イスエ・クアイでチート能力を手にした転生者を現実に逃さず滅殺
俺──シソウは刀を振るい、斬空を放っていた。
平野で振っているため、周囲の森やら地面やらが、抉れ、削られ、斬り裂かれていく。
「逃げてんじゃねえぞ! クソムシィッ!」
罵倒した相手は空を飛び回り、俺の斬空を避けながら、俺に負けない声量で叫ぶ。
「邪魔を、するなッ! 何で襲って来るんだ!? 僕はもう、君とは関わらないからそれでいいだろう!」
「そういう話じゃ、ねえッ!」
どいつもこいつも何でわかんねえんだ。難しい説明をした覚えも、意味不明な事を言ったつもりはねえぞ。
『いやいやシソウくん、誰だッて“こんにちは。死ね”は混乱すると思うよ。うん。まァやらせてるのは私なんだけど! あハハハハハハ!』
頭に響く邪神の声──ニャーの声に舌打ちしながら、俺も空を蹴って逃げる
追いながら、斬空、穿空とそれぞれ放つも回避される。クソが。
「く……一体どれだけこの世界を壊せば気が済むんだ……!」
「んなコトほざくぐらいなら逃げんなクソボケェッ! てめえの
反論に煽りを混ぜて挑発するが、依然として
「僕は──僕はッ! この異世界から、元の
想いが込められた、
「死んだ人間がッ!
崩壊する校舎から巻き起こる粉塵を背に受けつつ、呼吸を整えながら振り返る。
俺は粉塵を吸い込まぬように腕で口元を覆い、立ち込める土煙に目を細めて校舎の上空を見た。
遠くてはっきりと視認はできないが──首の無い学ランを着た男の死体から湧き出る血が尾を引き、崩壊する校舎へと飲み込まれて行く。
……蛆虫にしてはデカすぎる墓標なのが癪に障るが、二度と来ることも無いだろうと捨て置くことにした。
──と、崩落と共に飛んでくる瓦礫に交じり、黒いモノが俺の足下へ転がってくる。
それを、見た俺は。
「おぉおおおお、りゃあッ!」
怒声を轟かせながら、俺は手にした
ため息一つ吐き、崩れる校舎から離れるように進むと、そこには──
「はい、カド取りー。くるくるパタンパタン」
「あッ、待った! その一手ちょっと待ったやで! お嬢ちゃん!」
「いや、オセロに待ったもクソも無いですって。ほら、次は貴方の番ですよ」
「くぅ~……容赦ないなーホンマにもー……んー……ここなら! ……いや無理ちゃうかこれ。巻き返して真っ黒にできる未来が全く見えへん。んぐぅ~……」
「………何を、しとるんだ。お前は」
眼下にいるムンに向かって呆れた声で呼びかけると、ムンが無表情のまま、俺を見上げて言う。
「あ、シソウさん、お疲れ様です。今ちょっとした賭けやってまして。この一戦に勝ったら“この方”の脚を一本、天ぷらにしようかなと」
「え? なにそれワイ聞いてへんねんけど。いつの間にワイの脚がパリッと香ばしくなる話になっとるん?」
座り込んだムンとオセロ盤を挟み、向かいにいるのは……虫。
虫自体は、たしか……カマドウマ、だったか。コオロギによく似た昆虫だと、昔図鑑で見た覚えがある。
ムンと会話のやり取りしていなかったら
………それほどまでに、巨大な虫は忌避感が拭えない。と、巨大カマドウマに戦慄するのは意識の隅に置き。
俺はムンとカマドウマの間にあったオセロ盤を盛大に蹴り飛ばした。
盤とその上に乗っていた白黒の駒は眼下の階段へと、吸い込まれるように落ちていき、安っぽく乾いた音が小さく響く。
そして、ムンを睨みつけて言う。
「遊んでんじゃねえよクソガキ」
「なら転生者秒殺してくださいよノロマ」
ムンの煽りに対して俺は鞘に納めた
「てめえはいつも、いつも! そうまでして俺を怒らせてえのか! ああ!?」
「心外ですね。全ての起因はシソウさんですし、低能ゆえじゃないですか。なのに私に八つ当たりとか馬鹿丸出しもいいとこですよ。もう少し頭使って効率化図ったらよろしいのでは」
「おおおおおおおっ!」
罵倒に対し返された煽り文句に怒りを燃やし、ムンへの猛撃を加速させるが、当たらない。
