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「素敵でしょう。この指輪はアスターからプレゼントされた婚約指輪だからね。間違えないでよ」
「わかってるよ。でも俺がそんな高級品を買えないことくらい、ウィルソン社長はすぐに見抜いてしまうよ。もう少し安いものにしてくれればよかったのに」
「安物を身につけていると、それこそお父様に見抜かれるてしまうわ」
俺はアイビーと一緒にマンションを出て、王都ローズにある高級レストランに向かった。
アイビーのご両親はすでに到着していて、こんな俺にとても温かく接してくれた。
ウィルソン社長は大企業のトップに君臨するだけあって、まるで面接を受けているようだった。ウィルソン社長夫人は気品もあり上流階級の夫人らしく上品な立ち振る舞いだった。
「ジョンソンさん、わたくしどもはアイビーに社交界でも通用するようにと、十分な教育はしてきたつもりですが、どうやら女性らしさには欠けているようです。女性としての幸せよりも仕事を選ぶなんて、親としてはたいそう心配していましたが、あなたのような恋人がいたとは、寝耳に水でした」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今後とも宜しくお願い申し上げます」
――アリッサム……。
俺はアイビーの恋人を演じている。
もしかしたら、この噓が誠になるかもしれない。
そうなったら、それもまた……俺達の宿命かもしれない。
◇
俺はこの日、アイビーのご両親と会食し結婚前提の交際を認めてもらった。挙式の日取りを決めたいと焦るご両親に『暫くは恋愛期間を楽しみたい』とアイビーは言い張り、難なくクリアすることができた。
俺はアイビーとの約束通り、恋人の振りをすることに成功したが、その日を境にアイビーを女性として少し意識していることに気付いた。
俺はアイビーの策略にまんまとはまってしまったのかもしれないな。
それなのに、なぜだろう。
フリースクールの子供達を見ていると、アリッサムを思い出す。
「今日の授業はここまで。みんな気をつけて帰るように」
「はーい。ジョンソン先生、ウィルソン先生と結婚するって本当ですか?」
「は? だ、誰がそんなことを!?」
「婚約したんでしょう。みんな知ってますよ。ウィルソン先生の左手の薬指につけてるのはエンゲージリングですよね。いいな。いいな」
子供達にからかわれ赤面する俺は、まるで少年だな。
結婚なんてするつもりもないのに。
俺はいつの間にかアイビーの婚約者になっている。
ウィルソン夫妻だけではなく、子供達も欺くなんて出来ない。
俺が欺いているのは……
自分自身なんだ。
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