86

 封筒を開くと、『アリッサムへ』という文字が目に入った。


 ――――――――――――


 アリッサムへ


 アリッサム、今までありがとう。


 アリッサムと暮らした数ヶ月はとても楽しかったよ。


 アリッサムに再会出来たことは、俺にとって幸せな時間だった。


 アリッサムには、明るい未来が待っている。


 いつの日か、アリッサムが教師として教壇に立つ日が来ることを、俺は楽しみにしている。


 俺のことは忘れて、アリッサムは輝ける人生を歩んで欲しい。



 アスター


 ――――――――――――



 ボクの人生……?


 俺のことは忘れて……?


 なに言ってるんだよ?


 ボクの夢は……


 ボクの未来は……


 アスターと一緒に歩むこと。


 教師のくせに、ボクの気持ちがわからないの?


 ――どうして……


 どうして…………。


 勝手に一人で行ってしまうんだよ。


 ボクにさよならも言わず、ボクに嘘までついて、今さらこんな手紙を残して、『いつの日か、アリッサムが教師として教壇に立つ日が来ることを、俺は楽しみにしている』なんて、勝手なことを言わないでよ。


 手紙を握り締め、涙がポロポロ溢れた。


「アリッサム、メソメソしていてもアスターは戻ってはこない。アスターはお前の幸せを第一に考えて、アリッサムの前から消えたんだ。その気持ちもわかってやれ」


 お兄様に……何がわかるというの?


 ボクの何がわかるというの?


 ボクは手紙を握り締め、自分の部屋に入った。

 ドアを閉め、天井を見上げた。


 アスターの噓が見抜けなかった自分が情けなくて。


 アスターに子供扱いされたことが悔しくて。


 それでも……

 アスターを嫌いになることは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る