やがて、疲労で刀を振るのを止め、肩を上下させ呼吸を整えていると、背後から声が聞こえてくる。
「いやー、勝負流れてもうたし、しゃーないなー。ムンちゃんにワイの華麗なる逆転劇見せられんくて残念やなーホンマ」
振り返って見ると、巨大カマドウマは器用に前足で頭を掻きながら、流暢な……かは知らんが……関西弁らしき訛りで喋っていた。
ムンが大きなあくびをする中、カマドウマが俺に話しかけてくる。
「そういや兄ちゃんには自己紹介がまだやったな。ワイはカマドウ・マジェスティックレイヴァンゼルクロムウェルディオー……」
「……カマドウ、でいいんだよな?」
「──ああ、ええよそれで。いやすまんな、ワイ名前めっちゃ長いの忘れてたわ」
たはは、と笑ったカマドウマの……カマドウは、咳払いを一つすると神妙に頭を下げた。
……パッと見、腰を反り上げてるようにしか見えないが。
「兄ちゃん、ありがとーな。あの人間ども潰してくれて。お陰で絶滅せずにすんだわ」
「──は?」
告げられた感謝の言葉に──混乱した。
今の今まで
混乱する俺に気づいたカマドウは、順序だてて説明を始めた。
「話すと長くなるんやけども。ワイら魔物は元々この山の中で暮らしててん。で、どっかからやってきたカミサマ……たしかニルネンヴィーグミンゆーたかな? そのカミサマが山のてっぺんに、けったいな建物置きよってなー」
カマドウが前足で地面をポンポンと叩きながら、説明を続けていく。
「何や何やと戸惑ってるうちに、今度は人の群れがぎょーさん来おったんや。まぁ、すぐに死んだんやけど。ただなあ、一人の男が死んだ奴らを引き連れて、無茶苦茶やりおってな。カミサマ倒したんはええとしても、“経験値稼ぎだー”ゆうてワイら殺しまくり始めてなー。どうにかしたいなー思てた所に兄ちゃんが来てくれたって所や。ホンマありがとうな」
改めて頭を下げたカマドウに俺は、ほんの少しの申し訳なさを滲ませて言う。
「大体分かった……だが、そんなのは偶然だ。異世界転生者じゃなかったら、俺たちは素通りしてたぞ」
『わーシソウくん照れてるー。きッしョ』
「うっせえクソアマ」
「んん? なんや、兄ちゃんどないした」
「いや……こっちの話だ。気にしないでくれ」
不思議に思ったカマドウは首を傾げて尋ねてくるが、俺の言う通り気にしなくなり、何やら悩み始める。
「ホンマなら礼として何かプレゼントしたいなー思てるけども。そこの
「いや、俺は別に……」
「お礼なら貴方の同胞から一匹ご馳走してくれませんかね」
ムンの悪趣味な要求に
黙らせることには成功したので、追撃はせずにカマドウを見る。
「あの
流石に罵倒の文句に“ムシ”を使うのは目の前の相手に対して失礼だと思い、とっさに言い換えたが、カマドウは特に気にした様子もなく、カラカラと笑いながら答える。
「そっかそっかー! 重ね重ねすまんなー、兄ちゃん。せやけど何も無しは流石に気が引けるから、礼代わりに一つ教えたるわ」
そう言うとカマドウは前足を右の方へ差し向けて、言葉を続ける。
「あっちの方でな、何かえらいごっつい音が最近聞こえてきてん。向こうから来た奴が言うには、“子供が考えたような武器やら鎧やら装備した奴が暴れまくってる”っちゅー事らしいんや」
「……なるほど」
『十中八九、
ニャーの煽りに俺は頬をひくつかせながら、ムンにサンタくんの準備をさせ、カマドウに別れを告げて空へ飛ぶ。
カマドウが指し示した方向へサンタくんを飛ばし続け、かれこれ数時間。
いつもならムンの“お腹空いた”コールが目覚ましのスヌーズ機能の如く、やかましく聞こえてくる所だが……
前方に注意を向けつつ、後ろを振り返る。
そこには、器用に姿勢を保ちながら静かな寝息をたてるムンが居た。
穏やかな寝顔だが、一度起きて口を開けばクソガキといわざるを得ない振る舞いに腹が立ってくる。
