面白くない
黒豚@
1日目 一目惚れ
人生は面白くない。
生きる意味を探し求めて25年、やっと仕事にも慣れ始めてきた頃だ。
今日もガラガラの電車にのって何故か郊外にある本社に向かう。
とりあえずで大学まで卒業して、就職した。
仕事は俺に合っていて、苦しくはない、けどそのために生きようとは思わない。
多分だけど、俺の一生はこのまま終わる。
面白くない青春を過ごし、背景として、歯車として終わる。
今日までは、そう思っていた。
俺は幸運だった。
だって世界が面白くなる瞬間に巡り会えたのだから。
彼女は、いきなり乗ってきた。
過疎駅、利用者はおじいちゃんをたまに見かけるような駅で、彼女は乗り込んできた。
1歩で、電車に乗る全ての視線を1つに集約させた。
かく言う俺もガン見した。それ程までに彼女は美しかった。
彼女は軽く周りを一瞥した。
そして、運良く?俺の隣に座った。
初対面の、それも公共交通機関を同じ時間に使っただけの相手に、何故か鼓動が早まる。
この感情を何と言えばいいかの経験が俺には無かった。
その分だけ俺は頭が回る方だったので、とりあえずの仮定をして、頭を落ち着かせようとした。
これ……恋だよな?
嘘みたいな話だが、彼女はいとも容易く人を恋に落とした。
それもただ隣の席に座っただけで。
落ち着きはしたが、色々な感情・考えが渦巻く。
声かけるのは?論外だろう。彼女はこちらを認識すらしていない。連絡先なんて以ての外だ。俺はこのまま目的地に辿り着き、無言で降りる選択肢しか持ち合わせていないのだ。
社会的道徳と経験の無さが俺の中の暴走しそうな心を押さえつける。
そうだ、それでいい。気の迷いだろう。明日には忘れる。
そう考えながら、泣きそうになる。
恋愛経験のない25歳、初恋すらしたことがない。
そもそも綺麗な人を見かけた程度でここまで心昂ったことなんてなかった。
初めて人を好きになったチャンスを、俺はふいにしていないか?
葛藤、葛藤、葛藤。
そうしているうちに、タイムリミットが来た。
朦朧とする意識で立ち上がり、電車を降りる。
無意識に自分のいた席を振り返る。
すると、彼女は明らかにこちらを向いて微笑みかけてくれた。
そこで、ドアが閉じた。
面白くない 黒豚@ @kurobuta128
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