「サンキチ~既知外者(きちがいしゃ)の流儀~」 

低迷アクション

第1話

始めに…


既成の概念、人々が既に知っている常識を“既知”として定義するなら、

それを外れた概念、新しく、未知的なモノは“既知外”として表せる…



「これで後1人…」


呟く少女は、清潔な白で覆われた壁に一筋の“朱”が混じっている事に気づく。

マンションの一室、明かりを消した部屋にはカーテンから入った月明かりが反射し


“汚点”をクッキリと映し出している“少女”は軽いため息をついた。


(せっかくの良い夜なのに、台無し…

“撮影前”には綺麗にしないとな、血が乾くと、後が面倒だもん。)


そう思うが、体は“食欲”に突き動かされていく。自身の腕に抱き留められる

“同年代の少女”だった者を眺め下す。勿論、彼女の心臓は動いていない。


綺麗に整った首筋は先程、自分が舐め尽くし、食いちぎった後が空洞のようになっている。

薄く笑い、愛おしそうに、そこを撫でまわした後、顔を埋めた。お決まりの“小唄”を

歌う事も忘れない。


「貴方の事がだ~い好き~。好~きで好~きでたまらな~い。だ~から、食べよう。

そ~しよう~。み~んな一緒のと~もぐ~い(友喰い)」


暗い室内に甘い少女の音色と肉を貪る“咀嚼音”が響き渡った…



 (感じの良い夜だな。)


俺事“サンキチ”(本名ではなく、周りからそう呼ばれているだけだ。)

は笑い、自身のとんがり歯を軋ませた。今にも崩れそうな着古しコートは、

春先が終わったら、替えどきだが、買う金がない。


勿論、今乗っている“仕事帰りの社会人満載”の終電に支払う電車賃もない。

だが、駅近くのゴミ置き場で漁った“残り酒”が程よい快楽を与えてくれていた。


きっと俺の頭は、終着駅で降りるまでに美味い方法を考え出すだろう。


「止めて下さい。」


ふいに、俺より少し離れた人の群れから声が上がる。ちょっとボロ靴の踵を

浮かしてみれば、声の主は、つり革に摑まった若い女性だ。


問題なのは、その前で顔を真っ赤にしている男。相当酔っているご様子…

スーツはヨレヨレ、ネクタイは宙ぶらりん。この時期と言えば送別会か?

どっちにしても“タチ”が悪そうだ。


「あ、すいません、すいません。えへへへへ…」


まだ若い年頃の彼は、そこだけはキチッと謝りながら、嫌がる女性に手を伸ばす。

どうやら、混雑に挟まれ、身動きも、逃げる事もできない彼女を触っているらしい。


まぁ、そりゃ確かに遠目から見ても“辛抱たまらん”な容姿と肢体の持ち主だけどな。


「いい加減にしないか。」


「そうよ。貴方!可笑しいわよ。誰か駅員さんを!」


若い女性の後ろにいた中年の男性と女性が交互に注意し、彼女を後ろの列に移動させようとする。二人のご立派な姿勢に、そこから先は“誰かが続けば我も我も”な

日本人のお決まり。


「そうだ、そうだ!」


「やめろ!やめろ!」


と野次馬より陰湿なお国柄が見え始めた。

“もっと最初に声をかければいいじゃん。それも自分で!”と思うのは俺だけかな?


まぁ、そこまではいいよ。だけど最近の社会人は不満を溜めに溜め込んでいるからな。


「ふぐっ!」


若い女性がうめき声を上げて、崩れ落ちた。慌てて、後ろの何人かが抑えるが、

酔っ払い男が無言で繰り出す拳に躊躇する。


「オイッ!いい加減に…」


先程の中年が声を荒げるが、その顔面に男の拳が決まった。


「ウルセェッ!アホ共。邪魔すんな!“友喰い”なんてもんが流行る時代だ。

(流行りの言葉らしいが“既知外(キチガイ)”の自分にわかる筈もない)


可笑しな事だらけじゃねぇか?俺の何がいけねぇ?ぶっ殺すぞ。殺す。殺す。

殺してやるぅぅ(目が逝っちまってんよ、にいちゃん…)

女を動かすんじゃねぇ。動かした奴は殴る。殴る。殴るぞぉっ!」


自分の鬱憤を“これでもか”と吐き出し、叫び続ける男。

そのまま混み合い、身動きのとれない車内で、拳を振り回していく。

乗客達はオロオロ、ブツブツ何かを呟き、


被害を受けている女性は腹を抑えて泣き崩れ、他の奴等は巻き添えをくわないように、

彼女から少しでも遠ざかろうと体を動かしている奴までいる始末…


全く、萎縮された国民性は考えもんだな?仕事とネットでは、いくらでも

偉そうになれるのに、


いざ、目の前で暴力とか“見慣れないモノ”に出くわすと肩を寄せ合って

震えるしかできない。


正に羊。柵で囲われた中から出る事も、出る意味すら考えない。彼等を食う狼が来ても

仲間が食われるのを横目に、自分の死ぬ順番を待っている。


こんな“狼の真似した羊”にすら、拳一発見舞う事もできないときた。


(所詮は“既知内”の常識人。仕方ないと言えば仕方ないか…)


