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「先に夕食を済ませて話すよ。その前に着替えてくるから」


「うん、わかった。食事の準備しとくね」


 俺はキッチンに立つアリッサムを残し自室に入る。ベッドの上には綺麗に畳んである部屋着。アリッサムが洗濯物を畳んでくれたんだ。


 部屋着を手に取るとお日様の匂いがした。


 動揺するな、俺は教師だ。

 アリッサムに嘘をつくなんて、容易いことだ。


 ブレザーを脱ぎ、部屋着に着替える。

 気持ちを落ち着かせるために、何度も深呼吸をした。


 自室を出て、ダイニングルームに向かう。


「ああ、お腹すいた。いい匂いだな。今夜はビーフシチューなんだね」


 俺は極めて明るく振る舞う。


「うん、ビーフシチューだよ。お兄様の恋人が焼き立てのパンとチーズを持ってきてくれたんだよ。あの人、料理なんてしないと思ってたけど、パンが焼けるなんて意外だよね。このチーズも王室御用達なんだよ。なかなか手に入らない高級品なんだ。美味そうでしょう」


「王室御用達なんだ。凄いね。彼女、国王陛下に許して貰えたのかな? 確か……国王陛下の侍女なんだよね」


「それはよくわからない。ボクからは聞かないし、向こうも話さないから」


 アリッサムはお皿に焼き立てのパンを乗せ、チーズを切り分け、俺に渡してくれた。テーブルにはビーフシチューの皿が二つ並んでいる。


「ありがとう」


「ジョンソン先生? どーしたの? 元気ないね?」


「食事が済んでから話すよ。さあ、冷めないうちに食べよう」


「なんだよ。さっきから勿体振って。その様子だと、いい話じゃなさそうだね」


「だから、食事のあとに話すよ」


 ガチャンと音がして、スプーンがテーブルに転がる。アリッサムが俺を睨み付けた。


「今、話せよ! なんか変だよ! 何かあったんだろう!」


 アリッサムは昔から、カンの鋭い子供だった。俺が父と喧嘩した日も、俺が進路に悩んでいた時も、アリッサムは『アスター、なにかあった?』って、聞いてきた。


 ジンジャーは俺の変化に全然気付かなかったのに。


「アスター! 何、黙ってるんだよ!」


 ジョンソン先生と呼んでいたくせに、いきなり名前で呼ぶなんて狡い奴だな。名前で呼ばれたら、無視できないだろう。


 視線を向けると、そこにはのアリッサムではなく、のアリッサムがいた。ヤンチャで我が儘で、俺のことを兄のように慕っていたアリッサムの目だ。

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