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「アスター……」
「アリッサム、交通事故に遭って入院していたんだろう。一人でここに来たのか? ジンジャーには知らせて来たのか?」
アリッサムの体はとても冷たくて、俺の両手が凍えるほどだった。
「アスターに逢いたかった。高校を卒業したらすぐに逢いにくるつもりだったんだよ。でも来れなかった。アスターにどうしても『おめでとう』と『さようなら』が言いたかったんだ。結婚するんだよね? アスターおめでとう」
俺は首を左右に振り、アリッサムを強く抱きしめた。
「……アスターどうしたの?」
「アリッサム……違うんだ。婚約は解消したよ。アリッサムが交通事故に遭ったとジンジャーから知らせを受けて、生きた心地がしなかった。自分の気持ちにやっと正直になれた……」
「アスター……。婚約解消したの? ボク、アスターにずっと逢いたかったんだよ」
俺もアリッサムに逢いたかったよ……。
「アリッサム、怪我は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。体が冷たくて凍えるほど寒くてたまらないけど、痛みは何も感じない」
「そうか。部屋の中に入って、何か温かい飲み物を作るよ」
俺は玄関のドアを開け、アリッサムを室内に招き入れた。照明のスイッチに手をかけると、アリッサムは「眩しいから」と制止し、ダウンライトだけを点けた。
薄明かりの下で、アリッサムは優しく微笑む。
「すぐにジンジャーに連絡しないとな」
電話に手をかけると、アリッサムがそれを遮った。
「アスター待って。お兄様にはあとでボクから連絡するから」
「もしかして、ジンジャーに黙って病院を抜け出したのか? 悪い子だな」
「だって、ボクにとって大切なことだから」
「ジンジャーはきっと死ぬほど心配してるよ」
「そうかな。お兄様ならわかってくれる。卒業式のあと、お兄様がバレット王国行きの切符をくれたんだ。『アスターのところに行け』って背中を押してくれた。でも交通事故に遭って病院のベッドから動けなくて、そうしているうちにアスターからお兄様に結婚式の招待状が届いて、お兄様がボクの耳元で『もうアスターのことは諦めろ』って言ったんだ……。ボクはその言葉を聞いて悲しくなった」
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