームは全員揃ってて暇なんだけど」

 この声は寛太の兄だ。そうだ、今日は五年生とサッカーの試合をする約束をしていたんだった。

「"ホシノカケラ"どうする?」

 今からサッカーをすることは確実だが、明日になったら誰かが見つけていた、なんてことがあったら困る。

「じゃあ、家帰ってご飯食ってから集まるのはどうだろう。」

 俺がそう言ったら、みんな同じような徴妙な顔をした。

「⋯夜の裏山はダメだろ。村の大人たちから散々言われるじゃん。『夜の山に入ると魔物に喰われるぞ』ってさ」

 六朗が言う。顔を見るだけで、行きたくないのがわかる。

 魔物なんて本当はいない。大人たちが勝手に言ってるだけだ。俺は村と山のギリギリ、というか山に入ったところに住んでるけど、魔物なんて見たことない。でも、幼稚園の時から、山で花火しようとか探検しようとか誘ってもうんと言ってくれたためしがない。

「じゃあ、"ホシノカケラ"が本当にあるのか今夜俺が偵察してくる。もしあったら、明日の放課後に取りに行こうぜ。」

「壮太、勝手に自分だけおねがいするなよ!」

 するかよ、と寛太に突っ込む。

 窓の外から、まだかと呼ぶ声がする。


「母さん、"ホシノカケラ"探してくる!」

「え、何しに行くって?」

 既に右足をスニーカーに入れた俺に、台所から母さんが小走りでやってくる。

「学校でウワサになってるの。この前の流星群の時の流れ星が一個塞山に落ちてて、その"ホシノカケラ"を見つけたらお願いを叶えてくれるんだって。俺は偵察隊だから、今日は"ホシノカケラ"が本当にあるのか確認するんだ」

 へー、という母さんに、じゃあ行ってきます、と言ったら待て待て、と止められた。そのまま母さんはキッチンとロッカーに行って、またすぐに戻ってくる。

「はい水筒。熱中症なめてたら死ぬよ。きちんとこまめに飲みなさい。あと懐中電灯。偵察隊といっても、どうせあんた一人なんでしょ。慣れてるとはいえ、夜なんだから気をつけなさいね」

 帽子だけを持っていた俺は、加えて二つの荷物を手に持った。

「なるべく早く帰りなさいね。」

 はーい、と返事をして回れ右。装備も整えて、出発も見送ってもらった。偵察隊、いざ出動…!

 草木から、松虫の鳴く声が聞こえる。

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ホシノカケラ すくりゅー @Rapture_SC

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