アスターside

80

 あれから四日が経ち、俺は退職当日を向かえた。


 その日、最後の教壇に立つ。


「君達の卒業を見届けることなく、こんな形で突然退職することになり本当に申し訳ありません。受験を控えた一番大切な時期にとても無責任だと思うけれど、でも俺は君達の力を信じている。受験まで悔いのないように全力を尽くして下さい。陰ながら、ずっと応援しています。みんな元気で、今までありがとうございました」


 俺は教壇で生徒達に深々と頭を下げた。


「ジョンソン先生……」


「先生ーー……」


 教室の中は生徒達の啜り泣きに包まれ、目頭が熱くなる。


 短い間だったけど、俺のために泣いてくれる生徒がいたことに、万感の思いだ。


 俺は教室の中でただ一つポツンと空いた席に視線を向けた。


 ロータス・ジョーンズ……。

 あれから、ジョーンズは欠席している。


 欠席理由は体調不良ということになっている。


 ジョーンズ、俺は約束通りここから去る。

 だから、ジョーンズも登校しろ。


 ジョーンズの夢も、この学校でちゃんと叶えるんだ。


 俺は最後までアリッサムの顔を見ることが出来なかった。アリッサムと目が合うと、きっと冷静ではいられない。


 俺は生徒達に別れを告げ、教室をあとにした。

 職員室に戻り、校長先生や教職員の皆さんに挨拶をして、花束と餞別をもらった。


 ――これで、本当に……終わったんだな。


 虚しさが胸に過ぎる。


 花束を抱えたまま机に戻り、私物を段ボール箱に詰めた。クラスの生徒と撮影した写真や、生徒からもらったお別れの色紙。


「ジョンソン先生重いでしょう。私、車で送りますよ」


「ブラウン先生はまだ仕事が……」


「これが最後なんです。送らせて下さい」


「……ブラウン先生、すみません。お言葉に甘えようかな」


 ブラウン先生が椅子から立ち上がった時、職員室のドアが開いた。教職員の視線が、一斉にドアに向く。

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