ムンに八つ当たりしたところで状況が改善するわけも無いので、俺はサンタくんの手綱を繰り、鼻腔を冒していく腐敗臭を嗅ぎ取って次なる
しばらく飛び続け、見飽きた形の街らしき場所を見つける。
「……いくら最適化とはいえ、こうも縁を円形に壁で囲った街ができるもんなのか」
『さあ? 基本的に
俺の独り言に対し脳内に野太い男の声──
街のすぐ手前でサンタくんを着陸させ、ムンを叩き起こし、徒歩で外壁に近寄っていく。
「シソウさんまたですか。またなんですか。どうしてもっとスマートにいかないんですか」
「そこまで言うなら突っ込んで即戦闘でいいんだな、てめえ」
「いいわけないでしょう。スマートにいけって話で雑なやり方に着地しないでください。アホなんですか?」
「お前こそ、いちいち突っかかって来るな。何回このやり取りすれば気が済むんだ」
「同じようなやり取りして辟易してるのはこっちなんですよ」
ムンと下らない言い争いをしてる間に、街の外壁へとたどり着く。
そこから外壁に沿って歩き続け、門らしき場所を見つける。
……前と違って門番は居ないみたいだな。
さっさと門を潜り抜け、俺の後ろに付いてきているムンの間の抜けた声が聞こえた。
「へー、メェイホンって名前なんですねここ。読みにくっ」
相槌を打つこともなく、
いかんせん、臭いが強烈で場所の特定が難しい。
「シソウさん」
虱潰しに歩き回って探すのも得策では無いが、手段の一つには加えるべきだ。
となると、気は進まないが人に訪ねて回る──
「てい」
「うおっ、何しやがるクソガキ」
「呼んでも反応しないからですよ。そんなことよりも、ほらアレ」
ムンのローキックを避け、奴の指差す方向には。
「じゃあ、僕はこれで」
「本当に、行ってしまうのですか……?」
「……うん。僕には帰るべき場所があるから」
「でしたら! ……でしたら、私では貴方様の帰る場所にはなれませんか?」
「いや、アシクレイン。君も僕にとっての帰るべき場所だよ」
「アサヒ様……! それは、もしかして──」
「転生者よ、今永遠の死を与える」
アシクレインと呼ばれた姫──実際姫なのだろう──らしき女エルフの声に滑り込ませるようにして、処刑の言葉を告げ、抜刀──激痛と共に絶叫しながら刀を振るう。
「お゛ォオオオオッ!」
横薙ぎに放った斬空に対し、
「あいつはッ……! “覇剣”、“懐弩”っ!」
前に飛び出し、右手に豪奢な剣、左手に奇妙な形状のボウガンが握られており、剣を振るって斬空を分断し、ボウガンで斬空の残骸を吹っ飛ばす。
人々が悲鳴を上げ逃げ惑う中、
「おォオオッ!」
「く、おおおっ!」
突撃する俺と迎え撃つ
「が、はァっ……!」
苦悶の声を吐き出しながら、
顔を上げ、
俺の左脇を何か──
俺が振り返る頃には遥か遠くに跳躍しており。
「逃──っげんな、この野郎ォ!」
怒号を轟かせながら、俺も跳躍して
『ニャーさまのォ~、いきなり! サプライズ解説ゥ~。というわけでね、シソウくんが
「が、っ……ごはァッ」
『イスエ・クアイはシソウくん達が元居た世界の物理法則の他にもう一つ。愉快な仕様の物質があるのよね』
「ぐ──ォオ゛オオオオッ!」
『幻想型素粒子イマジニウム、通称はイマジニウム。略称は
「死ね、死ねッ! 死ねえッ!」
『このイマジニウムはねー、生物の三大欲求と喜怒哀楽に反応して現実の物質法則をねじ曲げた現象とか引き起こすンだ!』
「がァ……ッ、ぐ、げほっ、はァ……」
『ただ
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせえッ!」
肝心の
『まッたくもー。シソウくんたらいけずゥ~。そんな君にアタシの気持ち……受けとッ、げほッ、げほッ、ぅえ、むせた……』
ニャーの咳が聞こえると同時に俺の視界の左端に、文字の羅列が現れる。
【名前】アサヒ・ジゲ
【レベル】九九/???
