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「ジョーンズさん、それは間違っている。俺達は同棲なんかしていない。実は……アダムスミスさんのお兄さんは俺の友人なんだ。お兄さんに逢うためにアダムスミス邸を訪れたんだよ。そしたら不在で……アダムスミスさんと二人で待ってたんだ」


「友人が不在だから、わざわざ女装してアリッサムにキスしたのか? ジョンソン先生、それ支離滅裂だよ。教師が生徒にこんなことしていいのかな。俺は……許さないよ。この事実を校長に話すつもりだ」


 ジョーンズは鋭い眼差しで俺を睨み付け背を向けた。


「待ってくれ」


「ジョンソン先生、バラされたら都合が悪いのか? 自分の地位や名誉がそんなに大事なんだ。サイテーだな」


 完全に俺の負けだ……。


「俺のことはどうでもいい。そんなことをすればアダムスミスさんの将来に傷が付く」


「ジョンソン先生、同棲してることを認めるんだ。ジョンソン先生のせいで、アリッサムも退学だよ。アダムスミス公爵の逆鱗に触れ、ジョンソン先生も教員免許剥奪されればいい」


「アダムスミスさんに落ち度はない。俺が……一方的に好意を寄せていただけ。だが、決して疾しい関係なんかじゃない」


「ジョンソン先生、そんなこと信じられないよ。でも……俺はアリッサムが好きだ。だから、俺もアリッサムを退学にしたくない」


「ジョーンズさん、アダムスミスさんと君は同性……」


「同性? アリッサムが同性か……。たとえそうだとしても俺は真剣なんだ。ジョンソン先生みたいにふしだらな気持ちは一切ない。俺はこのまま何もなかった顔をしてジョンソン先生が教壇に立つなんて許せない。ジョンソン先生、自分でケジメをつけてよ」


「……ケジメ?」


「今すぐに辞めて下さい。アリッサムの前から消えてくれ。ジョンソン先生が消えてくれたら、このことは世間に公表しない。俺の胸に留めておく」


「今すぐは無理だ。こんな大切な時期に突然退職するなんて……」


「俺達にとって今が一番大切な時期だから、ジョンソン先生に消えて欲しいんだよ。ハレンチ教師に指導されるなんて、みんな迷惑だよ」


「……そうだな。迷惑だよな。俺が退職したら、この件は黙っていてくれるんだな」


 赴任して間もないのに突然退職するなんて、非常識にもほどがある。


 だがジョーンズは俺が断れば、見たことを全て校長に話すだろう。ジョーンズ公爵令息の証言だ。校長も彼の話を鵜呑みにするはず。


 それに、ジョーンズの話は満更嘘ではない。寧ろ……あたっている。


 俺の思考回路は混乱し、正常な判断が出来なくなっていた。


 その時の俺は、世間体や自分のことよりも、どうすればアリッサムを守れるのか、そのことだけを考えていた。

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