酔いが冷めていく体を呪う。すっかり気分が台無しだ。


「酷いね。」


俺の隣にいた女性が、顔をしかめ、本当に困ったという表情で呟く。そちらを向き、

軽く頷いていてやる。好きなタイプと言われても特にないが、強いて言うならば


こんな“風呂にも入らず、酒ぐさ、悪臭まんまん”の俺の隣に来ても、

顔色一つ変えない奴がいい。


「何とかしないと、駅員はまだなの?」


続ける彼女は、自身の手提げ袋をお守りのように抱きよせた。

俺の視線がそこにくぎ付となる。“赤ワイン”の瓶が見えた。


貰い物か?それとも明日が休日?

安ワイン?高級ワイン、どっちでも、何だってもいい。


沸き起こる快楽への直球的感覚に、

身を任せるとしよう。


「それ、もらえるか?」


ニヤリと笑い、酒を指さす。


「えっ?…」


「ワインをくれたら、この事態を解決してやるよ。」


訝し気、かつ、不安げに俺とワインを交互に見比べた彼女。数秒の翔潤…

やがて意を決したように


「はいっ」


と、俺にワインを差し出す。最高!…

この女は惚れるに値するな。


「あんがとよっ」


お礼を言い、下腹と下肢に力を込め、一気に飛ぶ。


「嘘っ!?」


ワインの彼女が驚愕に目を開く。ついでに乗客全員の視線も独り占め。

頭何個分?の狭さの天井を跳躍し、飛びぬけ、酔っ払い男の前に立つ。

(何人かの頭に足がぶつかったのは勘弁してもらいたい)


男を含め、乗客達が“化け物でも見た”って感じで目を、俺を見た。

そんな目で見るなよ。お前等は空間の概念に囚われすぎなだけだよ。

こんなの誰でも出来るぜ?本当はよ。


「な、何だよ?」


ビビり切った彼の首元へ、静かに手刀を放つ。見事に命中。造作もなく、床に崩れる男は、

そのまま口から吐しゃ物を静かに垂れ流していく。


事を終え、立ちすくむ俺の耳は(最も上げすぎて“角”に近い耳だが)

風のようにこちらに流れこんでくる囁き声を、否応なしに聞いた。


「なんなの?あの人。」


「ヤバいよ、やりすぎだよ。」


「誰か通報を」


俺を讃える声ではない。非難、怖れ。警戒…ついでに携帯の静かなシャッター音。

“化け物ナウ”ってか?勝手にほざけ、アホ共が。


お前等には絶対できない事をやっただけの話だ。それに“報酬”はもうもらっている。


いつもながらの展開に、肩をすくめるしかない俺は、先程の自身が飛んできた場所を見た。

ワインをくれた女性が俺に少し微笑み、頷く。上出来!


「あの…」


涙ながらの声に振り向くと、被害に遭った女性が、先程の恐怖に震えながらも

お礼を言おうとしている。更に上出来!!


(いい、いい。もう充分だからよ…ねっ!)


手で示し、頭を上下に振る。女性も頷き、先程の中年二人が素早くフォローに回った。

時を同じくして、駅に止まるアナウンスが流れ、ドアが開く。

もう一度ワインの女性を見て、瓶を翳してみせる。これで終着駅までは乗れない…


降り立つホームで慰め代わりにワインの栓を抜く。一杯口へ流し込んだ後、

立て続けに煽った。その勢いで改札をすっ飛ばし


(堂々としすぎて、駅員がポカンと口を開けたが、気にしない)

慣れぬ町の繁華街に躍り出る。


時刻は深夜。人通りは皆無だが、点在する居酒屋の明かりが気持ちを和ませてくれた。

さて、今夜は何処で寝るか…


ワインを飲みつつ進む俺は、前から歩いてくる少女の姿を認めた。


ピッタリと着こなした制服に穏やかな、見てるこっちが

ウキウキしてくるような笑顔を浮かべている…


と“常人”なら、そう思うだろう。だが、俺は残念ながら“枠外の無法者”

彼女が全身に纏う“腐臭”と、こっちにまで影響受けそうな“嫌な感じ”を

ビンビン感じる始末。酒でほろ酔いの良い夜が…ここでも台無しだ。


少女はこちらの視線に気づかず、全くの無関心といった感じで横をすれ違い、

通り過ぎていく。それを見送り、俺は一言、呟いた。


「随分、食ってるな…」…



 「鈴木主任、また“友喰い”です。」


若い警官が走りこむように、“鈴木”の仕事場である“友喰い対策捜査本部”の部屋に

飛び込んでくる。


「また、起きちまったかぃ…」


顔を歪ませ(報告した男も同じ表情だった)手渡されたメモリースティックを自身の

パソコンに差し込む。程なくして画面に映像が現れ、内容の詳細が現れる

(2時間前に動画サイトにアップされたモノとの事だ。)


