025 サイコロのカラクリ
「では、ご案内致しましょう」
そう言うと、門というよりも、洞窟と言った方が似合いそうな扉が現れた。
それものそのはず。扉を開けたら新天地という移動用のドアと期待してしたのに、実際はとても長いトンネルとなっていたのだ。
しかも照明が一切無いので漆黒な闇だった。これから深淵のモノへ挨拶に行けそうな、そういう闇だった。これからの前途を現していると考えたら寒気がしてきた。
それに、見失わない様にと、メフィストが手を引いてくれているのに姿が見えなかった。ドレスが黒かったのもあると思うかもしれないが、なにせ自分の手さえ見えない程に暗い。
何かしら灯しのある近代社会からすれば、自分の姿さえ見えなくて溶けてしまいそうな闇を初めて実感する恐怖は執筆に尽くしがたい。
引かれる手と、引く手に神経を注いで、決して離れない様に力を込めながら歩く。
足音さえも闇に溶け込んでしまいそうで不安が積もる。払拭したくて口を開いた。
「そういえば、赤ちゃんは誕生する時に、能力とかスキルとか、なにかしら1つは持って来ると言っていたよな」
「ええ、その通りで御座いますわ。竜登様は『魂喰い(ソウルイーター)』・・・ですと素っ気ないですわね。折角ですから『ゼーレン・フレッシャー』なんて如何かしらね」
「私の事は散々に聞かされたから、今更呼び名なんてどうでも・・・ん?『ぜーレ』って?・・・もしかしてドイツ語か?!」
「あら聡いわね。その通りよ」
そういえば『戯曲:ファウスト』の作家はドイツ人だったな。ドイツ語に言い換えられてもおかしくはないか。ってどうでもいいよ、そんなの。
「呼び名なんて聞いてない。聞きたいのは紅葉の能力、スキルだ。絵とか口笛が上手いとか、何か有るんだよな」
「折角考えた名称ですのに、釣れませんわね。まぁ気が向いたら使ってみて下さいな。それでご質問は、紅葉様の能力についてですね」
折角、これぞという呼び名を考えたのだから喜んでよ。って、ふてくさった感じを受けたが、別にどうでも良いじゃないかと思う。
メフィストは少々考え込んでから答える。
「・・・表現が難しいわね。あえて云うならば『最悪を引かない能力』かしらね?」
「はぁ?なんだよそれは。お神籤引いたら大凶は引かないスキルって感じか?役に立つのかそれ」
「情けないわね。視野が狭いと云うのかしら?もう少し想像力を広げて下さいな。これは確率を操作する能力とも言い換えられるわよ」
「確率っていってもなぁ・・・」
「は~・・・そうですか。それでは、2択の場合でしたらどうなりますでしょうか」
「ハズレを選ばないって事だろ。それがどうしたっていうんだ」
「2択で外れないって事はアタリって事でしょ。そんな事も想像できないの」
メフィストは呆れイラつきながら説明をした。馬鹿にされた気がするが、こんな単純な事に気がつかない自分も悪かった。
確かに選択の数が少なければ凄い能力だ。・・・選択・・・?
そういえばサイコロ振りで4回も1が出たというのはどういう事だ?まだ1つの魂の状態なら紅葉のスキルは働いていたんじゃないのか。それなら使い魔という結果になっていないはずだ。
考えられる事は、今の状況が最悪でも災厄でも無いか、それとも・・・・
「メフィスト!イカサマしただろ!!」
「イカサマ?何の事かしら?」
「サイコロ振りの時だよ。どうして連続して1が出た?イカサマしかないだろが」
「竜登様はサイコロをしっかりと確認したはずでしょう。それにわたくしはサイコロには一切触れていなかったではありませんか」
たしかにそうだった。重さのバランスを確認したし、振り方も考えた。そしてメフィストは、いやその時は道化者だったな、一切触れていなかった。だからといって偶然で4回も連続するものか?
「偶然でごまかそうとするなよ。イカサマしなければ有り得ない確率だ。1しか出ないサイコロを渡したな!」
「仮にですわ、もしそうだとして、今まで疑わなかった竜登様はどうなのかしら。何度か試し振りをして確認すれば良かったのではありませんか。試し振り、されましたか?!」
確信を突かれた。あの時は一振り勝負と勝手に思い込んでいたんだ。駄目元でも試し振りの要求を出さなかったのは甘すぎた。
コレでは想像力が足りないと馬鹿にされても仕方ないかも知れない。
「それからね、竜登様は一番大事な事を忘れてますわ。わたくしの支配する空間で、わたくしの意のままにならない訳ないでしょう」
「それをイカサマって言うんだろ!」
思わず叫んでしまった。突然にテーブルとサイコロが現れた時に気付くべきだった。
「その場で気がつかなければ、イカサマはイカサマでは無いわよ。そう教わらなかったかしら」
その通りだよ。私の落ち度だったかもしれないと考えるとグウの音も出ない。
結局の所、この世界に連れてこられた時点で、どうあがいても私の負けは確定していたのだった。悔しさのあまり、ギリギリと奥歯から頭の中へ鳴り響く。
「お話しを戻しましょうか。紅葉様の能力は、大雑把に言うなら『勘が良い』って所ね」
『勘が良い』とか、今更言うなよ。それだったら確率の話しとか出してくるな!と腹立たしくなってきた。
しかし、確率の話しが出て、後回しにしていた忘れていたサイコロの疑問を訴える事が出来た。
後で思い出して苦悩するなら、嫌な内容だとしても知る事ができて良かったとも考えている。
最後のタネ明かしをする切っ掛けにする意図があったとするなら、手のひらで転がされていたって訳だろうか。
「契約して頂いたので、全てを教えるのは誠意と受け取って頂けたら幸いですわ」
握る手に力が入ってしまったので怒っているのがバレたのだろう。言い訳をした感じだ。
「貶(おとし)めておいて、何が誠意だよ。ふざけんな」
「そう申されましてもねぇ。そうそう、わだかまりのない、ハッキリした物言いになったでは御座いませんか。踏ん切り付ける事が出来たのでしょう。すっきりした様ではありませんか」
そりゃそうだろうさ。今更ご機嫌を伺う必要は無いからな。言いたい様に言わせて貰うさ。
「出口が近づいてきましたわ。心の準備は宜しいかしら」
そういうと、正面から強い光が広がってきた。
余りのまぶしさに目が眩む。
悪魔契約に縛られた異世界生活 第1幕(転生契約) 雨宮 白虎 @amamiya-byakko
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