第45話
ジェロニモの向かった先は──ミマヨの特別パーティーが行われたホテルだった。
道すがらジェロニモとTの瞳に映る
あちこちで人間がゾンビどもに貪り食われている。
道端で、ビルの中で。
ゾンビと一緒に人間の
交通は完全にストップしている。
どこかで封鎖線が敷かれたに違いない。
建物の一階に突っ込んでいる警察車両や引っくり返っている機動隊車輌もあった。
最初に到着した機動隊とサブマシンガン部隊は潰滅していた。
スピードもパワーも人間を遥かに凌駕する数百体のゾンビどもを二十人程度のサブマシンガン部隊でどうにかできるはずもなかった。
機動隊員たちは顔から食われたようだ。
フル装備の機動隊員の唯一素肌が見える部分が顔だったからだ。
さっきとは比較にならない数のヘリコプターが頭上を舞っていた。
マスコミか、警察か、それとも自衛隊か。
実況、偵察、あるいは屋上へ避難した人々がいて、それらの救助のためか。
いずれにせよこの状況はまさにカオス──渋谷の街は阿鼻叫喚の舞台と化しつつあった。
ジェロニモとTはお互い透明なままその中を突風のように走り抜けて行く。
さしものスーパーゾンビどもも二人に気づくことはなかった。
Tはミマヨとミマヨの社長を脱出させるときガラス壁を大きく
ガラス貼りの壁面を一気に駆け登った二人はそこから中に入った。
ワンフロアー貸し切りで空いていた、ミマヨのパーティー会場とは別の広間だ。
暗黙の了解──ミンチになった男馬信者はじめ死体だらけで
部屋に
ゾンビどもがミンチを食っているようだ。
バサバサという羽音にギャーギャーという鳴き声も聞こえる。
「フッ、ここにもカラスが来てやがる。人間よりよっぽど勇気あるよな。オレ昔からカラスが好きなんだよ。ちょっと餌やるとすぐ懐くしな。だから逆においそれと餌やれねえんだよな。反対にいじめた人間はいつまでも覚えてるしな。カラスの黒って濃い青色なんだよな。幸せの青い鳥はカラスなんだよ。さてと。このまま始めてもいいが、それじゃ味気ないだろう。お互い姿を現そうや」
言ったTはミマヨたちを脱出させたときの格好だった。
ジェロニモは両肩と両膝にグレーのプロテクターが付いた白のレーシングスーツに白のレーシングブーツを穿いていた。
Tは短く口笛を吹いた。
「いいねぇ、ジェロニモ。イカすぜその格好。さっきの対決もお互いこっちのほうが様になったよな。まぁいいか。ジェロニモ、なにか言い残すことはあるか」
「……ない! だがカラスについてはおまえと同意見だ」
「フフ、そうか……仕込みは済ませたか? まさか、ただ人殺しながら逃げ回ってただけじゃねえよな?」
「仕込み? なんのことだかわからんな」
「いいさ。オレにしてみりゃどっちでも構わん。だがもしおまえがオレと同じことを考えてそれを実行したとしてだ、次会うときおまえはオレを覚えているのか?」
「さっきから何を言っているのかさっぱりだが、俺たちゃ超人だぜ?」
「まぁ次会うときゃ、双子の弟とでも名乗れよ。って、これから食われるおまえに言っても意味ねえか。それともこれもテレパシーみたいに伝わってるのか? 自分でやったことねえからわかんねえや」
「おいT、気持ち悪いぞおまえ。どう見てもおまえのほうが俺に言いたいことがまだまだあるみたいだぞ」
「そうかもな。オレはよ、ジェロニモ、別におまえの教団が日本を支配しても全然構わなかったんだぜ。オレとオレの女を狙ってさえ来なければな。おまえは勝手
「俺は背伸びし過ぎたのかもしれん。あいつら一番歳上のポカンでも十九歳だからな。俺やおまえと同じ力を持ってるはずなのに誰もニュースにならないってのは、普通に青春を楽しんでるのかもな」
「そうだよ。楽しめるときに楽しんどくのが人生よ。いつ死ぬかわかんねえんだからよ。おまえのその真面目なところ、オレは嫌いじゃなかったぜ。次は教祖とか面倒臭えことやらないで遊んで暮らしたらどうだ?」
「そうだな……考えれば考えるほどそうするべきだったと思うよ、今は」
穏やかな表情でジェロニモは言った。
「今度はオレから行くか? おまえから来たけりゃ来てもいいぞ。それか用意ドンで同時に行くか?」
「用意ドンでいいよ」
五メートルの距離で対峙するTとジェロニモ。
「用意……ドン!」
声を揃えて二人が交差する──
Tが言っていた通り、全力で走ったらマスクがダメになる前に部屋に着けた。
このときのミマヨは後日『物凄い速さで走るスーツの奴』として新たな都市伝説となる。
テレビ東京含め特番ばかりで、これもTの言った通りだった。
Tの言った通りじゃなかったのは、ゾンビどものスピードだ。
Tにとっても予想外のようだった。
行けミマヨ! 後ろを見ずに走れ!
猫科の猛獣レベルのスピードと身のこなしでミマヨと社長に躍りかかった数体のゾンビどもの首を刎ね飛ばしながらTはそう叫んだのだ。
社長は助かったのかしら?
部屋に戻るや社長に借りた服は燃えるゴミに
ピンクのシースルーのベビードール一丁でソファーに座り、買い貯めしておいたポテトチップスを頬張りながらミマヨは画面を見つめる。
渋谷区は完全に封鎖されて陸の孤島になっていた。
他区との境には都内の各駐屯地から派遣された部隊に戦車が続々と集結中だ。
外国でクーデターが起きたときの映像のようだった。
亜婆首相にしては思い切った布陣であった。
装備は一流、火力も十分、だが果たして彼らにスーパーゾンビどもを食い止められるのか、ミマヨには
彼らにあのスピードと身のこなしで動くゾンビどもを捕捉することができるのか。
余計なことを考えなければ、全てはその一点にかかっていた。
がんば。
ポテトチップスを
コンコン。
地上百二十メートルの高さにあるバルコニーのガラス戸が叩かれた。
レースカーテン越しに見える外はまだ明るい。
時刻は午後六時五十分だった。
もう終わったらしい。
ミマヨはソファーから飛び起きガラス戸に駆け寄りカーテンを払い除けるや勢いよく引き開けた。
「お~やってるやってる。ミマヨォ! 早くこっち来いよ一緒に観ようぜ」
居間から聞こえたその声にミマヨの顔が大きく
「アッハーン。今行くぅ」
Tは全裸でソファーに座りポテトチップスを食っていた。
ミマヨはおっパブのサービスタイムのようにTに向かい合ってその膝の上に
「おいおい、オレテレビ観てんだけど」
「なぁにぃ~? あたしよりテレビがいいっていうのぉ?」
言いながら母乳でパンパンに張った、真っ白な肌にマスクメロンの
「ウリウリ~ッ。どうだっ、どうだっ。えいっ、えいっ」
既に両乳首から勇み足の噴乳が始まっていた。
こういうとこだよな、悦子との違いは……あいつならオレの気持ちを第一に優先する……
そう心でクールに分析しつつも現実は母乳まみれの超魅力的なだらしないにやけ顔になるTだった。
(了)
超人ゾンビ 魚木ゴメス @oredayo
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