「嫌な時代になったもんだ…」


そう思っても指は自然に動く。再生ボタンを押すと、画面の中に“友喰い”という

文字が丁寧な書体で現れ、いつ聞いても絶対に覚えたくないフレーズの歌…


「貴方の事がだ~い好き~。好~きで好~きでたまらな~い。だ~から、食べよう。

そ~しよう~。み~んな一緒のと~もぐ~い(友喰い)」


が流れ…

暗い一室と豪華なクロスに彩られたテーブルが映し出されていく。


そこに並べられた銀食器の皿に乗るのは、若い女性の首、手、足、胴体が

丁寧に切り分けられ、置かれている。もうここまで見れば、

この後何が行われるかは明白だろう。


(まだ、高校生?それとも中学生か?あんなに若い子が…)


少女の遺体の前に、目元のみをマスクで覆う同年代な見た目の女性が

ナイフとフォークを持って現れた。最悪の瞬間が始まる…


表示されているタイムラインを見れば、この映像は後15分も続く。

鈴木は吐き気を催す腹を賢明に抑え、画面を見つめる。


そんな彼の気持ちに関係なく、覆面の少女は喋り出す。


「今宵の友喰いに選ばれたのは、柏葉あやかさん(かしわば あやか)私と同じ高校に

通う女の子です。彼女はスポーツ抜群。明るい性格が素敵な私の大親友です。


とっても愛おしい存在、それは、もう食べちゃいたいぐらいに!だから食べます。

あやちゃん…一つになろうね。」


最初は厳かな、途中からは、まるでアイドルみたいにはしゃいだ彼女が、

フォークとナイフを上手に使い、食事を開始する。


調味料も、焼きも、揚げもしない“生”の柏葉あやかを“食”していく。


鈴木はハンカチを口で抑え、目の前で繰り広げられる“食人行為”を戦線恐々の面持ちで

視聴した。勿論、映像に一切のモザイクはかからない。


最後にあやかの指を一本、一本切り分け、まるで“フライドポテト”を食べるような感覚で呑み込んだ彼女は、コース料理を食べた後のマナーも忘れずにとばかりに口を拭い、

こちらに向かって微笑み、呟いた。


「ごちそう様」


映像が切れるや否や、鈴木はトイレに猛烈な勢いで駆け込んだ…



 “友喰い”この事件がまことしやかに囁かれ、今や、ネット、世間に“正当な行為”で

まかり通り始めたのは数週間前の事だ。具体的な内容としては…


“食愛”“食べ友”をキャッチコピーとし、人々の間で流行する食人行為。

食べるのは恋人、家族、親友。(この親友のケースが多いため“友喰い”と呼ばれる。)


双方の合意の元で行われるとして、食べられる方は、食べる側に法的被害が

かからない宣誓書を書き、ネットやSNSで自分が食べられる様子を配信する場合が多い。


非人道的な食人を神聖な“儀式のように見せる工夫”が施されており、


批判も多いが、先が見えない困窮社会における、“究極の愛の形”として

若い世代を中心に広がり始めている。メディアやテレビはここぞとばかりに


無責任な宣伝、喚起を促し、捕まった“友喰い”の1人が未成年かつ、精神鑑定の結果、

無罪になるにいたり、この行為自体が“合法化”の兆しを見せ始めていた…



今までの経緯を回想し、鈴木は悪態をつきたくなる。

全く、馬鹿げた話だが、現にそうなっているのだから、仕方がない。今見た動画は日本も

含め、既に世界中で2億人もの人間が見ている。


今の映像を観て、何とも思わない連中が、あまつさえ、友喰いを肯定する連中が

それだけいるのだ。“イカレテル”としか言いようがない。


誰もが刺激的なモノを求め、それが頂点に来ている。だから、それが可笑しいとは思わない。

皆が見ているから、2億人が見ているから、これは正しい行いなのだ。


「世の中ってのは、100人の内、99人が正しいって言えば、それが当たり前の

モノになっちまう。

 仕方のない事なんだよ。だけど、絶対に可笑しいって言う1人がいるからこそ、

世の中は保たれてる。そんな気がする。


最も、そういう奴等は御多分にもれず、世間の外れ者だがね。」


この事件の担当になった時、鈴木はそう言って同僚や部下達、自分自身を慰めた。

勿論、鈴木自身も、彼等も“外れ者”になる気はない。だから、ここに留まっているのだ。しかし、それにしたって…


(本当に馬鹿げている)


