書籍出版および500万PV感謝記念SS

 エリーのお休み


「じゃあ教会に行ってくるね」

 エリーが学生寮から教会へフルートと合唱の練習に行くのを、従魔たちは全員で見送った。

 

 ホーリーナイトが近くなってエリーはますます仕事や教会の奉仕活動で多忙を極めていた。

 もちろん従魔たちの世話も欠かさない。

 最近では仕事以外に従魔たちが寝静まってからこっそり起きて、プレゼント作りに精を出していた。


 ドラゴはそれに気づいていた。

 エリーがみんなのためにしてくれているのはわかっていたので注意しなかったが、あまり寝ていないのが心配だった。



「モカ、ミラ。エリーにちゃんと夜眠ってもらうためにも、今年のプレゼント作りを止めてもらおう」

 ルシィが聞いたことのない言葉に反応していた。


(にーたま、プレゼント なんでちゅか?)

「うーん、愛情を形にしてくれることかな」

 ドラゴはプレゼントをエリーからしかもらっていないので、もっと打算的なプレゼントがあることをしらない。


(あい いっぱい もらってるでちゅ。ごはんも だっこも してくれるでちゅ)

(それ以外におかーさんがいろいろ作ってくれるの。

 前はマフラーあんでくれたの。

 ドラゴおにーさまやモカおねーちゃんにはスケートぐつもなの)


「モリーやルーは今年来たばかりだからもらってもいいと思うけど、ぼくらはもうあるんだから我慢できるよね?」

「でもエリーはもう作ってるんでしょ? 

 やめろって言ってもやめないんじゃない?」

「そうだよねぇ」

「でもドラゴ君の言う通りエリーは確かに働きすぎよね。過労死しそう」


(かろーし?)

「働きすぎて疲れて死んじゃうこと。エリーの前世は社畜だったのかな?」

(そんなのダメなの! おかーさんをまもらなきゃなの)

(まもるでちゅ!)

 モリーも大きく飛び跳ねて(エリー様、守ります)と同意していた。


「とにかくエリーを休ませよう。みんな手伝ってくれる?」

「「「「オー!」」」」



 その日、戻ってきたエリーに従魔たちは言った。

「エリー。あのね、ぼくたち欲しいものがあるんだ」

「えっ、そうなの? 私に買えるかな?」

「売ってるものじゃないの。エリーにしかできないことよ」

「うーん、なんだろう?」

 モカの言う、自分にしかできないことはなにかエリーは考えた。



「お料理?」

 ちがーうと言わんばかりにみんなで首を横に振る。

「お裁縫?」

 ちがーう。

「付与魔法かな?」

 ちがーう。



「あたしたちが欲しいのは『エリーのお休み』よ」

(おかーさんははたらきすぎなの。おやすみするの)

「休むってそんなに疲れてないよ。それに今ちょっと忙しいから……」

「『常闇の炎』の仕事はビアンカのところのでしょ。

 今手元にある刺繍でお休みしていいって」


「ドラゴ君、わざわざ聞いてきてくれたの?」

「エリーを守るのはぼくたちの務めだからね」

「過労死反対よ!」

(((はんたーい)))

