第3話
扉が閉り次はどこへ行くのだろうかと思っていると、隣にいた高校生がふと顔を曇らせました。それから私の方を見て真剣な表情で言います。
「次で僕は降りなきゃいけないけど、お姉さんは絶対についてきちゃだめだよ」
「あなたは降りて大丈夫なの?」
「僕は降りなきゃいけないんだ」
どういうことだろうかと首を傾げていると、ちんっと音がして扉が開きました。目の前には緑の草原が広がっています。丘のようになっていて、その先には白くて大きな犬が尻尾をふっていました。驚いたことに、隣には白い大きな翼がはえた女性が笑っています。頭上に浮かぶ金色に輪っかを見て、私は思わず口元を抑えました。
「やだ、天使じゃない」
天使は右手を上げて、こちらへおいでという風に手を振ります。私がどういうことだろうかと思っていると、隣にいた高校生が扉の向こう側へ足を踏み出しました。
「あ、あの。あなたは戻ってこないの?」
扉の向こうへ行けば戻るのが大変か、戻れなくなると言っていたではないですか。彼は大丈夫なのでしょうか。
「僕は行かなきゃ。お姉さんは、そのままエレベーターに乗って。次はちゃんとお姉さんの行くべき場所に行くから」
待ってと叫んで思わず足を踏み出しそうになりました。けれど、私の足は床とくっついてしまったようでちっとも動きません。金縛りにあったわけでもないのに、声を出すことも動くこともできず、高校生が草原に向かって歩いて行くのを眺めていました。
高校生は白い犬をなで、天使に抱きしめられた後、私の方を振り向きました。晴れやかな笑顔で私に手を振って、そのまま天使と手をつないで去って行きます。白い犬が尻尾をふって高校生の後をついていきました。
声も出せずに高校生の後ろ姿を見送る私の前で、扉がゆっくり閉まります。エレベーターはがたがたと音をたてながら、ゆっくり下へと降りていきました。
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