鈴木はトイレの洗面所で本日2度目の悪態をつく。

逮捕され、釈放された犯人の名前は“綾瀬ようこ”(あやせ ようこ)高校2年生。


恐らく先程の動画の“友喰い者”も彼女だ。今回も含めれば3人は食っている。

わかっているのに逮捕が出来ない。対策本部が設けられているのは“建前”だ。


今や、国会でも審議されている“友喰い”に対し、“合法”、“違法”どっちに転んでも

面子が立つようにとの上層部の判断…


鈴木達は“お飾り”であり、捜査に関しては“一応動いていますというパフォーマンス”を

しろというお達しだ。この内示を聞いた時、部下の“小沢”刑事は


「ふさけるな!」


と叫んで、鈴木の静止を振り切り、署を飛び出していった。将来がある刑事だ。辞めなければいいが…


そう考えていると、トイレに、件の“小沢”が入ってきた。

昨日と変わっていないスーツはボロボロ、ネクタイは

結んではいるがクシャクシャ、酒の匂いもヒドイ。オマケに首には赤い腫れ後まである。


鈴木が何か言う前に、小沢が“しまった”という表情を作る。捜査本部に入る前に、せめて服装だけでもと思ったのだろうが、後の祭りだ。


「どうした?ヒドイなりだぞ?」


こちらの声音に叱責が含まれていない事に少し“ホッ”とした表情で小沢が喋り出す。


「実は昨日電車で…」


それから続く内容に鈴木はもう一度悪態をつきたい衝動に駆られた…



 「ねぇねぇ、見た?あやかの友喰い!凄かったよぉ~!」


お昼前の休憩時間に、まるで“有名俳優”を街で見かけたように話す友人を

“佐々木しずか”(ささき しずか)は軽蔑に近い眼差しで見つめる。


友人が操作するスマホには、テーブルに載せられたしずかの友人、いや親友と言っていい、柏葉あやかの亡骸が映っている。そして、動画に現れたのは、最早、クラス内でも

見知った…いや、崇拝されていると言っていい人物だ。


そいつはお決まりの文句を歌いながら、ナイフとフォークを駆使して、あたしの親友を…


「止めて!」


本能的に友人のスマホを叩き落としていた。教室の床に転がり、部品を盛大にバラ撒かす。


「ちょっとぉ~、しずか、アンタ、可笑しいよ~?」


派手な声を上げながら、友人が床に屈みこむ。


(可笑しい?可笑しいのは皆でしょ?友達が殺されて、食べられたんだよ。

ネットや報道じゃあ、本人の同意を得たなんて言ってるけど、犯罪だよ?

何で誰も、おかしいって思わないの?言わないの?)


しずかが中国の時、外国のテロリストが捕まえた日本人の首を斬る動画を、

世界中に配信した。その時だってクラスの皆は、


「うわぁ、最悪~」


とか、


「グロぉぉ~」


なんて言って、はしゃいでいた。所詮、自分に被害が来なければ、何でもいいのだ。

世間がこれに注目し、祭り上げるのも“そこ”にあるのだろう。


小学生の時に知り合い、高校まで一緒に通ってきたあやかの顔が浮かぶ。お葬式は

今日の夜だ。クラスの皆は彼女の両親に何て言うのだろう?


「一番好きな友達に愛されて、一番綺麗な時に食べられた、あやかは幸せだと思います。」


狂った戯言を笑顔で言うのだろうか?馬鹿げている。第一彼女の親友は私だ。

それとも…そう思っていたのは自分だけだったのだろうか?

 

黙っていると、目に涙を浮かんでくる。友人はそれを見てあきれたような顔をして


「うわ~…マジ泣き~とか、ないわ~」


なんて呟き、視線をさまよわす。本当に“こんな対応”しかできない子が

友人と言えるのだろうか?


