第130話 レオンハルト様の忠告
モカのおかげでレオンハルト様はご機嫌だけど、モカがいるなら書類庫には入れない。
あそこには魔法がかかっていて許しがない者が入ると罰が下るように魔法がかけられているのだ。
レッスンが終わって少しお話がしたいと申し出るとお茶をふるまってくださった。
「モカは甘いもの好きか?」
モカが頷くとレオンハルト様は嬉しそうに膝の上にのせてお菓子を食べさせ始めた。
「初めて本物と触れ合うのだが、こんなに賢いのだな」
「ええ。ティーカップ・テディベアはとても賢い魔獣で、なかなか見つからないのもそのためだと思います」
嘘は言っていない。彼らはとても賢くて、クランマスターに保護を求めたのだ。
「レオンハルト様はいくつの頃から教会へ?」
「教会に来たのは11歳だ。でも入るのが決まったのは7歳だった。もっと早く入るはずだったんだが母が私を溺愛していてなかなか手放さなかったのだ」
レオンハルト様は伯爵家の三男で、聖属性と祈りの力が強いのと殺生を好まない性質から自分から教会に入りたいと願い出たのだそうだ。
でもその美しさゆえ引き留められ、母親から何人もの女性と引き合わされたのだという。
そうか、教会に入れなくするために女の子と仲良くさせようとしてかえってレオンハルト様を女嫌いにしてしまったのか。
「話とはそんなことではないだろう?何かあるのか?」
それで学校でディアーナ王女に保護観察されることになったという話をした。
まだどの時間帯に何をするのか決まっていないので、朝にここには来られない可能性があると伝えた。
「なぜディアーナ殿下に保護観察されることになったのだ?」
「私に対する苛めをやめさせるための処置の様です」
それでレオンハルトさまにこれまでの経緯を話した。
苛めていた相手は転校していったが大本の原因は今も存在するから苛めが再燃しかねないのだ。
それをかばうためにディアーナ殿下が名乗りを上げてくれたのではないかという推測を述べた。
それを聞いてレオンハルト様は心配そうな顔になった。
「そうか……。エリーはディアーナ殿下のお立場を知っているか?」
「第一王女で第二王子のエドワード殿下と11か月違いの妹君であり、騎士学部を希望されていることだけです」
「そうだ、つまり第二王子と第一王女は正妃の御子であるということだ。我が国はまだ立太子が為されていない。
第一王子のシリウス殿下の母君も正妃だが産後の肥立ちが悪く早逝されている。
つまり現在の王妃の御子なのだ。それが意味することがわかるか?」
「それは、王位争いがあるということですか?」
「その通りだ。我が国では側妃や愛妾に子が産まれても王族なだけで継承権はない。陛下の弟君であるアリステア公は愛妾からお生まれのため特別な場合を除いて継承権はない」
「では有利なのはエドワード殿下ということになるのでしょうか?」
「一概にそうとも言えない。そのカギとなる人物がクライン家のリカルド殿だ。
彼のことは知っているか?」
「あの方が王を選ぶことが出来る立場だと」
「そうだ。つまりリカルド殿に恩を売ることが出来れば、とても優位に立てるということだ。君は彼の騎士からその話を聞いたのだろう?
つまりディアーナ殿下にその話を持ち掛けたのはリカルド殿ということだ」
「クライン様がそのようなことをされるとは思いません。彼は私が苛められていても笑ってみていたのですよ」
「だが助けていたらもっとひどいことになっていたぞ。
私も少ししか話したことはないがとても聡明なお方だよ。
笑って見せるぐらいでちょうどよかったはずだ。
そうでなければ上位貴族の令嬢たちからも苛めに遭っていただろう」
そうかもしれない。
でもそれなら少しぐらい言ってくれてもいいのに。
「表だっては言わないだろうがディアーナ殿下にリカルド殿がついたとなると全く様相が変わってくる。女王の可能性が出てきたということになるからだ。
そこで関わってくるのが君の立場だ」
「私はそんな大それたこととは何の関係もないんですが」
「人によっては君さえ押さえればリカルド殿の弱みを握れ、ディアーナ殿下とつながりが持てるとみる輩が現れるかもしれない。注意することだ」
「そんな……もうそっとしておいてほしいです」
「それでも彼は君と仲良くしたかったんじゃないかな。
彼は聡明だから普通に話が出来ることがとても重要なのだ。
色目を使う令嬢やおべっかばかり使う令息など掃いて捨てるほどいるのだから」
ああ、レオンハルト様も同じ目(女性ばかりだけど)に遭ってらしたから、わかるんだ。
そりゃ、私だってクライン様と勉強するのは楽しい。いちいち一から教えなくていいし、私とは違う別の方面から考えた意見を話し合えるのも面白い。
でもそれ以上に苛められるのはもう嫌だ。
「私そんなに強くないんです。
勉強は出来るけどそういう人間関係をうまくやる方法なんかはわからなくて。
クライン様には申し訳ないんですけど、これ以上耐えられるか自信がないんです。
心が弱っていると使える魔法も使えなくなると指摘を受けていて、あの大怪我もそのせいだって」
「そうか……。酷なことを言った」
「ハインツ師から神殿に逃げるという方法も言われていたのですが、あの怪我のせいで私には莫大な借金が出来てしまったんです。
だからその道に進むことは出来なくなりました」
「そうか、神殿は君を歓迎したいが借金は俗世の話で我々が助けてあげることが出来ない。すまない」
「いいえ、謝っていただくことなんて何も。ああしなければ全員死んでいたかもしれないんですから。でも次助けることがあったらお金もらいたいです」
「守銭奴にはならないで欲しい。清廉スキルのある君にふさわしくないから。
だが清廉スキルは君を助けるためのスキルであって、君に犠牲になれというスキルではないのだ。自分の命まで懸ける必要はない。
もしそういうことを要求する輩がいたらそのような者は助けなくてもよいのだ」
「言われるでしょうか?」
「ああ、別名自己犠牲スキルとかお人よしスキルとも言われるからな。
でもそれは間違っている。
君を利用しようとする者の言うことは聞かなくてよろしい。
君がしたくないと思うときはしなくてもよいのだ。
自らの魂に正直であれ。
それこそが我らが仕える主神ヴァルティスの御心なのだから」
人が自分の魂に正直になったら、醜い考えにショックを受けそうだけど。
本心はもっと清らかなものなのだろうか?
私にはとてもそうは思えなかった。
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10万PV感謝記念SSを前後編アップしました。ありがとうございました。
「Holy night」
前編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893085991
後編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054893086337
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