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 ――その日、俺が提出した退職願のせいで、校長も職員も混乱していた。生徒には後任が決まるまで公表しないことになった。


 引継書の作成で俺の帰宅もいつもより遅くなった。ブラウン先生も俺の残業を手伝ってくれた。


「ジョンソン先生、ご自宅まで送りますよ」


「ブラウン先生、ありがとうございます。でも近いから大丈夫ですよ」


「もう外は暗いし、私、車なので送りますよ。同僚ではありませんか、遠慮しないで下さい」


「……すみません。ではお言葉に甘えて」


 ブラウン先生の親切な申し出を受け、俺はブラウン先生の車に乗り込んだ。女だてらに車の免許を取得し、自家用車を所有しているなんて、裕福な家柄に違いない。


 ブラウン先生は車のエンジンをかけると、俺に視線を向けた。


「……突然で……驚きました。お母さんのご病気はご心配ですね。ジョンソン先生が介護されるとか……。女手がなくて大丈夫ですか?」


「……えぇ……まぁ……。他に兄弟がいないので、俺が面倒見るしかないんです」


「ジョンソン先生、ずっと話そうと思っていたんです。こんな時にいうのも非常識ですが、今でないと言えない気がして……」


 ブラウン先生はエンジンをかけたままアクセルは踏まず、俺に視線を向けた。


「はい、何でしょうか?」


「私はジョンソン先生が赴任された日から、その……ジョンソン先生に想いを寄せていました……」


 ブラウン先生の突然の告白に、俺は驚きを隠せない。


「私、自分から告白するのは初めてなんです。だから、上手く言えないのですが。ジョンソン先生、あなたとこのまま別れると思うと……胸が苦しくて……」


 俺は何と返事をすればいいのかわからない。


 静かな車内に沈黙が流れた。

 暫くして、ブラウン先生が口を開いた。


「ジョンソン先生、介護には女性の手も必要になります。私と結婚前提で交際していただけませんか? 暫くは遠距離になりますが、真剣にジョンソン先生とお付き合いがしたいんです」


「ブラウン先生、突然でどう返事したらいいのか……。ブラウン先生と結婚前提だなんて……」


「そうですよね。す、すみません。お返事は退職されるまでにいただけると幸いです」


 ブラウン先生は頬を赤く染めて、俺を見つめた。学校では凛とした雰囲気で、強い女性のイメージしかなかったが、女子高生のように恥じらう姿に、すぐにノーとは言えなかった。

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