いや、親密になれば“食べられてしまう”この時代。

彼女が今の時代では正しい友人像なのかもしれない…


「あ、ようこじゃんー!おはよー!」


しずかを持て余した友人が教室の隅を指さし、馬鹿みたいに騒ぎ出す。その声に

クラス全員の視線が、隣のクラスの“綾瀬ようこ”に集まる。彼女はゆったりとした仕草で

皆に会釈し、教室内を進む。


周りに集まったしずかの友人も含めた女子達は、アイドルに群がる取り巻きのように、

ようこの進む道を先導し、


「ようこー、次はあたしを食べてよ。お願いっ!」


「何言ってんの?ようこと友喰いするのは私なんだから。」


と口々に騒ぎたてる。それを優しい笑顔で頷く、ようこは軽やかな声で


「考えておくわ。」


と答えていく。その答えに女子達は黄色い声で


「キャー」


と叫んで、気絶するフリをする始末。結局、彼女達にとって、友喰いは

“退屈な日常を変えてくれる超然的な何か”なのだ。


ひと昔前に流行った、コックリさんや占いと大差ない。


そして恐ろしいのは、彼女を一度は捕まえた警察…

いや、国家さえもが、彼女を認め、解放してしまった事で、


友喰いが…いや、ようこが社会お墨付きの“公式化”された存在になった事だ…



 ふと気が付けば、件のようこが、自分の目の前に立っている。周りには

好奇の視線アリアリの野次馬が、ささめきながらも、極力静けさを保って、ようこから

発せられる“お言葉”を待っていた。


ようこの涼し気な目線を、睨み返すしずかに、彼女の声が響いてくる。


「あやかさんから“2番目”の親友だったと聞いているわ。しずかさん。だから、言わせてほしいの。その…ごちそう様」


両手を合わせ、仏の祈りのように目を閉じるようこ。取り巻き達が素早く反応し、合唱する。


「ごちそう様~」


クラス内に響き渡る声に、しずかの怒りが頂点に達する。無言で立ちあがり、

微笑みを絶やさない、ようこの頬を勢いよく張る。


“パーン”と乾いた音が教室内に響き渡り、叩かれた、ようこの目が少しだけ開かれた。

先程の穏やかな目ではない。まるで獲物を見つけた肉食獣だ。

しずかが幼い時に、動物園で見た豹やライオンの目に似ている。

うすら寒い怖気が、全身に纏わりつく。


「いい加減にしてよ!」


沸き起こる恐怖の感情から逃れるためには、大声を張り上げるしかなかった。椅子を立ち、

クラスメイト達の非難を一身に受けながら、走りだす。


その姿を見送る、ようこは、周りの生徒の心配の声に笑顔で頷きながら、

しずかに叩かれた頬に触れ、感触を楽しんだ後、静かに呟いた。


「美味しそう…」



 教室を飛び出した後、そのまま学校を出たしずかは、自室に飛び込んだ。膝を抱えて、

ベッドに蹲る。ドアに鍵をかける事を忘れてはいない。両親は仕事で2人とも

他県に出張中。


あやかの件もあり、娘を心配したメールは来ていたが、返信する気力はない。

今は、自分の身は自分で守るしかない。警察に行く?一瞬考え、被りを振る。


駄目だ…今はきっと模倣犯のような電話や、しずかのように自分が友喰いで

食べられるといった連絡は山ほど来ているに違いない。適当に諭されて帰されるのが

関の山。


だが、確信がある。ようこは間違いなく、自分を“友喰い”に来る。

あの目は肉食獣の眼だ。現にようこは人を食っている。二人の女学生、そして親友のあやか。

これは、今や、誰もが知っている事実だ。


最悪の展開を考え、怯えるしずかは室内が暗くなっている事に気づく。

カーテンを締め、明かりを付けよう。少しでも気分を明るくしたい。

顔を上げた視線が、窓にくぎ付けとなる。


いつからそこにいたのだろう。窓に外に逆さまのようこがいた…

いや、張り付いていると言った方がいいのかもしれない。


両足を屋根にかけ、逆さにぶら下がっている。髪は箒のように伸び切り、両手を組んで

こちらに微笑んでいる。


しずかの部屋は二階。足場は何もない。だから、ぶら下がるしかないと言えるが、

そもそも、人の屋根にぶら下がるのは異常だ。


当たり前の自答に余計に恐怖が増した。そんなしずかを見て、

最早“人間には見えない”ようこは、ゆったりとした仕草で、こちらに手を振ってくる。


自身の体が震えだし、少しづつ後ずさりを始めていく。このまま外に飛び出したい。

だが、彼女に背中を見せて、鍵を開けている内に、部屋の中に、ようこが入ってきたら、

どうする?…

考えただけでも恐ろしい。


ふいに手元で鳴った着信音に飛び上がった。ようこの方を見れば携帯を耳に当てている。

嫌な予感を押し殺し、通話ボタンを押す。響いてきた声は予想通りのモノだった。

それも最悪の…


「次は貴方を食べる(とても可愛く、無邪気な笑顔で)」


そこまでが限界だった。しずかは絶叫を上げ、ドアの鍵を開けると、一気に階段を駆け下り、

ようこがいた窓とは反対の方角に、逃げ出した…



 夜の街に飛び出した、しずかは恐怖に混乱しながらも、携帯と財布を忘れなかった自分を褒めてやりたかった。問題は何処へ逃げるかである。


暗い場所は怖い。今にも、ようこが背中に覆いかぶさってきそうな

錯覚に囚われそうだ。


一瞬考えた後、亡くなったあやかの友達で、自分とも交流のあった友人を思い出す。

携帯の“ライン”を見る。名前の登録があった事に一安心。学校は違うが、

住んでいる町は隣町…


電車に乗れば、すぐの場所だ。駅に向かいながら、一晩泊めてほしい旨を送る。ラインに

表示した自分の送信メッセージはなかなか“既読”の表示がつかない。お願い、早く見て。


一身に願いながら、駅に着く。切符を買い、ホームに出る。携帯を見た。

まだ既読はつかない。


(お願い、早く…)


