微熱 12

アスターside

87

 ――十二月、バレット王国に来て約一ヶ月が経とうとしていた。


 街にはクリスマスソングが流れ、色とりどりにライトアップされた街並は目を見張るほど美しい。


 俺がフリースクールで受け持つ生徒は十代の少年少女。当初は俺を警戒し緊張していたが、今は子供達から話しかけてくれるようになった。


 俺は子供達に勉強を教え、時にスポーツで汗を流す。いずれは子供達がフリースクールを出て学校に戻れるように、子供達の不安を取り除けるように務める。


 ふつうの学校とは異なるが、遣り甲斐のある仕事だ。


「ジョンソン先生、フリースクールはもう慣れました?」


 アイビーは俺に近付き、笑顔で問いかけた。


「ウィルソン先生、フリースクールは子供達の精神面もサポートしなくてはならないため、大変ですね」


「そうでしょう。学年もそれぞれ異なるし、子供達が不登校になった理由も様々だから。フリースクールのスタッフは結構大変なのよ。勉強よりも子供達の不安や不信感を取り除くことが一番重要だから、失敗は許されない」


「プレッシャーかけないでくれよ。新米講師なんだからさ」


「そうね。アスターはとてもよくやってくれてるわ。子供達も信頼してる。やっぱり元教師は違うわね」


「おだてても何も出ないよ」


「それは期待してない。ねぇアスター、仕事はもう終わりでしょう。今日はクリスマスイヴだよ。一緒にディナーしない?」


「ディナー? クリスマスイヴに一緒に過ごす恋人がいないのか?」


「意地悪ね。アスターもいないくせに」


「バレたか。じゃあ寂しい者同士、ディナーに付き合うよ。この資料を片付けたら部屋に戻って着替えてくる」


「じゃあ私も着替えてくるわね。駐車場で待ってるから」


 俺は部屋に戻り、仕事用のスーツから私服に着替え駐車場に向かった。三十分後に駐車場に行くと、アイビーは車の中で俺を待っていた。いつものように専属運転手が一緒だ。


 車中のアイビーは、真紅のドレスに毛皮のコートを纏っている。いつもスーツで男性みたいなファッションばかりしているため、その変貌振りに俺は驚いている。


「……驚いたな。ごめん、待った?」


「こんな美女を駐車場で待たせるなんて、どういう神経かしら。でもビジネススーツより素敵よ」


「ありがとう。ドレスアップしたアイビーは見違えたよ。いつもスーツだから、別人みたいだな」


「ありがとう。クリスマスイヴだから、魔法使いがシンデレラにしてくれたのよ」


「それは気の利いた魔法使いだな。じゃあ、これはカボチャの車?」


 クスクス笑っているアイビー。運転手は無表情で後部座席のドアを開けた。


「カボチャではございませんが、どうぞお乗り下さい」


 俺は運転手のジョークにペコリと頭を下げ、後部座席に乗り込んだ。

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