公園で
女性が顔を上げて、優しく笑う。つられて僕も笑顔になる。
「今日、まずい事があったんです」
「どんな?」
「クラスの女子に、僕の秘密がバレそうになって」
「それはまずいわね」
「はい。なんとか誤魔化したんですけど…」
「まだ安心できないのね」
「なんというか、すごく嫌な予感がして。今日だって——」
そうして、僕と女性は五、六分くらいだろうか、話をしていた。
「やっぱり、あなたに聞いてもらうとすっきりします」
「それは良かった」
「明日からどうしようかなあ。何か良いアイディアありませんか?」
ぷつっと、女性が何も答えなくなる。上げていた顔も、いつのまにか来た時のように俯いていた。
今日はここまでか。
また明日来ます、と小さく呟いてブランコから立ち上がり、歩き出そうとしたその時。
「北野くん。これは、言い逃れはできないよね?」
目の前に、木坂が挑むように立ち塞いでいた。その表情は、今朝みたいな笑顔ではなく、真剣だった。
「ずっと尾行してたのか?」
ひとまず公園内のベンチに座った僕と木坂。なんとなく気まずい雰囲気が二人を包んでいた。
木坂がなかなか口を開かないので、恐る恐る話しかける。
「うん。気付いたら教室にいなくて少し焦ったけど、駅で見つけて。そこからずっと」
「尾行はいつも?」
「違う違う。今日が初めて。でも案外バレないんだね、尾行って!」
「いや、そこ感動しちゃいけないとこだと思う…」
さっきまで真剣な表情をしていたのが嘘のように、パアッと明るい笑顔で楽しそうに話している。気づいちゃいけないことに彼女が気づいてしまった気がしてならない。
「木坂って、こっち方面だっけ」
もし真逆のところに住んでいるんだったら、素直に行動力を讃えたい。ただのクラスメイト相手に、ここまで来るなんてなかなか出来ない。たとえ、何か特殊な能力を持っているかもしれない奴だとしても、だ。
「そうだよ、やっぱり知らなかったんだ。私はこの公園の前を通っていつも帰ってるの。北野くんこそこっちじゃないでしょ、本当は」
軽く頷く。なるほど、それは怪しがられても仕方ない。近所じゃない僕がこの公園にいるのを何回か見られていたのだろう。
所詮、ただのクラスメイト。またここに来ると予想して尾行してきたのだろう。
「北野くんって…厨二病?」
「…は?」
突拍子もない質問に、耳を疑った。
「ほら、さっきまで誰かと話してたじゃない。私には見えない誰かと。それって厨二病の症状なのかなって…幻想? いや妄想? と話してるのは厨二病だよね?」
頭を抱える。僕って、外から見たらそんなにキモいやつだったのか。それにしても、彼女の厨二病に対する意見、だいぶ偏ってないか? というかなんで最初に厨二病が出てくる? 普通、霊感あるの? とかじゃないのか?
突っ込みどころがありすぎて言葉が出てこない。
「もし本当にそうなら、私、もう何も言わないから、ね?」
「…僕には、あのブランコにミニスカを着たツインテールのロリ娘が見えてるんだ」
そう言った瞬間、彼女は僕から拳五個分は離れた。そして、全力で愛想笑いをしながら
「へ、へえ! わ、私にも見えるよ、その女の子!」
全力で合わせてくれた。もしかしたら、木坂は案外優しいのかもしれない。
「嘘だよ。僕は厨二病じゃない」
「…本当に?」
「ああ」
なあんだ、と息を吐く彼女。だけど離れた距離はそのまま。信じてもらえていないのかも。
安易に嘘はつくものじゃない、と身にしみて感じる。
僕と、記憶たち 異空 世之 @ikuu_yono
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