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車は港の見えるお洒落なレストランに向かった。レストランに到着した俺達は、窓際の予約席に案内された。
「予約してたのか? もしかして、別の誰かと来る予定だったとか? アイビーほどの美人がクリスマスイヴに予定がないなんて、おかしいと思ったんだ」
「予定したのは一ヶ月前だけど」
「そうか。一ヶ月の間に恋人と別れてフリーになったのか?」
「アスター、レディーに向かって踏み込んだ質問をするのね。いくら先輩後輩の仲だからって、随分じゃない? よーく思い出して、アスターがバレット王国にきたのは、一ヶ月前よ」
「えっ? 俺? まさか……」
アイビーは意地悪な笑みを浮かべて俺を見つめた。
「昔から鈍感だったけど、アスターはちっとも変わってないわね。他の誰かと来るつもりで予約したなら、アスターを誘ったりしないわ」
「俺と来るつもりで……予約したのか?」
「そうよ。アスターは私の誘いは絶対に断らないもの。鈍感な後輩さん、もう質問はいいかしら? そろそろワインで乾杯しない? 今夜は大切な話があるの」
「大切な話?」
「先ずは聖なるクリスマスイヴに乾杯よ」
ボーイがグラスに赤ワインを注ぐ。
俺達は二人で見つめ合い、クリスマスイヴの夜に乾杯をする。
赤ワインを口に含み飲み干す。上品な酸味が口内に広がった。
「アイビー、大切な話って?」
「アスター、一ヶ月も一緒にいて、まだわからないの? 私、最初に言わなかったかしら。『アスターさえよければ、ウィルソン家の婿養子になることも選択肢の一つ』だって」
「それは……」
「ねぇアスター。私と結婚しない?」
俺は唐突過ぎるプロポーズに、赤ワインで噎せ返る。
「……コホコホ」
「やだ。アスターったら、落ち着いて。私は優良物件だと思うけど? 世間の男性はこの状況で『NO』と答える人なんていないわ。それとも、アスターはクビ覚悟で『NO』って言えるの?」
「相変わらず、ブラックジョークだね」
「そこが私のいいところよ。アスターはまだスーザン王国に残した元恋人のことが忘れられないの?」
「恋人じゃないよ」
アイビーは仔羊のステーキをフォークで口に運ぶ。
「そうかしら? どちらでも構わないけど」
アイビーは少し意地悪な笑みを浮かべた。
「私は真剣よ。アスターは全然気付いてくれなかったけど。私は大学生の頃から、アスターのことが好きだったんだからね」
「……えっ? それもブラックジョーク?」
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