【幻子保有量】九〇〇/九九九
【性別】男
【身長】一八七センチ
【体重】八〇キロ
【種族】人間・異世界転生者
【心】二
【技】五五
【体】八五
【神威能力】
《
一定の経験値を積むと急激に強化され、副産物として容姿も美しくなる。
【装備】
《破剣》
全ての物を紙の様に破く事ができる剣。
《壊弩》
大気中のイマジニウムを矢として具現化し、自動で装填、追尾できるクロスボウ。
《貫槍》
全てを貫く投擲槍。物体に直撃すると手元に瞬間移動して戻ってくる。
《撃槌》
あらゆるものを弾く金槌。空気を叩く事で不可視の弾を放つ事も可能。
《無双籠手》
腕力を飛躍的に上昇させる他、意識するだけで握った武器を放さない様に自動で握り締める。
《戦鬼神の鎧》
どんな攻撃を受けても倒れなかった鬼の鎧。鉄壁の防御力を持つ。
【経歴】
日本人である。─────
『そんでー、こッちがシソウくんのステータスねー』
その声と共に今度は俺の視界の右端に文字の羅列が映し出される。
【なマ江】シソウ(仮)
【れ辺ル】享年にじュう三歳
【もッて瑠幻子ノ数】无
【性べツ】分類学テキにはオス
【なガ差】伍尺ろく寸イチ分
【おモ差】二十カン
【カてごリ】ホモサピエンス・屍
【芯】拾之捌拾捌乗くらい
【伎】参
【躯】伍
【じョう態】
セい物的ニハ既に死亡しテイるガ、津ァ戸ゥ愚ァ之落歳仔が躰内ヲジュン環し、駆動。
【装ビ】
《
妖トウのレぷりカ。血二餓えテいる為、持チ主が目標ヲ斬リ殺スまで、持ち主の肉タイはアリとアラユル状況に於イて朽ちズ欠けナイ
【プロふィ異る】
車に轢かレて死ンダ日本人。
『とまァ、こんな感じなんだけども』
「ゴミ情報を、視界に出すな馬鹿野郎ォッ!」
「何を訳の解らない事を……!」
「お前は! 死ねえェッ!」
放った斬空は、
尚もニャーの声が頭に響く。
『ゴミ情報になるかはシソウくん次第じゃにャいかにャあ? ほらほら、もッと読みこみなよ。そことかあれとか』
「俺は! 今ッ! 戦ってんだよッ!」
我武者羅に動き、刀を振るうも俺の攻撃は当たらず。
代わりにヤツの攻撃だけがバカスカ当たる。
「ぐ……お、お……っ!」
凄まじい攻撃に、身動きも取れず、ボロ雑巾の様に、嬲られ、宙を舞う。
必死に体勢を立て直す途中、視界の左端に表示されている文章を眺め。
「上……等だ……!」
奥歯を噛み締めて迸る激痛と共に、改めて覚悟を決める。
無様に地面に叩き付けられた俺は力を振り絞って立ち上がり、奴を、
奴に背を向け、元居た場所──メェイホンへと跳ぶ。
眼下に街(もしくは国)の全貌を捉え、刀を振り下ろす。
「や──らせるかぁっ!」
「ッ、がぁ……ぐ、ふッ」
