03 人質(+ある男3)
マンション内。
『エミル……必ず助ける。おれを信じろ』
電話のむこうで父がそういうのをエミルはきいた。
続けて、シニカルな物言いの低い声がきこえた。
『珍しい遺言だな。エドワード・イーストンくん。守ることのできない約束は、しないほうがいいと思うが』
エミルはいまフリッツに捕まっている。こめかみには拳銃の先が当たっていた。自分の父がいまどういう状況におかれているのかも理解できた。
それでも言うことはひとつだった。
「信じてるよ、パパ。ぼくを助けて……!」
『あっはっはっはっ! ……息子が早く自殺するよう言っているではないか、エドワード・イーストンくん。さっさとしろ。……あ、そうだ。フリッツ』
「……なんですか、兄さん」
エミルの背後で、フリッツが応答した。
『私がファイブカウントしたら、エミルくんを撃つんだ。……さきに言っておくが、足とか肩とかじゃだめだぞ。その歳で苦痛にもがくのは可哀想だ。ちゃんと即死するよう、頭を撃ってさしあげろ』
「わかりました。兄さん」
フレドリックは電話のむこうでカウントをはじめた。
ワン。
ツー。
スリー。
フォー。
——そのとき。
「……こりゃいったいなんの騒ぎだ?」
コリーが廊下のむこうからやってきた。
「フリッツ、お前、何をやっている? 子供に銃を向けるなと言っただろ? その銃をおろせ」
『なんだコリーか? 私だ。フレドリックだ。ピンチなんだ。助けてくれ』
フレドリックがむこうで言った。
「断る」
コリーは短く切りすてた。「さあフリッツ。その銃をおろせ」
「ボス……」
フリッツは銃をおろさなかった。「さすがにボスの命令でも、こればっかりはきけません。兄が助けを求めているんです」
「だからと言って、子供に銃を突きつけるのはだめだ。それをするのは、この世でもっとも醜い生き物なんだよ」
「ボス……」
フリッツはゆるゆるとかぶりを振った。「きけません」
「そうか」
はあ……、とコリーは残念そうに息を吐いた。
そして。
彼はジャケットの内ポケットから銃を取り出して、フリッツにむけた。
***
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