おわり

……5年後。


世界遺産にも登録された有名な寺院の近く、大通りを少し入ったところにある空き地に、新しく家が建てられた。


夫婦と12~3才とおぼしき子どもが、新居に移り住むのだ。


夫婦は不思議に感じていた。行ったこともない観光地に既視感を感じるといい、是が非でもここに住みたいと言い張った我が子に。


しかし、夫婦は子の我が儘を聞いてあげた。


社会からひどい扱いを受け、荒みきっていた夫婦の心に、この子の無邪気な笑顔が何にも変えがたい救いになったからである。


夫婦にとって、娘は闇夜に差す朝日であった。


その光景を眩しげに見つめる男が一人。


「あの奇妙な店があったのは、ここにあった空き地のはず」


死のうとしたが死にきれず、この世とあの世をさ迷っていたときに見た夢を頼りに、男はここに来た。


「あの店で見た幻は、現実だった」


村の子どもたちの弾劾で、改心した村人。


嫌がらせはなくなったが、男は村を出た。


店があった筈の土地に、新たに建てられた家。


そこに住むのだろう、若い夫婦と子ども。


男はその子どもの顔を、思わず吸いつけられるように見つめた。


「……いや、まさかね」


男は、頭を振ってまた歩き出した。


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待ち伏せ屋~魂の番人の女あるじは珈琲を振る舞う~ 春瀬由衣 @haruse_tanuki

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