第3話

 ナクが言う、

「オコル…」

 オコルが落とされた。オコルが死んでしまいそうだ。


 オコルが言う、

「お前と別れて清々してるぜ」


 僕は、どんな景色も真っ暗に思えた。オコルの記憶が、僕にも刻まれた。

「力が無くてごめんね、オコル」

「エースはお前だ」

「お前になら託してもいい」

「みんなの記憶に僕が残らなくても、歌の記憶を持て」

「よろしくね、後のことは…」


 そして、最後にオコルの記憶、『オレは役に立てたか? リーダーにしてエース、まとめ上げてくれ』。オコルの心の奥底の怒りに隠れた優しさが伝わってくる。


 僕は、なんてバカだったんだ…。記憶が紡がれなければ分からないのかよ。オコルは、僕に任せると言った、記憶の中で。どうでもいいと思っていた仲間達の記憶が溢れてくる。一つ一つ違う重み。みんなは噛み締めていた。僕だけエース気取りだった…。一人一人の違う感情。メッセージ。


 僕は、何度でも歌う。この旅のなか、一羽一羽違う決意と景色を見出だしたんだな。全てを歌にする。この記憶を、サトシとヨーコに持ち帰りたい。


 頭が更に重くなる。しかし、全ての記憶を焼き付けろ。それが僕に力を与えるから。後どれくらいで着くんだ? 僕は、仲間達との時間、そして記憶との向き合いを大切にしはじめていた。


 いつの間にか、僕達は三十羽を切っていた。心が痛む。仲間を失うのがこれ程の痛みとは思わなかった。もし、分かっていたなら、数々の不幸を未然に避けられただろう。でも、その不幸が、歌となる。歌いたいんだ。みんなの決意と見てきたものを。託されたものを。ナクは強くなったよ。それも歌にしたい。


 僕は言う、

「ワラウー、生きていてくれよ!」

 しかし、それは叶わなかった。ワラウの記憶が、僕達に宿る。脳にしわが増える。


『ナクでもツバサでもいい。僕の替わりに和み役になってくれ。』

 それが、ワラウの僕達へのメッセージだった。ワラウは、全ての仲間を見ていた。どうすれば仲違いしないか、常に考えていた。僕は、それも歌という力に変える。メロディと歌詞が揃ってきた。


 目的地は近い。ハンター達も力が入ってきたようだ。記憶に残すんだ、みんなの想いを、そして見てきたものを。それが最高の歌だと思うから。


 サトシとヨーコは、今何を思う。このドラマを信じているだろうか。死にゆく定めを歌へと変えて、僕達は進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る