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 嘘が露見し罪の意識に苛まれたと同時に、もう嘘をつかなくてもいいのだという安堵感から、俺は内心ホッとしていた。


「お母様には嘘はつけないわね。ごめんなさい。お母様の言う通りよ。結婚前提の交際も全部嘘。でも……私がジョンソンさんに片想いをしていることは事実よ」


「やはりそうだったのね……。お父様も知ってるの?」


「知ってるわ。お父様のことだから、偽りの挙式をあげてそのまま婿養子に迎える策略だったに違いないけどね」


 俺は婿養子という言葉に慌てている。

 まさか、そんな策略があったとは……。


 病室のドアがノックされ、看護師が入室した。


「すみません。こちらにアイビー・ウィルソンさんはいらっしゃいますか? ジンジャー・アダムスミスさんと仰有る方から、緊急のお電話ですが……」


「ジンジャーから? わかりました。今、行きます」


 俺達は二人でナースステーションに向かう。アイビーは電話に出ると、「えっ?」と声をあげて俺を見つめた。


 アイビーは俺に受話器を差し出し、「お母様と話をしてくるわ」と、耳元で囁く。俺は受話器を耳に近づける。


「もしもしジンジャーか。よくここがわかったな。どうした?」


『アスターか。先日、アイビーから電話をもらって事情は全て聞いている。結婚式の招待状も受け取った。ウィルソン夫人の入院先にまで電話して申し訳ないが……実は……アリッサムが事故に遭ったんだ……』


「……アリッサムが事故に?」


 俺の思考回路は混乱し、理解するのに数秒間を要した。


「ジンジャー、アリッサムはどこに入院しているんだ?」


『王立病院だ。卒業式の直後に交通事故に遭ったんだ。本来ならそのあとバレット王国へ一人で出立する予定だった』


「アリッサムがバレット王国に……?」


『そうだ。アイビーとのことで多忙を極めているアスターに、連絡するべきか迷ったんだ。実は事故のあとずっと昏睡状態だったアリッサムの容態が悪化したんだ。アリッサムが……危篤なんだよ……』


 ジンジャーが泣いている。

 男泣きしているジンジャーに、胸が引き裂かれる思いだった。


 ――アリッサムが……交通事故で入院していたなんて……。


 容態が悪化した?

 あの元気なアリッサムが危篤だなんて、意味がわからないよ。


 ――嘘だろう……。


 ジンジャーのことだ、俺を驚かせるための嘘に決まっている。


 アリッサムが生死の境を彷徨い苦しんでいる時に、俺はアイビーの恋人の振りをして、アイビーのご両親を騙していたなんて……。


 これは……

 神を冒涜した天罰…………。

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