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――アスター……。
どれほどボクに嘘をついたんだよ?
本当に……実家でお母さんの介護をしているの?
もしかしたら、ボクから離れるための口実だったの?
ボクはアスターにまんまと騙されてしまったみたいだね。
アスターがボクのために噓をついたのなら、ボクはもう少しだけ、アスターに騙されていてあげる。
◇◇
―四月、大学の合格発表―
ボクは第一志望の王立大学に合格した。
同居している兄も、世界旅行中の両親も、とても喜んでくれた。
ボクは今すぐ、アスターに会いに行きたかった。
でも……セントマリアンジェ校を卒業するまで我慢する。学校を卒業して、堂々とアスターに逢いに行きたいから。
だから……待ってて……。
――五月、セントマリアンジェ校卒業式。
旅行中の両親の代わりに、兄が卒業式に出席してくれた。
アスター……。
本当なら、担任だったアスターにボクの名前を読み上げてもらううはずだったのに。
卒業式のあと、教室で現在の担任から卒業証書を受け取った。
――アスター……。
ボクは卒業したよ。
教室での最後のホームルームも終わり、ボクは他の生徒と一緒に教室を出た。
兄が廊下の隅で、ボクを待っていた。
「アリッサム卒業おめでとう。首席で卒業だ。アリッサムはアダムスミス公爵家の誇りだよ。よく頑張ったな」
兄はボクを抱きしめ、何度も頭をポンポン叩いた。
「よしてよ。お兄様、ボクはもう子供じゃないんだから。みんなが見てるだろう」
「俺はお前の兄だよ。可愛い妹を抱き締めて何が悪い」
「……妹?」
兄はクラスメイトに聞こえるような大きな声で、こう話した。
「アリッサムは俺の弟なんかじゃない。可愛い妹だ。お前に悪い虫がつかないようにと、両親と俺はお前を男子として育てた。それがどれほどアリッサムを傷付けてきたのか……。本当に申し訳なく思う」
クラスメイトはざわつき、いつも意地悪な兄の目に涙が滲んでいる。
「お兄様……」
兄の涙につられて、鼻をグスンと鳴らす。
兄の腕の中からやっと解放されたボクは、卒業証書を握りしめたまま兄を見上げた。
「お兄様、頼みがある……」
「なんだ。卒業祝いなら、新しいドレスもハイヒールも好きなだけ買うといい。もう男の振りはしなくていい。これからは女性として生きるんだ」
「ありがとう……。でもドレスなんていらない。今すぐアスターのところに行きたい。アスターの住所を教えて欲しいんだ」
「アリッサム……」
「アスターはボクを守るために、教師を辞めたんだよ。ボクはもう高校生じゃない。一人の大人としてお兄様に頼んでいるんだ」
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