鞘を杖代わりにして立ち上がると、目の前には血相を変えた
……右手には剣じゃなく、トンカチらしき物体が握られていたが、どうせ
さて……ここからだ。
「お前……今、何をしようとしたんだ……」
アサヒが問い掛けてくる。
無視して斬りかかりたい衝動と、永続的に襲ってくる激痛を必死に抑え、非常に業腹だが、応える。
「見てわかんねえのか。壊そうとしたんだよ、
「どうしてッ! どうしてそんなことを──!」
「お前が逃げるからだろうが」
「だからって皆を巻き込んで良いわけあるかよ!」
「元の
「
うざったい程にヒートアップしているアサヒに合わせて怒号を飛ばしたくなるが、今必要なのは奴の心を抉る
冷静に……冷徹かつ、冷酷に。
言葉を選び、放つ。
「帰る場所と言うがな。逃げる場所の間違いだろ」
「……? 僕がいつ逃げ──」
「現実が辛すぎて車に轢かれに行った奴が逃げた奴じゃなくて何なんだ」
一瞬、アサヒが言葉に詰まり、今度は血の気が引いていた。
やがて、かろうじて言葉を絞り出す。
「な……んで、それを」
……ここまで動揺するとはな。
だが、容赦は一切しない。邪神に見せつけられた
「そんなに楽しかったか? バケモノやゴロツキをシバき回して強くなるのが。シバいてレベルアップしたら強くなると同時に不細工な自分と、おさらばできた事がそこまで誇らしいか?」
「だ──まれェ!」
図星を突かれたのか、
俺は鞘と刀を交差させ、振り下ろされた剣を受け止める。
あの
迸る激痛で今すぐ攻撃したい衝動が再び噴き上がるが、堪えて、口舌を回す。
「ムキになるって事は俺の言った事に間違いが無いんだな。それを踏まえて尋ねるが」
「だまれ……」
「逃げた先で
「だまれ……ッ」
「散々良い思いして」
「だまれ……ッ!」
「そして、飽きたから
「だまれぇえッ!」
「ぐォ……!」
思わず苦悶の声が漏れ、吹き飛びそうになるが、踏ん張りを利かせ、鞘と刀を地面に突き刺して耐える。
俺は──尚も、冷えきった声音で打ちのめしていく。
「お前……は、所詮イキるだけイキって、逃げるだけの、弱虫野郎でしかないんだよ」
そこまで言って、堪忍袋の緒が切れたのか、アサヒが剣の切っ先を俺に向けてまくし立てる。
「なら……なら、お前は何なんだ! 惨めに死んで、僕と同じぐらい不幸なくせして! その上、邪神のオモチャになって! 邪神から渡された
……こいつは、こいつで俺の
ならば。
ならば、今一度、
俺が決めた、俺の信念を。
「何がしたいか? 決まってるだろう──
一旦呼吸し、激痛を吐き出す様にして怨嗟の声音で言葉を続ける。
「
アサヒの腹に蹴りを入れ、距離を空け、吠える。
「俺は!
