君には内緒

 嫌なことってそうそう忘れられないらしい。それこそ、楽しかったことを覆い隠しちゃうくらい。

 言われてみればそうだよなぁ。中学校のときのイジメとか、未だにトラウマだし。中学校のこと思いだそうとするとイジメのことばっかり思い出すから、楽しかったことが思い出せないんだよね。

 思い出ってそんなものだよなって思ったら納得すると同時に、それがどこか曖昧なものに思えて寂しくなった。

 例えば、私のこの彼氏。今はお互いに好きだよって言ってるけど、いつか別れがくるかもしれない。その時、君は私のことを嫌な女だったって言うのかな。

「最初はかわいくて、気の回るすごく良い子だと思ったよ。でも、意外と嫉妬深くてさ、他の女の子と連絡とるのすごく嫌がるじゃん。そういうの重たいんだよ」

 別れのシーンは何度も想像している。そしてそうならないように、想像の時間を巻き戻すのだ。きっと彼は私のこういうところが嫌い。でもこういうところが好き。好かれる私にならなくっちゃ。嫌われる私なんか要らない……。

 いっそ明日、交通事故で私だけ死なないかな。そうしたら、君の記憶に残るのは好きだった私だけだよね。それで、恋人が死んだっていう忘れられない出来事になるね。

 こんなこと考えてるって知られたくないな。これこそ嫌われそう。

 でも、いつ君が私以外の人好きになるか分からないんだもの。いつか捨てられるくらいなら、いっそ嫌な思い出になりたいんだよ。でも、君にはこう言われちゃうかな。「恋人なのに、どうして信じてくれないの?」

 君には分からないだろうなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋だとか愛だとか 椿叶 @kanaukanaudream

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