第2話
しばらくエレベーターに乗っていると、ちんっと音がしました。やれやれ、これでこの妙な空間から解放される。同時に隣にいるちょっと不思議な高校生からも、離れられるとほっとしました。開く扉を見て慌てて降りようとすると、また腕をがしっと掴まれました。扉の開く先を確認しないまま高校生の方を見ると、困ったような顔して微笑みました。
「降りちゃだめだよ。お姉さん、溺れちゃう」
「お、溺れる?」
エレベーターの開いた先は海の中でした。ピンク色のサンゴ礁に白い砂浜、南の島の浅い海の底の様でした。太陽の光がさんさんと降り注ぎ、赤や黄色の魚たちが楽しそうに泳いでいます。多きの岩にはヒトデやイソギンチャクが張り付いていました。奥の方から大きなウミガメが泳いでくるのが見えます。
「え?なんで?海??」
驚いてる私の目の前で扉が閉まりました。高校生はほっとしたように、私の腕を離します。
「これから扉が何度か開くけど、絶対向こう側へ行かないでくださいね」
「これって、どうして?」
「向こう側に行ってしまうと戻るのが大変だし、戻れないこともあるから」
いや、これが一体何なのか聞きたいんだけどと、言いたい気持ちを飲み込んでこくんとうなづきました。この高校生がどういう人間かはわかりませんが、逆らわない方が良さそうです。ちゃんと元の病院の1階の受付に戻れるのかと、心配になりながら次々開く扉の向こうを眺めました。
富士山の山頂から見る日の出、森林の奥で寝そべっているクマの親子、砂漠の夜空に広がる天の川。北極に浮かぶ流氷にオーロラ。宇宙空間に飛び交う宇宙船と美しい流れ星。映画館で映画でも観ているような気分になり、だんだんと楽しくなってきました。
「実際に行けないのが残念ね」
「お姉さんはどこか行きたい場所があるの?」
次々と広がる美しい景色を眺めているうちに気持ちが軽く、口も軽やかになっていました。
「そうだな。古いお城があるような場所とか」
私がそういった後、ちんっという音がして扉が開き、今私が言ったお城の風景が現れたので高校生と顔を見合わせて思わず笑いだしました。
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