第4話

 僕は言う、

「ナク、ナク、混乱の地だよ。見えたよ」


 ナクが答える、

「うん。早く行って、ツバサ!」

「エース行けー」

 とみんなも応援してくれる。


 どういうことだ? いや、わかる。記憶達も同じことを言っている。ハンター達が溢れてこちらを狙う。


 ナクは言う、

「最後は泣かないよ、わたしは。嬉しいから。ツバサの勇姿が見られるから」


 僕は言う、

「バカどもが…」


 みんなが言う、

「最大のバカはお前だ、ツバサ」


 仲間達が、おとりになっていく。そして、落ちていく。僕の頭が、更に重くなっていく。ナクの記憶が、僕に受け継がれる。『絶対に歌を届けて!』か…。どんどん成長していくナクの姿が、記憶として残る。後もう少しで目的地だ。行くぞー。あれっ? 頭が重すぎる。鳥には大きすぎる記憶だったようだな。


 僕は落下していく。僕は叫ぶ、

「みんなの記憶を絶対に届けるんだー」


 何度も落ち、再び浮上し、それの繰り返しだ。後少しなのに…。届かない。僕は歌を歌う。全ての記憶の歌を歌う。無情にも、海へ落ちてしまった。みんな、ごめん。サトシとヨーコ、ごめん。


 薄れゆく記憶の中で、僕はほこらに横たわっていた気がする。僕にもわかる、死ぬ時の近いことが…。ごめん。


 キオルが言う、

「すばらしい歌だった。わたしは、ドリームの中だったようだ。帰還出来たんだな、僕は。麻薬の中を泳いでいた。その中で、オルゴールが閃いた。この歌をオルゴールに残す」


 キオルはエンジェルの餌食だった。しかし、僕の歌で帰還出来たらしい。ユメの中で見た、オルゴールの作り方。僕の記憶は機械化される。そして、僕は力尽きる。みんなの記憶は残されたんだ。


 サトシが言う、

「聞こえたかい?」


 ヨーコが答える、

「ああ。届いたんだね。思い出達が降る夜のように。みんなは多くの経験をした。私達の想像を超える名曲だったよ」


 …そして、時は現在に戻る。青年は、オルゴールを開く。そして言う、

「これは何だ? これは宝なのか…。億単位の値のつくものなのか?」


 ツバサの、そして鳥達の歌が響き渡る。破壊の歌だ。いまだにエンジェルのドリームは続いている。欲望の女神は、耳を傾けている。破壊だ。世界が壊れていく。凄まじい兵器の記憶が、人々の脳裏を占拠する。


 自分勝手な世界は崩壊した。自らの欲望を満たすだけの世界は崩壊した。恐怖の後に訪れたきずな達。自らがどれほどの罪を犯したか。そして、それを償うものを知らしめる歌。そして、何よりも心に訴えかける魂だった。


 人々は、自らの過ちに気づいていく。

「熱い、熱いぜ!」

「オレ達がやって来たことは、何だったんだ」

「私も、もう一度やり直したい。いえ、今度は進むの」


 エンジェルは崩壊した。青年が言う、

「発明か。僕はやってやる。世界を見るんだ。オルゴールをたくさん作って、たくさんの曲をみんなに聴かせるんだ。最高の秘宝だったよ」


 オコルが言う、

「なあ、ツバサ。もう次が出来てるんだろ?」


 ナクが言う、

「私も参加させてよー」


 ワラウが言う、

「僕は、ニコニコしてればいいんだね」


 僕は叫ぶ、

「天界から地上へ届け、ロックンロール!」


 みんなは答える、

「おー!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る