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「フリースクールでの君の立場もある。責任は俺が全て負うよ」
「アスター……、あなたは何も悪くないわ。仕事には支障はない。だからこの件は気にしないで」
「そうはいかないよ。スタッフも子供達も俺達が結婚すると思っている。不甲斐ない俺が、アイビーに婚約破棄された。そうすれば君の立場は揺らがない。俺はフリースクールを退職する。これ以上、君やウィルソン社長に不快な思いはさせたくない」
「アスター……フリースクールを辞めてどうするの? 就職のあてはあるの? 私でよければ、次の仕事を紹介するわ」
「ありがとう。でもこれ以上君に迷惑をかけるわけにはいかない」
「……あなたの意思は固いのね。本当にごめんなさい」
アイビーは左手の薬指から、偽りの婚約指輪を外しバッグに収めた。
「アスター、もしも困ったことがあれば、私はいつでも相談に乗るわ。私の気持ちに偽りはなかった……。それだけは信じて……」
「アイビー……」
アイビーの目から、涙が溢れ落ちた。
「アスター、もう行きなさい。愛しい人があなたを待ってる」
「ありがとう……。アイビーさようなら」
「元気でね……、さようなら」
俺は病院を飛び出し車に乗り込んだ。
◇
身の回りの荷物を纏めるためアパートに戻り、地下の駐車場からエレベーターに乗り五階で降りた。
俺の部屋の前に……
ぼんやりとシルエットが浮かんで見えた。
そのシルエットは、俺に視線を向け、一歩……また一歩と……近づいてくる。
黒いシルエットは照明の下でその姿を現し、天使のように俺に微笑みかけた。
――アリッサム……?
危篤だというのは、ジンジャーの噓だったのか?
アリッサムは交通事故に遭ったとは思えないほど、美しい顔をしていた。
アリッサムを失うと思っていた俺は、アリッサムの姿を目の当たりにして、涙がこみ上げる。
形振り構わず、俺はアリッサムに駆け寄り抱き締めた。
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