 エリーは過労死するほど疲れていなかったが、みんなの気持ちが嬉しかった。

「ありがとう、みんな。

 じゃあ、刺繍がもう少しで出来るからそのあとお休みするね」



 刺繍がすんだらエリーはモカの指導のもと、寝巻に着替えさせられベッドに横たわった。

「いったい何するの?」

「ふふふ、まずはモリーよ」


 モカが何かをささやくとモリーは手のひらぐらいの長さに伸びた。

「刺繍で目を酷使したあなたに、モリーアイマスク!」

 目をつぶれと指示されてつぶると瞼の上にモリーアイマスクをのせられた。

 モリーは聖属性の『聖なる癒しホーリーヒール』を使ってエリーの目を癒した。

 じんわりと温かい。心地よかった



「次はマッサージ。ミラ、踏み踏みよ」

 モカの合図でミランダがニャーンとエリーの足元に飛んできて、ふくらはぎを踏み踏みした。

 やわらかい肉球がぷみっと当たる。

 爪を出したりしないで、丁寧に踏み踏みされた。

 エリーはちょっとくすぐったかったが、ミランダの様子を想像して(アイマスクで見えないから)嬉しくなった。



「次はルシィ湯たんぽよ」

 毎晩側で寝ているように小脇に抱えさせられた。

 それからモカは布団をエリーに被せた。

 ミランダは布団の中でも踏み踏みを忘れない。


 ポカポカと温かくなってエリーとモリーとミランダとルシィは眠ってしまった。



「みんなが寝ている間に、晩御飯の支度だよ」

「何作るの?」

「ホットケーキ。モカは粉を混ぜて、お皿並べて」

「わかった、ドラゴ君は?」

「ちょっと上に乗せるものを採ってくる」

 そういって転移してしまった。


 モカが生地を混ぜて休ませている間に、お皿やカトラリーを並べた。

 プライパンを魔道具コンロに乗せて、あとは焼くだけまで準備が出来たところにドラゴが戻ってきた。

 手には木の丸太を持っている。


「それ何?」

「シュガートレントの枝。甘い樹液が出るんだ」

 丸太を割ると中からとろりと琥珀こはく色に輝く樹液が流れ出た。

「メープルシロップじゃない! ドラゴ君、最高~」

 ふふんとドヤるドラゴは誇らしげに胸を反らせた。



 ドラゴがホットケーキを焼き、モカがそれにバターを塗る。

 バターは貴重品なので、あらかじめルードに言って用意してもらっていた。

「バターはたっぷりがおいしいよねー」

 ふんふんと鼻歌まじりに踊りながらバターを塗っていく。


「あっ! モカ、ホットケーキは上下ずらさないようにバター塗ってよ‼」

「え~、ちょっとぐらいいいじゃん」

「高く積み上げたいから、ずれると倒れるだろ。ちゃんとして」

「はーい、わかったわよ」

 几帳面なドラゴにちょっとルーズなモカだったが、案外仲良しの2匹はせっせとホットケーキを積み上げた。



 ◇



 部屋に漂う甘い香りに刺激されて、エリーは目を覚ました。

 そしてミランダ、モリー、ルシィを起こさないようにベッドから出た。

 衝立の向こうの台所をそっと覗くと、ホットケーキが倒れたら受けようと構えるモカと、宙に浮きながらシロップをかけるドラゴがいた。


「エリー、起きたの? ホットケーキ食べる?」

「何枚重ねられるか頑張ったら、50枚も重なったよ」

「すごいねぇ、こんなにたくさんのホットケーキ見たことないよ。おいしそう!」

 エリーが感嘆の声をあげた。


「シュガートレントの樹液とバターの組み合わせは最高ってルード言ってたよ」

「みんなも起こしてあったかい内に食べよう。ミラ、モリー、ルシィ起きてー」

 3匹がもぞもぞ起きてきて、ホットケーキタワーを見ると目をキラキラさせた。



 どうやってホットケーキを配るのだろうと思ったら、ドラゴが5枚ずつお皿に転移させた。

 バターとシロップのしみ込んだケーキはとてもおいしそうだったが、エリーには5枚も食べられなかった。


「エリーは食べたいだけ食べればいいよ。残ったらぼくらが食べるから」

「後片付けもあたしたちがやるから。エリーは今日はなんにもしなくていいの」

「「「「「召し上がれ」」」」」



 ゆっくり休んでおいしいものを食べる幸せも素敵だけど、一番の幸せはみんなと一緒にいること。

 エリーは素晴らしいプレゼントをもらったことを神に感謝した。



 Merry Christmasメリークリスマス


------------------------------------------------------------------------------------------------

 12月10日発売しました。


 タイトル:『錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでください』

 著者名: 詩森さよ

 Illustrator: kgr

 出版レーベル: カドカワBOOKS

 出版社: 株式会社KADOKAWA


 ISBN:9784041109564

 価格:¥1,200(税込み¥1,320)

 https://kadokawabooks.jp/product/renkinjutuka/322009000207.html

 こちらからだと、試し読みや特典SSがもらえる書店様にリンクしています。


 同じKADOKAWAですが、カクヨムではないのでリンクが貼れなくて申し訳ございません。

 この近況ノートにリンクを貼ってますので、こちらからどうぞ。

 ↓      ↓      ↓      ↓      ↓

 https://kakuyomu.jp/users/sayokichi/news/1177354055199725647

 

 どうぞよろしくお願いいたします。


 500万PVを達成いたしましたので章題を変更いたしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る