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そのあと俺達は、大学生の時によく仲間と一緒に行ったジャズバーに向かった。そこにはアイビーの計らいで、大学時代の友人が集まっていた。
「ようアスター! 久しぶりだな。ローズに戻ったとアイビーから連絡があり、恋人とのデートを断って、みんな集まったんだぜ」
「お前、恋人いないだろう。でも、嬉しいよ。みんなとこうして再会できるなんて、夢のようだ」
スーザン王国に旅立つ時、それなりの覚悟でこの地を離れた。アリッサムがジンジャーの弟ではなく、妹だと知ってしまった俺は、アリッサムへの恋心を封印した。
「アスター、アイビーのフリースクールで講師として働いてるんだって? 教師は天職だと豪語していたのにあっさり退職するなんて、そういうことだったんだな」
「そういうことって?」
みんなの視線が、俺達に向く。
アイビーは左手の薬指に光り輝くルビーの指輪を、これ見よがしに仲間に見せつけている。
その指輪を、仲間は勝手に婚約指輪だと勘違いしている。
「……アイビー」
アイビーは俺と腕を組み、みんなに微笑みかけた。容姿端麗で大企業の社長令嬢。ドレスアップしたアイビーは、まさに高嶺の花だ。
「いつの間に二人がこうなったんだよ。まさかアスターがアイビーを射止めるとはな」
「射止めるだなんて……」
へたな言い訳が通用する雰囲気ではなく、否定すればするほど勘繰られるのがオチだ。俺は否定も肯定もせず、カウンターの隅でバーボンを口にする。
紅一点のアイビーは仲間に囲まれ、まるで真紅の薔薇のようだった。
気心の知れた仲間と深夜遅くまで飲み、酔い潰れてしまった俺は、仲間に体を支えられ車の後部座席に乗せられた。
そこまでの記憶は、朧気だが微かに残っている。
――だが……
そのあとの記憶は欠落している。
微かに残る記憶の中で、車の後部座席に誰かが乗り込み、甘い香水がふわっと体を包み込んだ。
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