第4話
ちんっと音がして、エレベーターの扉が開きます。今度はどこへ連れていかれるのかと思っていたら、ざわざわとした人ごみと、見慣れた病院の風景が飛び込んできました。
夢から醒めたような想いでエレベーターから降りずにぼんやりとしていると、私より背の高い男の子が乗り込んできました。高校生ぐらいでしょうか。私服姿だったので、はっきりとはわかりませんでした。
「お姉さん、降りないの?俺、3階に行くけど」
青白い顔してぶっきらぼうな声でどうするのかと聞いてきます。具合が悪いのかもしれません。髪は染めてはいませんでしたが、耳にピアスをつけていました。
「あ、ごめんなさい。降ります」
慌てて頭を下げてエレベーターの扉が閉るのを見送りました。あたりを見回してみましたが、何か変わった様子はどこにもありません。
「夢だったのかしら?」
夢にしてはあまりにリアルで、あの高校生が行った先には自分も行ってみたいと思いました。緑のやわらかな草が揺れる場所は、胸の奥がきゅうっと苦しくなります。涙が出そうになるのをこらえて、私は受付にむかい会計をすませました。
その数日後のことです。この病院を退院した方と話す機会がありました。そして、あのエレベーターの不思議な話を聞きました。あの病院には死者の魂を運ぶエレベーターがあり、たまに生きている人間も乗ってしまうことがあるそうです。
生きている人間が、不思議な場所で降りてしまうことはほとんどないそうですが、たまに降りてしまい、数日後に別のエレベーターから降りてくることがあります。神隠しと言われるそうですが、奇妙なことにその人が不在だった日々をまわりの人が変に思うことがありません。いなかったこともいたことも気づかれないのだそうです。
神隠しと呼ばれることもありますが、すぐにそういった違和感は掻き消えていつもの日常が戻ってきます。
私は死者の魂を運ぶエレベーターに乗ってしまったんでしょう。一緒に乗っていた高校生は、肉体を捨ててあの綺麗な場所へ行くところだったんですね。海に行ったり宇宙に行ったり、なぜあちこち不思議な場所へエレベーターが行くのか、その話まではしませんでした。もしかしたら、彼の生きている間に行ってみたい、見てみたい場所だったのかしれません。私まで好きな風景を見せてもらって、得しちゃったのかな。
降りなかったことにほっとしながらも、彼が行った草原へ行きたいと思ってしまいました。
エレベーターの行き先 天鳥そら @green7plaza
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