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「いいよ。ジョンソン先生が消えてくれるなら誰にも言わないと約束する。そのかわり俺がジョンソン先生に話したことは、アリッサムに言わないで欲しい」
「……わかった。でも、せめてあと二週間くれないか。引き継ぎもしなければいけないし、この時期に退職となれば後任の先生もきっと大変だから」
「二週間も引き伸ばすつもり? それは不愉快だな。ジョンソン先生が学校に来るなら、俺は二週間学校を休む。家で勉強した方がマシだからね。ジョンソン先生、俺が休んでいる間に消えてくれよな。さもないと、俺は強硬手段に出るから」
俺はジョーンズの命令に従うしかなかった。
――『俺が休んでいる間に消えてくれよな。さもないと、俺は強硬手段に出るから』
ジョーンズなら、俺だけではなくアリッサムを貶めることくらいやりかねないからだ。
「わかった。約束は守る」
「じゃあ、ジョンソン先生、俺は早退します。クリスマスのダンスパーティーの役員は他の人を選出して下さい。俺は二週間病欠扱いにしてもらいます。ジョンソン先生とはもう二度と逢うことはないでしょう。さようなら、ジョンソン先生」
「……わかった」
俺はギュッと唇を噛み締めた。
悔しいけど……ジョーンズの言うことは正論だ。
俺は……教師失格。
呆然としている俺を残し、ジョーンズは視聴覚室を出て行った。
俺はその後ろ姿を、ただ……見つめていた。
――アリッサム……。
アリッサムの将来に傷をつけたりはしない。
アリッサムの未来はこの俺が守る。
アリッサムをこの件に巻き込まない。
俺は視聴覚室を出ると、迷うことなく校長室へ向かった。
廊下を歩きながら、アリッサムとの数ヶ月間を思い出していた。
アリッサムの笑顔……。
アリッサムの怒った顔……。
アリッサムのはにかんだ顔……。
アリッサムの……。
アリッサムが男の娘だとわかったあの日から、俺はいつかこんな日が来ることを、ずっと恐れていたんだ。
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