第5話続いてゆくもの
「私の音は大きく、そなたたちにはやかましく感じるかもしれぬが、そなたたちは「聞く耳」も持っておるだろう。以前とても美しい声でさえずる小鳥の声がしたので、その主を探していたら、そなたたちだった、雀よ」
と雷神様はおっしゃいました。スズメには言えぬことですが、その時は本当に驚いたのです。人間界に降り、人と同じように道を歩いていた時の事でした。聞いたことのない、かわいらしい美しいさえずりが聞こえてきたのです。
「どんな珍しい小鳥なのだろうか、風神殿の風に運ばれて、この国にたまたまやって来たのだろか」
とお思いになり、あたりをそれこそ人のようにキョロキョロとなさいました。するとちょんちょんとスズメがそばまでやって来て、その美しい声で歌い始めたではありませんか。
「ほう・・・スズメだったか」
それは素直で、神である自分を少々考えさせられることでした。雷神様にとっては衆生を救ったり、他の生き物の事を深く考えることはあまりなさいませんでした。その事にはまたそれぞれの神がいらして、自分の領分ではなく、それを犯すべきでもないとも思っていらっしゃったのです。ですから最初に「この雀は飛べぬかも」と思われた時に、神様の力で傷を一瞬で癒すことをどこかで
「やりたいが、やるべきではないだろう」ともお思いになられていたのです。
「どうもスズメには考えさせられることが多いようだ」
と自分の言葉の返答に迷っているスズメを見ておられました。
「ああ、雷神様、ありがとうございます、しかしあのさえずりはまた特別なものでして」
「そうではあろうな、つがいを探すためであろう」
「ハイ、今度からは音も良く聞くことが大事であると思いました、雷神様」
「ハハハハハ、そうか、それではどうだ、私の側で音を聞いて、雷のさまを見て見るか? 」
「え? 」
雷神様としてはスズメに対するお礼のようなものでした。しかし今度は驚きとうれしさで動かなくなっているスズメをご覧になりながら、今の自分の言葉があまり良くないことのように思いました。
神様として特定の生き物に何かをしてやることも問題なのですが、
それ以上に
「私の高さまで一緒に上がったら、濡れたこのスズメには寒いか」
とお考えになっていたのです。雷神様も風神様同様、お優しいのです。
しかしスズメの返事は雷神様の思いもよらぬものでした。
「ありがとうございます、とても光栄に存じます。実は私も以前もっと雷を高い所で見た方が良いだろうと、かなり高くまで上がったことがございます。しかしあまりにも高く上がりすぎて今度は良く見えませんでした。雷神様、きっと今日のものはその新しい太鼓のために本当に特別なものになっておられると思うのです。私はここで十分でございます、少し小高い山で周りが広く見渡せますので、今日のあなた様の雷がすべて見ることができます」
それを聞いて、雷神様はひどく驚かれましたので、さすがにスズメは困惑いたしました。「神様のお心遣い」を断ったのですから、確かに自分の言ったことは分の過ぎたことだったかもしれないのです。
しかし、雷神様はまた
「ハハハハハ」
とお笑いになられました。
「そうだ、雀よ、そなたの言う通りだ。私が稲妻の形にこだわらないのは、私が「真上から」見ているからだ。真横から見ているそなたたちにかなうはずもない、そうか、ハハハハハ、また教えられた」
とまたおひとりでお笑いになられました。そして
「そなたは本当に雷が好きなのだな」
「はい」
その言葉を聞いて、雷神様は楽しそうに別れを告げましたが
「雀よ、できれば私と話したことは内密にしてくれぬか」
と一言添えました。
そうして仕事に戻られて、この日はいつもより長い時間、気分よくお過ごしになられました。
スズメも、美しい雷を見ることができたのと雷神様にお会いできた喜びで、心が澄み渡っておりました。まるで雷神様が仕事を終えられ、風神様がその後片づけをした空のように。
「本当にありがとうございます、雷神様」
音が完全に鳴りやむと、スズメは何度も何度も身体を震わせて雨を振り落とし、少し重い翼で飛んでいきました。
もちろん、雷神様はその姿をご覧になっておいででした。
雷様と雀 @nakamichiko
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