第3話

 謎の男と公園で話した後、どこに寄り道するでもなく、そのまま真っ直ぐと俺は家へと着いた。

 すぐに俺の部屋に行き、荷物と上着をベットへ投げた後、朝食べ残していた菓子パンを口に放り込み軽く腹を満たした。

 別にそこまで急ぐ必要もない、カップラーメンも家に残っているのだから三分くらい待ったて構わなかったが、今日はそこまでお腹も空いていなかったので昼食はこれで良しとしよう。

 昼食はこれで済んだとして、俺は早速先ほど手に入った魔導書の中身を確認しに行く。

 朝脱いだパジャマも一緒に転がっているベットへ寝転がると、かなりの厚さである本を横目で眺めながら、先ほどの情景を振り返る。

 少し時間が空けた今でも、あの男が行った行為は理解できない。理解できる範疇を超えていると言っていいだろう。

 だが、この本にはと言う事を知る事は出来た。ホントに知っただけだけどな。それだけでも実りは有っただろう。

 グッと上半身だけを起こすと、俺はこの本の中身を確認する為に表紙を開けようとし、そして止めた。

 勝手な知識で明確な何かを知っている訳じゃあないのだが、この手の物を不用意に調べたり開けたりすると何か良くない事が起きそうで躊躇ってしまう。

 いや別に知らないよ? 魔導書なんて初めて見たし、何を知ってるかと聞かれたら何も知らないとしか言い様が無いけどね。

 なんか……、呪われそう。呪われなくても爆発とか何とかしそうな雰囲気があるのだが大丈夫か? 見て何が分かる訳でもないが、少し外側を観察してみた。

 カッチリとした外装の本には所々表紙に傷がある。横から見る限り日焼けなどはしていないが、少しだけ黒い線が入ってる部分がある。

 材質は……革か? 今まで革が表紙の本なんて触れた事がないからどうかは不明だが、恐らく革に違いはないだろう。

 厚さは国語辞典ほどだがそこまで重くは無い、大きさも片手で持てる程だ。これなら持ち運ぶのも、大した苦労はいらないだろう。

 観察をした事で、徐々に冷静になってきた。よくよく考えたら、あんな『楽しみにしている』的な発言をしときながら罠など仕込むか?

 もしそれで仕込んでたら相当のサイコだと認定して、怨霊となって付きまとう覚悟はあるが、そんな陰湿な事をする相手には見えなかった。

 もちろんあんな一瞬ではらわたの底に隠してある思惑やら何だを全て見抜ける程俺はなってねぇ。せいぜい上っ面かどうか位だ。


 信じようあの男を、ダメだったら怨霊になって取り憑くだけだし。


 そう覚悟を決めたら速攻で表紙を勢いよく開く。そして俺は衝撃的な物を、すぐに網膜へと焼き付ける事となってしまった。


「日本語じゃねぇか……これ」


 待って、こんな雰囲気だしときながら。革製の古びた洋書で? 魔法が使えるとか何とか言っときながら? 実その中身は日本語ですと。

 無いわ、雰囲気が全て台無しじゃんかよこれ。

 まぁ読めと言われても英語くらいしか読めないし、ラテン語だったりしたら即諦めていたから別に良いんだけどね。

 パラパラと捲っていくと、独特の雰囲気を持ったページが続いていく。

 左側には複雑な円や記号などが散りばめられた魔法陣の様なものが描かれている。そして右には隣にある魔法陣の解説的なものがある。


火炎弾フレアショット』や『電衝撃ショックボルト』、『氷結盾アイスシールド』なんてザ・魔法的な物も載っている。

 それに『加速アクセル』とか『硬化ガルト』に『体力増加エンドルフ』などのサポート系も。

 『砂錬成クリエイトアース』と『水錬成クリエイトウォーター』なんかは物質を一から造り出しそうなのもある。


 ……アイツが言ってる事が本当ならば、ここにある全てを俺が使えるのだよな。ならどう使うのか確かめるのも含め何か試してみるか。

 一度流し見した場所に再び戻ってくる。 

 錬成系はどれ程産み出すのかが分からないからパスだな。室内だと難しいだろうし。

 じゃあ身体強化系は……、何か目に見えて分かるヤツが良いな。誰が見てもすぐに理解出来る方が良い。

 なら最初に火炎弾とかを使ってみたら、燃えるな。うん間違いなく燃える、そんで俺も巻き込まれる、死んだな俺。


 ――もしかして、気軽に使えそうなの無くない? ってかそもそも俺はこれを使って何をするつもりだったの?


 誰かを守るにしても、俺には幼なじみも将来を誓った相手もいない。例えいても守ろうなんて微塵も思わない、自分の身は自分でなんとかして欲しい人間だし。

 じゃあ悪事を働くにしても度胸ないし、そもそも悪を働いてまでしたい目標も無い上に欲しい物も大して無い。それに犯罪はした後が面倒くさそう。


 ……これはもしかして宝の持ち腐れってヤツか。

 それを自覚した瞬間、気だるさと眠気に無力感が一斉に襲いかかり、俺の全身にもたれかかってきた。

 ヤバい急にダルくなってきた。必要ないじゃん俺には、この魔導書は。軽くテンション上がっていたのに、返せよさっきまでの時間を。

 きっと俺以外なら必要な人は大量にいるだろう。世界をどうにかしたいと考えたり、自分のやりたい事がある人になら必要だ。

 だからと言っても俺には必要ない。どっちも無いし、どうにかしようとする意思もやりたい事も。

 徐々に冷静になっていくにつれ、先ほどまでの自分が恥ずかしく思えてきた。かなり舞い上がってた気がする。

 この恥ずかしさとダルさ両方を除去する為にも一旦寝よう。それが良い、寝てしまえ。

 半ば投げ槍な思考で横になると、使えそうで使えない魔導書をジト目で眺める。


 その時俺はある事に気が付いた。


 さっき観察した時にあった黒い線。あれは何かの汚れだとばかりに思っていたがどうも違う。紙が、その部分の紙だけが黒色になっているのだ。

 なぜ? そんな事をわざわざする必要があるのか、黒にする必要がこのページにはあるのだろうか。

 体を起こさずに爪を黒くなったページに差し込んで捲り上げると、そこには真っ暗な紙に純白の文字と紋様が並べられていた。

 ここだけがそうなっている、この後や前のページは黒くなく普通の紙になっている。片面だけが黒く塗り潰されているのだ。

 一体何が書かれているのか、体を横にしたまま天井に本を掲げて読んでみる。

 そしてそこに書かかれていた文字は、魔法は、こうなっていたのだ。


 




       


 ――

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