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「失礼ね。本当にデリカシーのない男なんだから。アスターは恋焦がれた女性の元に、ノコノコ自分からやってきたのよ。そして、恋の罠にかかった」


「……これは困ったお嬢様だな」


「アスターは鈍感だから、元恋人に振られるのよ。私は今まで一度も振られたことないの。アスター、どうする?」


「これは……困ったな。ステーキが喉を通らないよ」


「そう? 私はアスターと一緒にクリスマスイヴが過ごせて、こんなに幸せなイヴの夜はないわ」


 アイビーの突然のプロポーズに、俺は戸惑う。

 

 アイビーはバッグから、小さな包みを取り出した。


「はい、アスター。これはクリスマスプレゼントよ。就職祝いも兼ねて奮発したんだからね」


「俺に? ごめん俺、一緒にディナーするつもりもなかったから、何も用意してないんだ」


「いいよ。アスターに期待はしてないもの。早く開けてみて」


「いいのか? じゃあ……遠慮なく。ありがとう」


 包みを開けると、ネクタイピンが入っていた。ネクタイピンにはキラキラと光る宝石がついていた。


「これダイヤだよな。こんな高価なもの受け取れないよ」


「そう言うと思ったわ。でも、返品不可だからね。今すぐ結婚して欲しいとは言わない。別れた恋人のことを忘れてからでいいよ。私、待つの平気だから」


「でも……」


「それは、就職祝いを兼ねたクリスマスプレゼントだから気にしないで。その代わり、私への婚約指輪はそれよりも大きなダイヤにしてね」


「アイビー、君の期待には応えられないよ」


 ネクタイピンの入ったケースを、アイビーに返却すると、アイビーはその手を払い除けた。


「それをつけてくれることが、私へのクリスマスプレゼントだからね。返品不可だと言ったでしょう」


「相変わらずアイビーは強引だよな。昔とちっとも変わらない」


「そうかしら? そこが私のチャームポイントだけど」


 俺は突き返されたケースを背広の内ポケットに入れる。


 ――アリッサム……。

 アリッサムのことを、忘れた訳じゃない。


 だけどアイビーと一緒にいると、夢を追いかけていた頃に戻れた気がして、心が安らいだ。


 ディナーを終え、俺達は近隣の公園までドライブする。その公園は王都ローズの街が一望できた。


 車から降り夜景を見ていると、アイビーが俺にキスをした。柔らかな唇の感触に、アリッサムの顔が脳裏に浮かんだ。


 ――アリッサム……。


 俺は……アリッサムじゃないと、やっぱりダメみたいだな。


 ローズの美しい夜景に、俺の心は惑わされているに過ぎない。

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