第307話 ヴァルティス神の加護


 「何人たりともこの王都への侵入は叶わず」


 これが王都にかけられた主神ヴァルティス様がお与えくださった加護だ。

 この加護とヴェルシア様の正義の裁定があることで、このバルティス王国は神に愛された国と言われている。


 そしてその加護をもつ王都へ私たちは不法侵入した。


 結論から言って、モカのシークレットガーデンの中にいることで、私は王都までの転移に成功した。

 でもこれをエマ様に試していいとは思えない。

 なぜならとてつもない衝撃が来て、私は意識を失くしてしまったからだ。




 父さんに別れを告げて、奥の部屋にみんなで行くとモカが呪文を唱えた。

「我が庭よ、開け! シークレットガーデン」

 目を開けると同時に私たちはモカのシークレットガーデンの中にいた。

 よく使う薬草畑の側だ。



「じゃあ、あたしとドラゴ君は転移して王都へ向かうから。

 この中で迷子になったらあたしでも見つけるのが大変だから気を付けてね」

「わかった。でもウナギのいる池に行くぐらいはいい?」

 薬草畑からウナギ池(私は名前を変えたいけど)は離れてはいるものの、障害物もなく見える位置にあった。

「まぁ、そのくらいならいいかな」



 モカがシークレットガーデンから出ていき、私はモリーを肩に、ルシィは抱っこして池に向かった。

 池の中に作った大きな氷の水槽の中で、ウナギは何も食べられずに衰弱していた。

 これ食べるのよね? 大きすぎて怖い。



 モカがルードさんにおいしい食べ方を教えていた時のことを思い出した。


「イールを刺す串と炭火が必要なんですね。

 それからたれはせいゆと砂糖で甘辛く……ふむふむ。

 炭火で焼くにはこの間のバーベキューの時のが使えますね。

 よく焦げそうなたれですがなにか特徴はありますか?」

「蒸してから焼く方法もあるけど、あたしはそのまんま焼いてある方が好き。

 それとたれはわりとサラサラだった」

「なるほど、だだのせいゆと砂糖を混ぜただけではなさそうですね。

 ちょっと工夫いたしましょう」

 モカとルードさんの目がおいしいものを食べようとする野望で燃えていた。


「あのー、全部同じ味にしないで一部は違う料理にしませんか?」

「エリーさんはどうされるのがよいですか?」

「食べたことがないんではっきりとは言えないんですが、湖の魚だから白身なのではないかと思うんです。

 だから油で焼いたり、揚げてもよさそうかなと思って」

「そうですね。いろいろやってみましょう」


 そうだ。ルードさんに任せておけば料理のことは安心だ。

 ウナギ料理をいっぱい教えてもらおう。



 池を見ながらそんなことを思い出していると、ルシィが私の服を引っ張る。

 一緒に池で水遊びをしたいみたいだ。

 池の中央には水槽があるけれど、その周りにはきれいな水が湧き出している。

 水ユリの茂みも順調に茂り始めていて、モカの庭師の力が発揮されていた。


 水温は冷たいが、セルキー水着なら大丈夫だ。

 水で体温が失われないように付与してある。

 でも今は他にやることがある。


「えーと、今は実験中だから後でね」

「きゅきゅう!」

「王都に戻ればミラも一緒に入れるし、その方がいい……」



 最後まで言えなかった。

 ルシィを抱っこしたまま、私の体は宙を浮いて地面に叩きつけられたからだ。

 肩の上にいたモリーが私の体の下に入ってクッションになってくれなければ死んでいた。

 それでもその衝撃は強く、私は気絶してしまったのだ。



 ◇



「ごめんね、エリー。まさかこんなことになるなんて知らなかったよ」

 モカが心配そうに謝ってきた。

 ドラゴ君、モリー、ルシィも私を覗き込んでいる。


「びっくりはしたけど、今が大丈夫よ。心配しないで。

 一緒にいたモリーやルーは大丈夫だったの?」

「きゅ!」

 いい返事のルシィとフルフルと強めに揺れるモリー。大丈夫そうだ。

「でもモリーのおかげで助かったよ。ありがとう」

 どういたしましてというように、モリーが手にすりすりしてくれた。



「やはりヴァルティス様の加護は素晴らしいね。

 こんな特別な侵入方法でも防ごうとしたんだもの」


 でもこれで時空魔法で作られた結界の中に入っているヒトもやられるとわかった。

 ただ私は助かったのは奇跡的だが、マスターほど強い魔法士ならこれくらいかわせるのではないだろうか?



「モリーが特殊個体で衝撃に耐えられる体だったからよかったよ。

 他のみんなだったら、かばった従魔ごと死んでいたかもしれないね」

 モカ、ミランダ、ルシィでは私の体で潰れていたかもしれない。

 ドラゴ君は強いから大丈夫そうだけど。

 でもそんなことは絶対嫌だ!


「やはり神に背くようなことはしてはいけなかったんだね」

「いや、ぼくに考えがある。エリー、もう何回か頑張れる?」

「うーん、そうね。不法に侵入しているから1度はしないといけないと思うけど」

 それに一番重要なのは出る方法だからだ。



「その方法って?」

「エリーに古代魔法をかけて仮死状態にして運び出す」

 ドラゴ君は魔法の制御があまり得意ではない……それって安全なの?


「その……私はいいけど、それをエマ様にしても安全かな?」

「それはぼくの魔法の制御能力をあげるしかないと思う。

 ウィル様なら簡単に出来るから習ってくるよ」

「マスターのご迷惑にならない?」

「たぶん、大丈夫だと思う」


 たぶんって!

 マスターはお忙しいのに、私の事情に巻き込んでいいのだろうか?


「モリー、次もエリーが危ない目に遭うかもしれないから頼んだぞ。

 お前は賢くて機転が利く。これは重要な役目だぞ」

 モリーは、ドラゴ君の言葉に(やります!)というように何度も跳びあがっていた。


「モカは衝撃を和らげるよう、フカフカの草むらなんか作れないか?」

「わかった。やってみる」

「ルー、お前も最大限の力でエリーを守るんだぞ」

「きゅ!」


「エリーはミラに会ったらなだめてくれ。

 ぼくらは心話でつながっているから、このことを知ってすごく心配している。

 事情は伝えたけど、エリーに会いたがっている」

「わかった。すぐクライン様の別邸に行こう!」



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12/24

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