最悪、連絡がつかなくても、隣町に行こう。とにかく一刻も早く、この町から、

ようこから逃れる事が出来れば…


不安げな心象を象徴するように、さまよわせた視線がベンチで眠る男の姿で止まる。


髪はボサボサ、着ている服も、所々に汚れが目立つ。何より、少しおかしいのは耳の位置が

顔の上に行き過ぎている気がする。あれではまるで…


「角?」


と呟いてしまう程だ。絵本や妖怪退治のお話しに出てくる鬼のような風貌と言ったら、

可笑しいかもしれないが、そうとしか言いようがない。


ようこの件も含めて…関わり合いになりたくない部類だが、彼の手にしている酒瓶は

今にも手から滑り落ちそうときている。辺りを見渡す。彼女の他に人はない。


瓶は中身が入っている様子だ。死んだように動かない男は、瓶が割れる音で目覚めるだろう。

見て見ぬフリは簡単。割れた音に気がつき、振り向いた風を装えばいい。


クラスの友人達と同じだ。自分には関係ない。瓶一つ割れた事を見逃すなんて、

今、世間が“見逃している人食い行為”に比べれば、遥かにマシだ。


全然、問題ない……でも…いいのかな。皆と同じで。皆が正しいって言うから、

良いと言う…自分はそうじゃないって思うのに…嘘をつくのは…


自分は気づいてる。それを知った上で嘘を装うのは…


「嫌だな。」


呟き、男に駆け寄った。手から離れた瓶を間一髪で受け止め、

決して良いとは言えない臭いを纏いつかせる男の手にしっかり持たせてやった。


男の体がゆっくり動き、起きた事がわかる。髪に隠れ、目は見えない。口も閉じているが、

こちらを見ている事に変わりない。少し怖いが、自分のやった事はわかってくれている

だろう。


(こんな時に本当に何をやってんだろう?あたし…)


でも、少しだけ気分が軽くなっている自分がいた。良い事をしたおかげかもしれない。

そう思うしずかは男に笑顔を向け、精一杯の笑顔と優しい声を出す。


「気を付けないと、お酒落ちちゃいますよ。」


男は何も答えない。こちらを見つめたままだ。あれ?逆効果だったかな?そう思うと同時に

携帯が振動し、連絡した友人から、泊まる事を許可してくれるメールが届く。


(やった!)


喜び、返信を返す前に、男へ会釈し、これまたタイミングよくホームに滑り込んできた

電車に乗っていく。車内から先程の男を見れば、スーツ姿の男二人に何処かへ連れて

いかれる様子だ。


(悪い人には見えなかったけど…)


そこまで考え、今は自分が危ない事を再度思い出す。だが、先程感じた時よりも

恐怖は薄らいでいる。何だか夢を見ていたようだ。明日になれば、これも笑い話として

誰かに話せる程度になるかもしれない。


目的の駅で降り、友人の家へ向かう。駅からすぐの場所で本当に助かった。玄関に立ち、

夜分という事もあり、彼女の携帯に直接連絡した。すぐに返信が返ってきた。


「中に入って。」


内容に少し疑問を感じた。鍵を開けた音も、誰かが玄関に来た音もしない。

こんな時間に戸締りをしていない?可笑しくはないか?

それに答えるように携帯が再び鳴る。


「中に入らないの?」


逆さまのようこを思い出す。恐怖が再燃してくる。一歩玄関から引いたしずかの体が

柔らかい何かに触れ、そのまま抱きすくめられた。


「じゃぁ一緒に入りましょう。」


しずかの耳元でようこが笑い、彼女の耳を口に含んで囁く。


「いただきまぁす。」…



 さっきの、あの子も非常にタイプの、良い女だったな。俺は低く笑い、取調室にて

向かい合う二人の警官と嵌められた手錠を交互に見比べた。


一人は、昨日俺が車内で気絶させた若い奴。もう一人は年と見た目で判断するに、

若い奴の上司…全く、罪状は何だ?警官暴行罪といった所か?


年上の“鈴木”と名乗った方が、若い方の“小沢”とか言うやつに声をかける。


「これが、お前を殴った相手か。しかも、一撃でノックダウンされたと…」


「ええっ、酔った私にも責任はありますが、コイツは凄いですよ。だから、調べました。」


小沢がこちらを睨みながら頷く。


「あだ名はサンキチ、本名はわかりません。住民登録も指紋の登録も無し。勿論、年齢不詳。

あだ名の由来は“散々なキチガイ”略して“サンキチ”みたいです。


酒好きの路上生活者ですが、暴れると手が付けられない奴らしくて…

そこら中をさ迷っているようです。本官の件もありますが、とりあえず危険人物として

拘留が適当かと思いまして。」


只の逆恨みだろ?と俺は呟きたい。まぁ、署内の拘置所は暖房も少しは効いてるかな?

