微熱 14
アスターside
99
――五月、今日はセントマリアンジェ校の卒業式だ。
俺が担任をしていたクラスの生徒は、全員卒業したとの連絡をブラウン先生から受け安堵する。
アリッサムの進学先はどうなったのだろう。
ブラウン先生に問いたかったけど、一人の生徒の個人情報を聞くことはできなかった。
首席で卒業したアリッサムのことだ。
王立スーザン大学に合格したに決まっている。
俺が心配することは何もない。
――玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けるとそこに立っていたのはアイビーだった。アイビーは空のように美しい鮮やかなブルーのワンピースに身をつつみ、いつになくドレスアップしている。
「アイビーどうしたんだよ。正装してまるで舞踏会にでも行くみたいだな」
「久しぶりに両親に逢うから緊張してるのよ」
「お見合いするのか?」
アイビーは呆れたように笑った。
「やだ。もう忘れたの? 先月約束したでしょう。私の両親との会食」
「え? うわ!? 今日だっけ? 来週だと思ってたよ」
「アスターのことだからそんな気がしていたの。迎えに来て正解だったわ。アスターが着替えるまで部屋で待っててもいい? この格好は目立つもの」
「ごめん。すぐに支度するから。どうしよう。ウィルソン社長にはお世話になっているのに、手土産も用意してないなんて。最悪だな」
俺は完全にテンパッている。
先月末にアイビーに頼まれて、恋人役を演じることになっていたからだ。政略結婚を阻止するための策略だが、ウィルソン夫妻を騙すのは良心が痛む。
俺は部屋着からスーツに着替えネクタイを結ぶが、焦っているためにもたついて上手く結べない。見かねたアイビーが俺に近付きネクタイを結び、クリスマスにアイビーからプレゼントされたネクタイピンをつけた。
「アスターでも緊張するんだね。大丈夫、私に任せて。アスターは私の話に相槌を打ってくれるだけでいいのよ」
「OK……。その指輪……」
アイビーは自分で用意した指輪を左手の薬指につけていた。キラキラ光るダイヤの指輪を見せ悪戯っ子のように笑みを浮かべた。
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