剣戟を再開させる。だが、形勢は俺が押す形に転じている。
「訳が、わからない!」
「俺は! お前と違って、死んだ事実からも! クソみたいな状況からも! 逃げたりしねえんだよ!」
俺の指摘に、
「貰った力で、幸せになって何が悪い!? 今まで不幸だった僕に……そんな僕に! 幸せになる権利も無いって言うのか! お前は!」
「んなこと、俺に訊くんじゃねえよ! お前の幸せなんざ知るか! つーかなあ──」
アサヒが操る、剣、弩、槍、槌を一身に食らい、ながらも。
怯むことも、逃げることも、退くことも無く。
前に、進む。
「──お前みたいなクソムシを、俺が守るべき
斬空をアサヒの鎚に叩き込む。身動きを取らせる間も無く、執拗に、鎚に攻撃を与え、そして。
「ッ、らあッ!」
「な──撃槌が!」
鞘を渾身の力で振り抜き、アサヒが手にした槌……撃槌を粉砕する。
──まだだ。次……!
「おおォォォッ!」
「く、うぅ……ッ!」
アサヒが砕けた槌の代わりに瞬時に出現させた槍を振り回し、時には投げつけてくるが。
今度は槍を狙い執拗に攻撃を加える。
怒りと激痛と、その場の判断で時間の間隔が解らなくなる──が。
「だァッ!」
「なにッ!?」
突き出された槍……貫槍を、半身を反らして避け。
逆手に持った鞘を振り上げ、順手に持った刀は振り下ろし、挟み込む様にして槍をへし折る。
──あと、四つ。
『はァーん。茹で卵の殻剥きの如くチクチクチクチク攻める作戦かね、シソウくん。なんていうかさァー、地味』
勝手にほざいてろ。
何言われようが、殺しの手順は俺が決める。そして必ず殺す。
自分の獲物に余程自信があったのか、アサヒはいまだに動揺してやがるな。
ビビったのか、攻撃の手数が減り、回避重視の動きに変わっていた──が、無駄無意味無価値。
死ね、死ね、殺す。
「おォ──オオオオオオオッ!」
「く、うああ、ッ」
逃げ腰のアサヒに向かって、順手に持ち変えた鞘と刀で穿空の乱打を繰り出し、鬱陶しい矢をぶち込んで来た弩……壊弩を木っ端微塵に粉砕する。
──あと三つ。
「調子に、乗るなァッ!」
「散々調子に乗ってたお前が言うなッ!」
剣を両手で握り締めたアサヒが遮二無二振り回して、反撃に出てくる。
最早何の技術も無い、
互いの繰り出す攻撃の余波で周囲がズタズタに切り裂かれ、潰れていく。
ほぼ同じ
違うのは、
奴の唯一残った武器に対して俺は、刀、鞘。鞘、刀と二連撃をアサヒの剣の側面に加え続ける。
時折、
その時は、来た。
「死ね、死ねええッ!」
「くう、ッあ──!」
振り下ろされた剣を、鞘と刀を交差させるように振るい、一撃。
懲りずにもう一度振り下ろして来た剣を抱き込む様にして左右外側から鞘と刀の挟撃を加え、二撃。
アサヒの剣……覇剣を、両断する。
残りふた──
「う、あああああッ!」
顔、に……拳──を食らう、クソ、ぐ……
『はッはァー。何のスイっチが入ッたかは知らないけれど。
揺らされる、脳に。意識が飛びかけるが、忌々しい
前を向き、見ると。
拳を振りかぶったアサヒが飛んで来ていた。
「うわぁああああッ!」
顔に向けて放たれた拳を避けようとし、左肩に直撃する。
「ぐあああああッ!」
「僕が、僕が! どんな思いで! あの武器を集めたのか! 何もッ! 知らないクセにッ! この、このぉおおおッ!」
涙声で喚き散らすアサヒの、ふざけた速度の雑な拳の連打に、手も足も、出ない。
──だが、しかし。
意地と
射殺す如くの眼光で
雑なパンチに対してカウンター気味に頭突きを決め、怯ませる。
その、一瞬に。
「──死ね」
「ああああぁあ、ッが、ぉッ」
鞘と刀でアサヒの籠手を切り落とし。
鞘を渾身の力で突いてアサヒの胸を貫き。
刀でアサヒの首を刎ね飛ばした。
怒発傷天 鯔副世塩 @Hifumiyoimu
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