第6話

「もう無理…」


廻理は川辺に倒れながら呟く。


「まぁ最初にしては良くやったと思うぞ?まだまだ足りないがな」


叶絵は廻理を見下ろしながらそう告げる。


現在の時間は深夜2時を回ったところ、出歩く人なんてほとんどいない。


廻理は、フラフラと立ち上がると追い討ちをかけられた。


「さて、今日はここまでにしておくか?いや、立つだけの元気があるなら走ってもらおうか」


と師匠が笑う。


廻理としては立ち上がる前に言われたら立てないと言っただろうが、立ち上がった後に言われたんじゃ言い訳が出来ないと感じた。


師匠、性格悪いな…絶対わざとだろう。


「こうなればヤケだ!」


倒れても構うものかと廻理は走り出す。


走り出すと言ってもほとんどスタミナが残っていないためスピードも全く出ていないが…





意識が朦朧としてきたが、構うものかと身体を動かし続ける。だが、とうとう限界がきた。足を滑らせ転んでしまった。


「イタタタ…」


「ふむ、とうとう体力を使い切ったか…おや怪我をしたな」


と師匠が転んでできた擦り傷を見る。


「もう動けません。それに足も痛いです」


「それはそうだろうな、怪我に関しては大丈夫だ」


と言い師匠が怪我をした所に手をかざすとほんの少し光が生まれる。


「これも巫女の力ですか?実は別世界の魔法使いだとか言ってくれた方が納得するんですけど…」


怪我が治った足を見て驚く。


「これも巫女の力だよ。戦闘力はないがかなり便利だろう?回復の能力もないと霊異と戦う霊断士のサポートなど出来ないからね」


「やっぱり怪我とかあるんですね…」


「良くあることだ。霊断士と言えど人間だからね。死ぬこともありふれている。霊断士が死ねば当然ながら巫女も死ぬ。私はそんな話を良く耳にするよ」


そう答えた師匠の表情はどことなく悲しみを強く帯びているように感じたのは気のせいではないのかもしれない。


「さて、帰るとするか。廻理、立つことは出来るか?」


「もう冗談抜きで立てませんよ」


「そうか、まぁ頑張って帰ってくれよ?」


と言い師匠は去っていく。


「はい…えええ!ちょっ、待ってくださいよ!肩を貸してくれるとか無いんですか?嘘でしょーー!」


声は届いているはずだが、師匠はそのまま見えなくなる。


「あいつ、鬼かよ!何が師匠だ。あの人の性根こそ霊異並みじゃないか?霊断士になったら絶対に倒してやる」


と師匠がいないことをいいことに悪口を言いながらも地面を這う。



だが地面を這うのもそこまで長くは続かない。


「やっぱり無理、眠気もヤバイしもう寝たいな…ここで寝ちゃう…か…」


と言いながら廻理は意識が途切れる。




「冗談で置いていってみたが少しは根性があったみたいだな」


戻ってきた叶絵は廻理が元いた場所から移動していることに感心した。


「こんな所で寝ていたら身体を壊すし運ぶとするか…」


簡単に廻理を持ち上げて叶絵は歩き出す。


「ふふっ、大きくなったじゃないか廻理」


と母親のように言いながら微笑むのだった。




ピピーッ、ピピーッ!


スマホのアラームが鳴り廻理はすぐにそれを止めるそしてすぐさま二度寝に入ろうとする。


だが寝る前のことを思い出し、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。自分は外で寝ていたはずだと。


「ここは!」


だが寝ていたのは地面の上ではなくホテルのベッドだった。


「どうやって戻ったんだ?…ん?」


スマホの近くにあるホテルのメモ帳にメッセージが書いてある。


『起きたか?さすがに弟子を置いて帰るなんてことはしないさ。ちょっとした冗談だ^_^』


絵文字がなんかムカつくな…


でもホテルまで運んでくれたということは感謝しなければいけないよなと思う。




「身体が痛い…ということはないな」


筋肉痛にならなかったのは廻理にとっては予想外だったが、師匠が巫女の力とやらでどうにかしたのかもしれないと納得する。


ホテルでの朝食をとった後、街に出て散策する。軽くジョギングするのも良いかもしれないと思い服装は動きやすいものにした。


ふと、交番の前に来た所で掲示板に貼られているポスターに目が釘付けとなった。


それはどこにでもある、人を探しているという内容のポスターだ。いつもの廻理なら、早く見つかると良いなと思うが今回はそんなことを考えることは出来なかった。


「これは、あの人だよな…?」


写真を見ながら呟く。


ポスターに写っていたのは間違いなく、廻理が初めて霊異に遭遇した日に霊異によって喰われた酔っ払いの男だった。


掲示板を少しの間眺めていたら見回りから帰ってきたであろう警官が声をかけてくる。


「もしかして、その人について何か知っているのかい?」


と尋ねてきた。


「いいえ、少しポスターが気になっただけで知ってる人じゃないです」


冷静を装って答える。


「そうかぁ、平和に見えて世の中は物騒だからね。君も気をつけてくれよ?」


と警官が言う。廻理の嘘はバレてないようだった。


ボロが出ないうちに廻理はその場所を離れる。


「師匠に聞きたいことも出てきたな…」


普通に歩いている廻理の心臓は、ランニングしたかのようにドクドクと速く動くのだった。

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霊異の解放者 @Ritoha5680

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