小沢の声を、鈴木とかいう警官は軽く無視をして、こちらに視線を固定したまま離さない。


彼の興味深げに開いた目が細まり、

小沢よりだいぶ穏やかな声で俺に尋ねてくる。


「だいぶ、面白い容姿をしているね。特にその耳…

何かのテレビ?本だったかで、こんな話を聞いた事がある。


インカの高僧達は頭蓋に穴を空けて“浮腫”を作る。酸素を多く取り入れ、

超能力を得るためだ。もしかして君のそれも同じモノかね?」


なかなか“核心”をついてくるな。このオッサン。時々、こういう奴が

いるからおっかない。既知内の人間にはおよそ関わりのない事だが、

敢えて答えるとすれば…俺は笑う。


「既知内…つまり常識の中で生きるモノには不要だが、俺には必要でね。

外れもんの俺にはな。」


この回答に満足したのか鈴木も笑う。何か言いたげな小沢が声を出す前に、

ドアを蹴破るように開けた警官が鈴木と小沢に小声で何かを告げる。顔色を変える二人。


俺一人を残し、外に飛び出していく。それを見送りながら、俺はゆっくりと

自身の手錠を外していった…



 若い警官の報告を受け、捜査本部に乗り込んだ小沢と鈴木は、会議用に設置された

巨大スクリーンに映る。“4回目の友食い”のライブ映像に言葉を失う。


映像に映された暗い室内には蝋燭が灯され、置かれた椅子に1人の少女が座っている。

彼女は目をとじ、眠っているようだ。そこに“顔を隠していない”ようこの姿が現れた。

同僚達の間で、驚きの声が上がる。顔を隠さず、堂々と映像に出てきた。


(一体何のつもりだ?)


訝しむ小沢達にとって、非常に鮮明で耳障りな、甘い声が流れてくる。


「ご視聴のみなさぁ~ん、只今より第4回目、記念すべき4人目になります“友喰い”を

始めたいと思いま~す。この“4”という素晴らしい瞬間の友喰いに選ばれたのは、

3回目の柏葉あやかさんの親友の~佐々木しずかちゃぁん!


私の一部になった、あやかさんの親友という事はぁ~私の親友に変わりはありません~

友喰いの友達ぃ~これも友喰いが生んだ素敵な出会い~


だから、今回は、初の生放送、いえ“生食い”をお茶の間の皆さんに

お届けしたいと思いますぅ~


こう、ご期待。よろしくぅ~。

しずかちゃぁん…一つになろうね~。」


「ふざけるな!」


思わず荒げた自分の声に、周りはもう驚かない。皆が同じ事を思っている。

なのに捕まえる事は出来ない。許可と上からの指示がないからだ。


俺達は本当に警官なのか?


