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「アダムスミス公爵はこの辺りの領主なんだろう。お兄様が代わりを務めているのか? 兄弟の二人暮らしは大変だよな。アリッサムは別宅に住んでいるんだよね?」
「以前はお兄様が別宅に住んでいたけど、今は本宅に住んでいるんだ。両親が不在だから、お兄様は自由を満喫している。恋人と同棲しているんだよ。だからボクは別宅に住んでる」
「そうなんだ。アダムスミス公爵家には侍女や使用人もたくさんいるんだろう?」
「以前はいたけど今は一人もいないよ。お兄様がみんなに暇を出したから。だから家事もしないといけないし、大変なんだよ」
「一人もいない?」
「信じられないよね。恋人との生活を優先するために、ボクまで本宅から追い出したくらいだからね」
アリッサムを本宅から追い出した?
「アリッサムは一人で別宅に住んでいるのか?」
「ロータス、さっきから変だよ。どうしてそんなことを聞くの?」
アリッサムー……。
君とジョンソン先生の真実が知りたいからだよ。
始業のチャイムが俺の疑念を封印する。
昼休憩になり、俺はいつものようにアリッサムの隣で一緒にランチをした。もちろん二人きりではない。気の合う数名の友達も一緒だ。
アリッサムのランチボックスの中身は、とてもカラフルでサラダも入っているが、ボリュームのあるビーフやフライドチキン、ハンバーガーも入っていて、以前から男子が喜びそうなメニューだと常々感じていた。
ジョンソン先生とアリッサムが同棲しているのなら、もしかしたらジョンソン先生も同じメニューではないだろうか?
そうだとしたら、同棲の決定的な証拠になる。
「アリッサム、そのランチ、シェフが作ってるのか?」
「今はシェフも侍女もいないよ。ボクが作ってるんだよ。お兄様は何もしないからね」
「アリッサムが料理するのか? 凄いな。このフライドチキン美味そう」
「そう? 食べていいよ」
「いいのか? 遠慮なくいただきます」
俺はフライドチキンを掴み齧り付く。
皮はカリッとしていて香ばしい、柔らかでジューシーな肉の味が口内に広がる。
「美味しい! 料理なんて誰に教わったんだ?」
「以前働いていた侍女のコーネリアに教わったんだ」
侍女のコーネリア?
もしかして、女装していたジョンソン先生のこと? 世間を欺くために、別宅ではコーネリアと呼んでいるのか?
そう感じた俺は、ジョンソン先生のランチボックスの中身を確かめたくなった。
「アリッサム、俺、用事を思い出した。フライドチキンありがとう」
「どういたしまして」
俺は椅子から立ち上がる。
「ロータス、まだランチ残ってるよ?」
「美味いフライドチキンをご馳走になったからもう十分だよ。ありがとう」
俺はランチボックスを鞄にしまうと、教室を出て一階の職員室に向かった。ドアをノックし、一礼して入室すると、ジョンソン先生の姿はなかった。
「ブラウン先生、ジョンソン先生は?」
「あら、ジョーンズ君、ジョンソン先生は視聴覚室よ。あなた達の進路のことで、昼休憩の合間も資料整理やファイリングをしてるのよ。熱心でいい先生だよね。私には真似できないわ」
――ジョンソン先生が、熱心でいい先生?
熱心でいい先生は、生徒と同棲しないよ。
ジョンソン先生は非常識な淫行教師だ。
俺は職員室を出ると、真っ直ぐ視聴覚室に向かった。
昼時間は誰もいない五階の廊下を、足音を立てないように一人で歩く。
アリッサムとジョンソン先生の関係を、ジョンソン先生の口からちゃんと聞きたかった。
もしも二人が同棲していたとしても、俺のアリッサムをジョンソン先生なんかに渡さない。
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