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俺はウィルソン夫妻だけではなく、アリッサムも欺いていたんだ……。
「すぐに行くよ。アリッサムにはそう伝えてくれ」
『アスター……ありがとう。アリッサムにそう伝えるよ』
ジンジャーの声は掠れ涙声だった。
俺は……やっと、これが現実なのだと悟る。
電話を切り病室に戻ると、病室の前でアイビーが俺を待っていた。
「アスター? 真っ青な顔をしてどうしたの?」
「……アリッサムが交通事故に遭って……危篤なんだ。アリッサムが王立病院に入院していたなんて、俺、知らなかったから……。俺は……俺は……」
「アスター……落ち着いて」
「アイビー……。今すぐアリッサムに逢いにいかないと。今すぐスーザン王国に戻らないと……」
「アスター……。あなた、まさか……ジンジャーの弟と……」
「アリッサムはジンジャーの弟なんかじゃない。あれはジンジャーの真っ赤な噓だったんだよ。俺、アパートに戻って荷物を纏めるよ」
「ごめんなさい。私……混乱してるわ。弟じゃないなら……誰なの? 今すぐ、行ってしまうの? 私をここに残して一人で行くのね」
いつも凛としているアイビーの頬に、一筋の涙が伝った。
「お母様が……『アスターのことがそんなに好きなら、偽りではなく正々堂々と気持ちを伝えなさい』って。でも……もう遅かったみたいね」
「アイビー……」
「わかってる。偽りの挙式でアスターを婿養子にしようと目論んでいたのは、お父様だけじゃない。私も同じ気持ちだったから。親子揃って卑怯な手を考えるなんて、愛想をつかされて当然だわ。アスター行っていいよ。後始末は自分でするから」
「……アイビー、俺にも責任がある。謝罪なら俺も……」
「アスターには何の責任もない。お母様も『偽りの花嫁姿は見たくない』って……」
アイビーが俺に抱きつき、キスをした。
「アスターとの恋人ごっこ、楽しかったわ。でももう終わりにしましょう。お母様に知られたからには、もう偽りの挙式をする必要もないわ。アスター……ありがとう」
「アイビー……。本当にごめん」
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