怒りに体を震わす小沢の隣に上司の鈴木が何枚かの資料を持ち、並ぶ。


「落ち着け、小沢。まずは場所の特定。そして、あの“ようこ”が映像に顔を出した理由。

“4”を強調した意味を知らべんとな。


“そんな時間はないと怒るな。”今出来る事をやるんだ。」


一体、自分達に何が出来るというのか?そう返したい小沢の表情は、

本部内の入口に現れたサンキチを見て、驚愕する。


小沢が声を荒げる前に鈴木が、手でそれを静し、彼を中に促す。室内に入ってきたサンキチに映像を見せ、呟く。


「いつかはこういう事が起こると思っていたよ。悪意あるネット動画の延長線、

こんな事は起きないなんて保障は何もない社会。そして、それが起きた時、

人は、我々警官ですら、無力ときている。常識に…

君の言葉で言うなら“既知内”を出れない一般人ではね。」


皮肉のように笑う鈴木にサンキチが答える。


「そんな事はない。アンタ等みたいな常識の守り手がいるから、この世は

保たれる。パトカー見て俺達みたいな“既知外”が怯えるのが良い例だ。


しかし、どうしたって、そんな社会は不満がたまり、解放するツールを求める。

それは過激なモノほどよりいい。新鮮、刺激物、魅力あるモノとして社会に

認知されてしまう危険性があるのは世の常だ。」


「なら、一体どうすればいい?」


鈴木に代わり、小沢が重ねて聞く。もう半分ヤケクソ。何でもいい。欲しいのは

答えと解決策だ。サンキチが頷く。


「あいつ等のしたい事はわかる。警部が話したインカの高僧だよ。

“4もつ喰い”黄泉平坂、つまりあの世、人ではない存在になるための

手っ取り早い手段だ。4人喰えば、人を超えられるという噂を妄信した奴等さ。


“ようこ”とか言う子は後1人でそれになる。いや、そう思い込んでいる。

人の思う力はとても強い。最早、人間技ではない事が出来る。犠牲者の子達が

黙って喰われたのも、それが関係している。


加えて言えば、既知を外れたモノ、つまり“既知外”は同じ“既知外”でなければ

相手にできない。」


サンキチが両手を上げる。拘束している手錠は外れていた。呆気にとられる鈴木、他の警官も、彼を止める事を忘れている。


そのまま部屋を出ていくサンキチに、勿論、止める様子のない鈴木が声をかけた。


「何処に行くんだい?」


「(サンキチ、ニヤリと笑い)既知外には既知内の常識は通じないんでね。」


廊下に姿を消すサンキチに頷き、見送るように佇む鈴木。たまらず小沢は走り寄った。


「いいんですか?行かせて。」


それには答えず、鈴木は小沢の胸に持っていた書類を押し付ける。

訝しみながら、それを呼む小沢。内容は秋田の郷土資料だ。読み進める内に自身の眼が

驚愕に開かれていく事がわかる。


被せるように鈴木が呟く。


「秋田の伝承でね。酒を報酬として、人々を助ける鬼がいたそうだ。そいつの名前は…」


後の言葉を小沢が引き継ぐ。引き継がないではいられなかった。これが本当なら

奴の正体は…あり得ない。いや、あり得るか?“友喰い”が流行するような、

狂った世の中なら…


彼はゆっくりと言葉を吐きだした。


「サンキチ、三吉鬼…」…



 カメラの位置を調整し、ようこは目の前で眠るしずかの顔を優しく、手に含むように

掴んだ。彼女の友人と両親は今頃、外食を楽しんでいる。ようこが食事券を渡し、


三人目を食べた段階で得た“目力”で言う事を聞かせた。本当は食べてもいいが、それでは

儀式の妨げになる。四人目を食べる時も、今までの手順と同じにしなければ効果がない。


噂は本当だった。まもなく自分は人とは違う完璧な存在になる。記念すべき瞬間は

しっかり記録に残さなきゃ。笑い、しずかの鼻を少し口に含む。甘美な食感が口内に

広がった。


あまりの美味しさに“いつもの歌”を口ずさんでしまう。


「貴方の事がだ~い好き~。好~きで好~きでたまらな~い。だ~から、食べよう。

そ~しよう~。み~んな一緒のと~もぐ~い(友喰い)」


「なら、ご相伴に預かろう。」


ふいに割り込んだ声に後ろを向く。ボロボロの布切れを纏った男がこちらに笑いかけていた…



 目の前に立つ“友喰い野郎”と奥の椅子に座った少女を見て、ホッと一安心の俺だ。

良かった。何とか間に合った。まだ甘噛み程度で済んでいる所だろう。


友喰い者の顔の笑顔は数秒で終わり、すぐさま阿修羅の如き、表情に変わる。

そりゃ、そうだよな。後一人の食事を台無しにした訳だからな。こっちは…


「よくも、邪魔をぉおっ!」


少女が吠える。その口は耳元まで裂け、両肩の筋肉が一気に盛り上がった。

ハッキリ言おう。“最早、人間じゃない”


俺達と同じ、既知外の怪物になりかかっている。

少女だった者が逞しく盛り上がった腕と鋭すぎる爪を勢いよく繰り出す。

寸前で躱し、こちらの拳を顔面に見舞う。


怪物が吹き飛び、呪詛を呟く時のような声で吠えたてる。


「後一人でぇぇっ、アタシはぁぁっ……をっぉぉぉ…超えれたのにぃぃぃ…」


その言葉に俺は、かなり幻滅する。

何だよ…あれほど、友達がどうのこうのと言っていたのに、最後は…


「結局、自分本位か?それじゃぁ“友喰い”にならない。只の“共食い”だ。」


「だあぁまれぇぇ。」


叫び、飛びかかった怪物の腹に手刀を放ち、そのまま内部に刺し込んで“心臓”を貫く。

何だかんだ言って、コイツはまだ既知内…もちろんギリギリの…


(だから、心臓を潰せば殺せる。)


動かなくなった怪物を床に降ろす。設置したカメラが回っている事を確認し、眠っている

少女を抱えあげ、外に出た。


いつの間にかパトカーが大挙し、玄関前に詰め掛けている。その前に立つ鈴木と小沢に少女を渡し、声をかける。


「中の様子は全部、ネットに流れている。確認してくれればわかるが、あの様子を見りゃぁ

もう流行る事はないだろう。これで大丈夫。すぐに元通りだ。」


頷く二人に手を上げ、パトカーの間を縫うように歩いていく。

周りの警官達が俺に向ける視線は“いつも通りの慣れたモノ”電車の時と全く同じ。

勿論気にしない。


既知外はいつだって、既知の外。中の奴等と相容れない。自分で選んだ道。後悔は全くなし。


(それに悪い事ばかりって訳じゃない)


「あの…」


聞き覚えのある可愛いボイスに振り向けば、救った少女がこっちを見ている。

たしか名前はしずかとか言ったな。警官達が話していた。その彼女がこちらを見据えて

尋ねる。


「ありがとう。でも、どうして…どうして助けてくれたんですか?」


ほらな。今日も“良い夜”になりそうだ。俺は笑い、

ポケットに突っ込んだ瓶を出して一言。


「酒のお礼だよ。」‥‥(終)





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「サンキチ~既知外者(きちがいしゃ)の流儀~」  低迷アクション @0516001a

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