アリッサムside
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本宅に戻ったボクは自室に隠り、急いで白いボストンバッグに衣類を詰め込んだ。
アスターは明日の午前中に出立する。
ボクも一緒にバレット王国に着いて行く。兄に反対されたら、家出しても構わない。
いや、きっと反対するだろう。
それならば、兄に相談せず強行突破あるのみだ。
外出していた兄が帰宅した。
兄に悟られないように、今夜は平常心を保つ。
「お兄様お帰りなさい」
「ただいま。アリッサム」
兄は段ボール箱を抱えている。
――どうして……お兄様が……?
あの段ボール箱は別宅にあったはず……。
「……それ、アスターのだよね」
「そうだよ。処分してくれと頼まれたからな。コーネリア、この荷物を処分してくれ」
「はい、畏まりました」
コーネリアが段ボール箱を受け取った。
「……待って! コーネリア……」
ボクはコーネリアに走り寄る。
――まさか……?
いや……そんなはずはない……。
アスターの出立は明日の午前中のはず。
――嘘だろう。
「お兄様……アスターに逢ったの?」
「アスターに逢ったよ。今頃はもうバレット王国に向かってるはずだ」
「……嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」
ボクは声を張り上げて泣き叫ぶ!
コーネリアがボクの体を背後から抱きしめた。
「アリッサム様、お可哀想に……」
お兄様はボクの目を見つめた。
「アリッサム、大人になれ。もうアスターは行ってしまったんだ。アスターのことは諦めろ」
――諦めろ……?
さっきまで、アスターはボクの目の前にいたんだ。まだアスターのぬくもりだって、この手に残ってる。
「アリッサム、お前には自分のなすべきことが、他にあるだろう」
自分のなすべきことって……。
そんなこと、わかんないよ……。
両親や兄に従ってずっと性別を偽ってきた。自分の気持ちにまで噓をつく大人になんて、なりたくないよ。
「高校を卒業して、王立大学に進学することが、アスターの一番喜ぶことだからな」
――王立大学……?
そんなもの、今のボクにはどうだっていい……。
床にしゃがみ込み、置かれた段ボール箱を開けた。箱の中には様々な物が入っていた。
一番上に、淡い黄色の封筒があった。
その封筒を手に取ると、表に『アリッサムへ』と小さな文字で書かれていた。
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